<社説この一選!7月編>アルストム買収で巨大化するGE。東芝は切り捨てられる?
日本企業は攻勢に備え新たな戦略練れ
リスク“チャレンジ”するなら「主従」の局面が変わる可能性も
2013年1月25日付
東芝と米ゼネラル・エレクトリック(GE)はガス火力分野で提携を強化することになった。今後、合弁会社の設立を検討するが、提携の内容は極めて限定的で、現状で大きなインパクトはないだろう。火力発電設備事業を統合する三菱重工業と日立製作所への対抗をアピールする狙いもある。だが商売上手のGEに対し、東芝が実利を得られるかは未知数だ。
「(東芝とGEは)これまでも一緒にやっているから想定の範囲内。ああ、そうかと思ったくらい」。三菱重工の首脳に驚きはない。すでに販売や開発で協力関係にあり、合弁会社が設立されても、今の枠組みの延長線という見方だ。
安価な天然ガスを燃料とする火力発電所の新設需要はグローバルで期待できる。東芝はガスタービン複合発電(GTCC)向け蒸気タービンの供給を狙うが、これまでの販売協力は日本とアジア限定だった。米国の発電プラントなどは、GEが自社のガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて使うケースが多い。
提携強化で、GEのグローバル戦略で東芝を優先するかが焦点の一つ。ただGEにとって東芝は重要な調達先ではあるが、火力発電ビジネスにおける運命共同体ではない。これまでもGEのビジネスライクな行動原理で、日本の重電メーカーは翻弄(ほんろう)されてきた。
GEとの提携で思い出されるのが、2007年に原子力事業を事実上統合した日立製作所。前年に東芝が米ウエスチングハウス(WH)を買収し、それがGE―日立を接近させるきっかけになった。火力と原子力では事業環境は異なり、提携内容もまったく違うが、ライバル企業へのカウンターとしてGEが“駆け込み寺”になった点は共通する。しかし日立はGEとの原発合弁で、ほとんど成果を上げられていない。
GEは発電プラントの受注で、リスクのあるEPC(設計、調達、建設)の主契約者にはならないことで知られている。「どこにビジネスのうま味があるか知り尽くしている」(日立幹部)からだ。東芝は合弁を足がかりに、海外市場でGTCC案件の主契約者になるぐらいのリスクチャレンジをするなら、「主従」の局面が変わる可能性もある。
東芝の発電設備事業の売上高は9500億円程度(13年3月期予想)。火力の実績は明らかにしていないが、16年3月期には3500億円まで伸ばす考え。ただ現状、原子力と火力の両にらみで、社内の経営資源は限られる。今後は発電設備全体の事業構成をどうするかも焦点になる。
今回の発表によって、重電分野の業界再編に火が付くというのは拙速すぎるだろう。一方で、電力をはじめ社会インフラ事業において、日本企業が自力でグローバル展開することがいかに難しいか、という根本的な問題は厳然としてある。
事業統合まで踏み込んだ三菱重工と日立も、日本連合の域を出ない。GEや独シーメンスは現地化の深耕で遠く先を行く。10年、20年先を見据え海外勢とうまく付き合いながら、したたかにノウハウを蓄積していく必要がある。