自動運転キーデバイスに出資のニコン、自動車産業に食い込めるか
ベロダイン・ライダーに2500万ドル出資
ニコンは自動運転のキーパーツであるレーザーレーダー「LiDAR(ライダー)」を手がける米ベロダイン・ライダーに2500万ドル(約27億円)を出資した。出資比率は非公表。ベロダインは自動運転向けライダーのトップ企業で、米グーグルの実験車両にも採用された実績を持つ。ニコンは今回の出資を通じ、自社の光学・精密技術とベロダインのセンサー技術を合わせた技術開発などを検討していく。
(日刊工業新聞2018年12月24日掲載)
現在、ライダー市場では、米ベロダイン・ライダーのほか、独イベオや、米クアナジー・システムズ、パイオニアなどといった日米欧企業が競争を繰り広げている。ポイントは小型化と低価格化で、先行するベロダインに対し、クアナジーはベロダインとはタイプの異なる回転機構を持たないライダーで対抗している。測距範囲は限定されるが、より小型化を見込める。ニコンは、今後のベロダインの技術協力内容について詳細を明らかにしていないが、ニコンの技術を生かして、小型化・低価格化という路線を推し進めると予想される。ニコンが自動運転の「目」として存在感を示せるか、注目される。
自動運転車のキーパーツとも言えるライダー(LiDAR=光検出・測距)センサーを巡って、低コスト化競争が巻き起こっている。この分野のリーダー企業である米ベロダイン・ライダー(カリフォルニア州モーガンヒル)は、ライダーの量産工場を開設したと発表。1月初めにラスベガスで開かれたCESでは、米クアナジー・システムズ(同サニーベール)が可動部のない小型・低価格ライダー「S3」の量産出荷を2017年に開始すると明らかにした。米グーグルの親会社から分離独立した自動運転開発子会社のウェイモも自前でのセンサー開発に乗り出している。自動運転車の実用化に向けて、値段の高さがネックだったライダーの低コスト化が進みそうだ。
ライダーはパルス状に照射したレーザー光による散乱光を測定することで、離れたところにある対象物までの距離や3次元形状を分析するための技術。自動運転はじめ、先進運転支援システム(ADAS)、ロボット、ドローン、セキュリティー、工場自動化(FA)などさまざまな分野で、リアルタイム3Dマッピングや物体検知が行えるセンサーとして注目されている。ただ、レーザーで全方位をスキャンする回転機構を持つことから、仕組みが複雑で高コスト化が避けられなかった。
ベロダインは16年に米フォードと中国・百度(バイドゥ)から1億5000万ドルの出資を受けており、この資金をもとに量産工場の「メガファクトリー」をシリコンバレーのサンノゼに開設した。すでに小規模ながら、最上位モデル「HDL-64E」の生産に入っている。この機種は、64本のレーザービームを360度の全方位に照射し毎秒220万ポイントのデータを処理しながら、最長120メートルの距離から2センチメートル未満の精度で距離測定が行える。18年には年間100万台以上のライダーセンサーの生産を見込んでいるという。
一方で、クアナジーのS3は回転機構を持たないソリッドステート型。全方位ではなく120度のレーザー照射角を持ち、車体のパネル前面などに取り付ける。目立たないため、デザイン上の美観を損なうことがないという。量産により1個あたり250ドル未満にまでコストが下げられ、数年後には100ドルの低価格タイプの商品化も計画しているとされる。
以前は、グーグルが開発する自動運転車にもベロダイン製のライダーが使われていたが、グーグル側では現在、自社開発に切り替えている。16年12月に発足したウェイモは、米デトロイトで1月に開催された北米自動車ショーで、フィアット・クライスラーのミニバン「パシフィカ・ハイブリッド」をベースにした自動運転車を公開するとともに、ライダーをはじめとするセンサーシステムの自社開発も明らかにした。
「2009年にグーグルで自動運転プロジェクトをスタートさせた時、車の屋根に設置したライダーは1個あたり7万5000ドルもした」。ウェイモのジョン・クラフチックCEOは北米自動車ショーでこう述べ、自社開発のライダーはそのわずか10%のコストで製造されていると胸を張った。
現在ではベロダインのセンサーも数千ドルにまで価格が下がっているが、ウェイモでは、ベロダインと競合する中距離タイプだけでなく、近距離タイプと、これまで市場になかった長距離タイプの3種類のライダーを実用化したという。加えて、雨や霧、雪といった気象条件ではライダーの光が空気中の水分で散乱されることもあるため、カメラのほか、歩行者や自転車など動きが遅い物体でも捕捉しやすくした自前のレーダーシステムもパシフィカの自動運転車に搭載している。
クラフチックCEOはブルームバーグの取材に対し、将来、こうしたシステムを他の自動車メーカーにも販売する可能性があると回答。中でも昨年12月にウェイモはホンダと自動運転技術を共同研究することで基本合意しており、ウェイモのセンサーやソフトウエア、コンピューターなどの自動運転システムをホンダ車に搭載し、米4都市の公道で走行試験を実施する予定となっている。
追い上げられている格好のベロダインだが、低コストのソリッドステート型の実用化に向けても手を打ってきている。昨年12月には米エフィシェント・パワー・コンバージョン(EPC)と協力し、ライダーのコア部品となる4ミリメートル角の窒化ガリウム(GaN)ICチップの回路デザインを開発したと発表。「ソリッドステート型ライダーに向けたブレークスルー」として、小型化と信頼性向上、低コスト化につながるとしている。
