総合電機のお手本、GEからシーメンスに
デジタル製造業への転身を急ぐ
日立製作所が英国で進めていた原子力発電所の新設計画を凍結することを決めた。2019年3月期連結決算で、約3000億円の損失を計上する。ただ、今回の決断によって米中貿易摩擦などマクロ経済の影響を除けば、日立にとって「唯一にして最大のリスク」が低減したことになる。IoT(モノのインターネット)を軸にしたデジタル製造業への転身を急ぐ。
重電各社が今後、力を入れるのがIoT分野だ。産業分野には現場の機器データを吸い上げ、分析し、生産効率化につなぐ市場が大きく広がる。
欧州を中心に世界で延べ1万社以上の顧客をつかむのはドイツ・シーメンス。開発から製造、調達まで事業プロセスのほぼ全領域をサイバー空間で統合管理するプラットフォームを持つ。シーメンスの圧倒的な強みは、自社の産業機器がすでにさまざまな工場に入り込んでいるところだ。この強みを生かし、製造業のデジタル化を後押しする。
三菱電機も現場起点で工場の生産効率化を支援する。杉山武史社長は「機器の強さを活かしながら、今までにないソリューションを提供していく」と展望を語る。
経営再建中の東芝もIoT分野の強化を急ぐ。後発ではあるものの、車谷暢昭会長兼CEOは、大きなプラットフォームで全ての市場と対峙(たいじ)するのではなく、「二つ、三つ勝てればいい」と語る。POS(販売時点情報管理)や送配電など、シェアが高い事業でのデジタル技術の融合を模索する。
一方、迷走が続くのが米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。あらゆる産業機器のIoTのデファクトスタンダード(事実上の標準)を目指し、プラットフォーム「プレディクス」を投入したが、結果は鳴かず飛ばず。18年末にはデジタル関連事業の分社など事業再編を発表した。
IoTはソフトに傾きがちだが、ハードの基盤を軽視すれば、GEの二の舞いになりかねない。米グーグルが電力事業に触手を伸ばすなど、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)もサイバー空間だけでなく事業を広げつつある。「確実に勝てるところで戦う」(車谷東芝社長)目利きも問われる。
228億ドル(約2兆6000億円)―。20世紀の多角化の教科書とも言われたGEが18年7―9月期の当期損益で計上した赤字だ。
事業構造見直しはGEの十八番だったが、その歯車が狂い始めている。誤算の始まりは、15年の仏重電大手、アルストムの買収。買収後に欧州を中心に石炭火力発電への逆風が強まり、減損処理損失は158億ドルに達した。
一方、GEが栄華を極めたころ、低収益率に苦しんでいたのがシーメンス。90年代末に「10ポイントプログラム」に着手。利益率10%を目指し、事業の見直しを始めた。00年代半ば以降は半導体やパソコン、自動車部品、原子力なども切り離している。利益率が1桁で将来性が見込めない事業は撤退や売却することで、ここ十数年で事業の半分を入れ替えた。
多くの日本の重電メーカーは「ベンチマークはシーメンス」と声をそろえる。15―17年度も利益率10%程度を維持しており、今やGEに代わり日本企業の教科書といえよう。
国内では08年秋のリーマン・ショック後、各社は事業構造の見直しへ重い腰を上げた。リーマン・ショックの打撃が小さかったのは三菱電機。他社よりも先に携帯電話や半導体の事業を整理したことが奏功したが、日立と異なり、ここ10年で事業ポートフォリオは大きく変わらない。
杉山社長は「競合に比べるとかなり絞り込んでいる。ただ、20年度以降を見据えた場合、成長分野にあてる人が足りず、既存の人員をシフトする必要がある。もう一段の選択と集中が必要だ」と語る。
<関連記事>
●老舗重電メーカーに多角経営の成功モデルを見た
重電各社が今後、力を入れるのがIoT分野だ。産業分野には現場の機器データを吸い上げ、分析し、生産効率化につなぐ市場が大きく広がる。
欧州を中心に世界で延べ1万社以上の顧客をつかむのはドイツ・シーメンス。開発から製造、調達まで事業プロセスのほぼ全領域をサイバー空間で統合管理するプラットフォームを持つ。シーメンスの圧倒的な強みは、自社の産業機器がすでにさまざまな工場に入り込んでいるところだ。この強みを生かし、製造業のデジタル化を後押しする。
三菱電機も現場起点で工場の生産効率化を支援する。杉山武史社長は「機器の強さを活かしながら、今までにないソリューションを提供していく」と展望を語る。
経営再建中の東芝もIoT分野の強化を急ぐ。後発ではあるものの、車谷暢昭会長兼CEOは、大きなプラットフォームで全ての市場と対峙(たいじ)するのではなく、「二つ、三つ勝てればいい」と語る。POS(販売時点情報管理)や送配電など、シェアが高い事業でのデジタル技術の融合を模索する。
一方、迷走が続くのが米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。あらゆる産業機器のIoTのデファクトスタンダード(事実上の標準)を目指し、プラットフォーム「プレディクス」を投入したが、結果は鳴かず飛ばず。18年末にはデジタル関連事業の分社など事業再編を発表した。
IoTはソフトに傾きがちだが、ハードの基盤を軽視すれば、GEの二の舞いになりかねない。米グーグルが電力事業に触手を伸ばすなど、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)もサイバー空間だけでなく事業を広げつつある。「確実に勝てるところで戦う」(車谷東芝社長)目利きも問われる。
228億ドル(約2兆6000億円)―。20世紀の多角化の教科書とも言われたGEが18年7―9月期の当期損益で計上した赤字だ。
事業構造見直しはGEの十八番だったが、その歯車が狂い始めている。誤算の始まりは、15年の仏重電大手、アルストムの買収。買収後に欧州を中心に石炭火力発電への逆風が強まり、減損処理損失は158億ドルに達した。
一方、GEが栄華を極めたころ、低収益率に苦しんでいたのがシーメンス。90年代末に「10ポイントプログラム」に着手。利益率10%を目指し、事業の見直しを始めた。00年代半ば以降は半導体やパソコン、自動車部品、原子力なども切り離している。利益率が1桁で将来性が見込めない事業は撤退や売却することで、ここ十数年で事業の半分を入れ替えた。
多くの日本の重電メーカーは「ベンチマークはシーメンス」と声をそろえる。15―17年度も利益率10%程度を維持しており、今やGEに代わり日本企業の教科書といえよう。
国内では08年秋のリーマン・ショック後、各社は事業構造の見直しへ重い腰を上げた。リーマン・ショックの打撃が小さかったのは三菱電機。他社よりも先に携帯電話や半導体の事業を整理したことが奏功したが、日立と異なり、ここ10年で事業ポートフォリオは大きく変わらない。
杉山社長は「競合に比べるとかなり絞り込んでいる。ただ、20年度以降を見据えた場合、成長分野にあてる人が足りず、既存の人員をシフトする必要がある。もう一段の選択と集中が必要だ」と語る。
<関連記事>
●老舗重電メーカーに多角経営の成功モデルを見た
日刊工業新聞2019年1月18日の記事から抜粋