富士通が「向井千秋」を社外取締役に起用した理由

大きいプロジェクトを推進してきた経験は何ものにも代え難い。東京理科大副学長にも就任

 医師で宇宙飛行士の向井千秋氏が、東京理科大学副学長と富士通の社外取締役に就任し、大学教育分野と産業界に新風を吹き込もうとしている。もとより宇宙や医学以外でも活躍の場は広く、日本学術会議副会長や国の教育再生実行会議にも名を連ね、安倍政権が進める女性活用推進でも旗振り役を担っている。活躍の舞台を広げる向井氏に東京理科大副学長としての抱負を聞くとともに、富士通の社外取締役としての役割を探る。
 
 【多様性の一環】
 富士通が向井氏を社外取締役として迎え入れた理由は奥深い。一般にはダイバーシティー(多様性)の一環として、女性活用の推進が脚光を浴びているが、富士通側の期待はもっと大きい。

 同社が強みとするシステム構築(SI)などよりも大きいプロジェクトを推進してきた経験は何ものにも代え難い。藤田正美副社長は「技術系の非常勤取締役で、コンピューター系以外から就任したのは初めて。当社の役員が持っていない知識を備え、しかも経営に役立つことを指摘してもらえる」と太鼓判を押す。

 富士通は6月22日の株主総会をもって、田中達也社長が登板し、新体制をスタートさせた。取締役は会長、社長を含め計12人。社外取締役は4人。うち女性が2人だが、グローバルではまだ少ない。 

 欧米のIT業界に目を向けると、米IBMや米ヒューレット・パッカード(HP)などを筆頭に名だたる企業で女性経営者が活躍している。富士通でも女性幹部社員の数は着実に増えているが、全社比は4%程度。一般の女性従業員は2013年度に全社比18%で、16年度には同30%を目指している。向井氏の就任により、ダイバーシティーへの取り組みが加速しそうだ。
 
 富士通はコーポレートガバナンスコードへの対応が問われる中で取締役選定の諮問機関である「指名委員会」が中心となって、独立役員である社外取締役の役割について議論を重ねた。「いかに株主の意見をくみ取れて、かつ会社に対して意見がいえる人物を前提に考えた。そうすれば株主の権利を守れる」と、藤田副社長は人選の経緯を打ち明ける。
 
 突き詰めるところは二つ。一つは「内部からは切り出しにくい(事業撤退などの)“選択と集中”について客観的にモノが言える人」。もう一つは人材育成。「究極の人材育成は次の社長を誰にするかだ」という。同社は数年前にトップを巡る“お家騒動”で大揺れとなった。指名委員会はそのときに誕生した。

 社長選びは取締役会で決め、指名委員会に諮問する。この手順は現在も変わっていないが、外部の意見をより反映できる布陣としたことで透明性が高まった。「当社は委員会制ではないが、客観的に判断できる組織を持てたのはよかった。そうでないと、対株主で説明責任がとれない」(藤田副社長)というわけだ。

 社外取締役では向井氏の存在が際立っているが、「外部目線で意見を言ってくれる人」という意味では、産業創成アドバイザリー代表取締役の阿部敦氏も見逃せない。阿部氏は半導体や電機業界に詳しくM&A(合併・買収)にも精通している。
 
 【世界目線で強化】
 このほか、新体制では初の外国人取締役(常勤)としてダンカン・テイト執行役員常務が就任し、課題だったグローバル目線も強化された。藤田副社長は「ダンカン・テイト氏が参加することで、取締役会の雰囲気は変わるはず。彼の意見を非常勤の役員も聞いて欲しい」と期待を寄せる。
 
 宇宙ステーションの置かれた厳しい環境を「資源の少ない日本」に見立て、「宇宙での経験は介護や高齢化など日本が抱える課題解決にも役立つ」と向井氏は熱弁を振るう。宇宙ステーションで生活するには空気の浄化やゴミのリサイクルが必須で、環境対策に直結する。また、宇宙ではブルーライトをうまく使って1日のメリハリをつけている。そのノウハウは中高年層の認知症予防にも役立つ。

 これらは一例だが、環境問題や医療・介護の課題は富士通が情報通信技術(ICT)企業として取り組むテーマに合致する。向井氏肝いりの新たなプロジェクトの発足も期待される。

日刊工業新聞2015年07月30日深層断面

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明 豊

明 豊
08月02日
この記事のファシリテーター

アイコン的な要素も当然あるだろうが、宇宙飛行士の視点というのはとても興味深い。

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