(日刊工業新聞電子版2017年1月22日掲載)
(日刊工業新聞2018年12月24日掲載)
期待のLiDAR市場、日米欧で競争が激化
現在、ライダー市場では、米ベロダイン・ライダーのほか、独イベオや、米クアナジー・システムズ、パイオニアなどといった日米欧企業が競争を繰り広げている。ポイントは小型化と低価格化で、先行するベロダインに対し、クアナジーはベロダインとはタイプの異なる回転機構を持たないライダーで対抗している。測距範囲は限定されるが、より小型化を見込める。ニコンは、今後のベロダインの技術協力内容について詳細を明らかにしていないが、ニコンの技術を生かして、小型化・低価格化という路線を推し進めると予想される。ニコンが自動運転の「目」として存在感を示せるか、注目される。
ベロダインVSクアナジー、低コスト化競争
自動運転車のキーパーツとも言えるライダー(LiDAR=光検出・測距)センサーを巡って、低コスト化競争が巻き起こっている。この分野のリーダー企業である米ベロダイン・ライダー(カリフォルニア州モーガンヒル)は、ライダーの量産工場を開設したと発表。1月初めにラスベガスで開かれたCESでは、米クアナジー・システムズ(同サニーベール)が可動部のない小型・低価格ライダー「S3」の量産出荷を2017年に開始すると明らかにした。米グーグルの親会社から分離独立した自動運転開発子会社のウェイモも自前でのセンサー開発に乗り出している。自動運転車の実用化に向けて、値段の高さがネックだったライダーの低コスト化が進みそうだ。
ライダーはパルス状に照射したレーザー光による散乱光を測定することで、離れたところにある対象物までの距離や3次元形状を分析するための技術。自動運転はじめ、先進運転支援システム(ADAS)、ロボット、ドローン、セキュリティー、工場自動化(FA)などさまざまな分野で、リアルタイム3Dマッピングや物体検知が行えるセンサーとして注目されている。ただ、レーザーで全方位をスキャンする回転機構を持つことから、仕組みが複雑で高コスト化が避けられなかった。
ベロダインは16年に米フォードと中国・百度(バイドゥ)から1億5000万ドルの出資を受けており、この資金をもとに量産工場の「メガファクトリー」をシリコンバレーのサンノゼに開設した。すでに小規模ながら、最上位モデル「HDL-64E」の生産に入っている。この機種は、64本のレーザービームを360度の全方位に照射し毎秒220万ポイントのデータを処理しながら、最長120メートルの距離から2センチメートル未満の精度で距離測定が行える。18年には年間100万台以上のライダーセンサーの生産を見込んでいるという。
一方で、クアナジーのS3は回転機構を持たないソリッドステート型。全方位ではなく120度のレーザー照射角を持ち、車体のパネル前面などに取り付ける。目立たないため、デザイン上の美観を損なうことがないという。量産により1個あたり250ドル未満にまでコストが下げられ、数年後には100ドルの低価格タイプの商品化も計画しているとされる。
以前は、グーグルが開発する自動運転車にもベロダイン製のライダーが使われていたが、グーグル側では現在、自社開発に切り替えている。16年12月に発足したウェイモは、米デトロイトで1月に開催された北米自動車ショーで、フィアット・クライスラーのミニバン「パシフィカ・ハイブリッド」をベースにした自動運転車を公開するとともに、ライダーをはじめとするセンサーシステムの自社開発も明らかにした。
「2009年にグーグルで自動運転プロジェクトをスタートさせた時、車の屋根に設置したライダーは1個あたり7万5000ドルもした」。ウェイモのジョン・クラフチックCEOは北米自動車ショーでこう述べ、自社開発のライダーはそのわずか10%のコストで製造されていると胸を張った。
現在ではベロダインのセンサーも数千ドルにまで価格が下がっているが、ウェイモでは、ベロダインと競合する中距離タイプだけでなく、近距離タイプと、これまで市場になかった長距離タイプの3種類のライダーを実用化したという。加えて、雨や霧、雪といった気象条件ではライダーの光が空気中の水分で散乱されることもあるため、カメラのほか、歩行者や自転車など動きが遅い物体でも捕捉しやすくした自前のレーダーシステムもパシフィカの自動運転車に搭載している。
クラフチックCEOはブルームバーグの取材に対し、将来、こうしたシステムを他の自動車メーカーにも販売する可能性があると回答。中でも昨年12月にウェイモはホンダと自動運転技術を共同研究することで基本合意しており、ウェイモのセンサーやソフトウエア、コンピューターなどの自動運転システムをホンダ車に搭載し、米4都市の公道で走行試験を実施する予定となっている。
追い上げられている格好のベロダインだが、低コストのソリッドステート型の実用化に向けても手を打ってきている。昨年12月には米エフィシェント・パワー・コンバージョン(EPC)と協力し、ライダーのコア部品となる4ミリメートル角の窒化ガリウム(GaN)ICチップの回路デザインを開発したと発表。「ソリッドステート型ライダーに向けたブレークスルー」として、小型化と信頼性向上、低コスト化につながるとしている。
(日刊工業新聞電子版2017年1月22日掲載)
日刊工業新聞2018年12月24日掲載