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<社説この一選!7月編>アルストム買収で巨大化するGE。東芝は切り捨てられる?

日本企業は攻勢に備え新たな戦略練れ
 ニュースイッチが独断で選ぶ7月の社説この一選は、GEのアルストム買収が正式に認められることになり、GE・アルストム連合の脅威に対し、日本勢へ警鐘を鳴らす内容。社説では主に対抗する企業として日立製作所の火力事業を事実上取り込んだ三菱重工業について焦点を当てている。三菱重工も米国の原発故障で巨額の賠償請求が発生するなどエネルギー事業のポートフォリオをもう一度再構築する必要がある。

 しかし今回はあえて東芝の視点で考えてみたい。不正会計で危機にある東芝は、各事業で構造改革が避けて通れない。佐々木則夫氏が社長時代末期の2013年、三菱重工と日立の火力統合に慌てた東芝は、GEとの提携強化を発表した。しかしその実態は内容の伴わないものだった。GEはアルストムを手に入れたことで、東芝との関係がさら遠いものになる可能性がある。

 東芝は思い切ってGE・アルストム連合のサークルに飛び込んでいくのか。社説とほぼ同じタイミングで掲載された東芝の連載企画と、さらに2年前のGEとの提携について書かれた記事も改めて紹介する。

 <社説=7月28日付>
 米ゼネラル・エレクトリック(GE)が仏アルストムのエネルギー事業の買収を決めたのが2014年6月。それから1年以上が経過したが、欧州委員会が大型ガスタービン市場の競争阻害要因になると懸念を表明し、審査が続いている。GE側は欧州当局に妥協案を提示しており、9月にも認可される公算が大きい。そうなればエネルギー・重電分野の競合企業の脅威になることは間違いない。日本勢には、これに対抗するための新たな戦略が求められる。

 GEは金融事業から事実上撤退し、家電事業をスウェーデンのエレクトロラックスに売却。得意のエネルギー事業や航空機用エンジンに経営資源を集中する戦略の大転換を打ち出している。GEのジェフリー・イメルト最高経営責任者は「我々のコアコンピタンスであるインダストリアル業界に唯一無二のチャンスをみつけた」と、製品を軸に顧客を囲い込む新たなビジネスに意欲をみせている。例えばガスタービンに多数のセンサーを埋め込み、温度や振動の情報を元に部品交換などの最適な時期、方法を提案するサービスだ。顧客基盤が大きいほど低コスト化できる。

 一方、昨年アルストムの買収合戦に敗れた三菱重工業の前川篤副社長は、GEの買収手続き難航で「時間を稼げた」という。今後の攻勢に対しても「三菱重工の総力を集め、新しい提案をする」と自信をみせる。

 その一つが火力発電と造船を組み合わせた洋上液化天然ガス(LNG)発電設備。大型船舶にタンクや再ガス化装置、ガスタービン、蒸気タービンなどを搭載したもので、コストは陸上プラントと遜色がない。離島の多いインドネシアや中東から引き合いがある。

 また顧客のプラントをネットワークを介して遠隔運転する技術も実証段階に入っているという。こうしたサービスを発案できるのは、設計・調達・建設を一体受注する大型工事に挑んできたからだ。顧客と信頼関係を結び、プラントすべてを任される泥臭い関係にこそ、製造業とITが融合した新たなサービスの基盤がある。

GEとの提携はアドバルーン経営の象徴。今度は真剣な枠組みに発展するか?


2015年7月29日付・連載「東芝―復権への道程」より


 東芝が再建するには、収益基盤の強化が欠かせない。特に発送電設備事業など主力のインフラ分野で、稼ぐ力を強める必要がある。重電業界では同事業を巡って再編の動きが活発化し、海外勢の攻勢が強まっている。東芝が国際競争で勝ち残るには、どんな手を打つべきなのか。

 東芝が不適切会計を起こした背景の一つに、実力以上の収益を求めた点がある。このため再発を防ぐには、主力事業の競争力を強化し高収益体質に転換する必要がある。

 インフラ分野では、需要が拡大する火力発電設備の戦略に注目が集まる。東芝は競争力のある高効率火力発電設備事業で、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と提携。東芝の蒸気タービン・発電機とGEのガスタービンを組み合わせて供給してきた。ただGEは同業の仏アルストムと発電設備事業で買収計画を進めており、いずれGE・アルストム連合が整う。今後、GEはアルストムの蒸気タービンを活用することも考えられ、東芝の役割が薄まる恐れもある。

 【相乗効果を強調、したたかに協力を】
 そこで東芝はGE・アルストム連合との協力関係を密にし、海外で協業する意向を示していた。かつて田中久雄前社長は「それぞれ得意分野がある。バリエーションが増え、顧客の要望に合わせて提案できる」と相乗効果を強調していた。
 
 不適切会計問題の発生に伴い、GE・アルストム連合との問題は目立たなくなったが、東芝の火力発電設備事業にとって大きな転換点でもある。座視すれば、巨大化するGEに三菱重工業と独シーメンスが対抗する構図が一段と強まり、東芝は国際競争から取り残される恐れがある。
 
 火力発電市場は新興国などで潜在需要が大きく、競合他社は攻勢を強めている。東芝も同様に海外展開を加速させるには、GE・アルストム連合との関係強化を急ぐしかない。GEとは原子力発電設備や医療機器で競合分野もあるが、実利を得るにはしたたかな協力関係も必要だ。
 
 課題は従業員の士気の低下だ。不適切会計問題を受け、営業現場が萎縮すれば、受注を取り逃がす懸念もある。また低採算案件のリスクを過度に意識すれば、機会損失が生じる可能性もある。法令順守の意識を徹底させると同時に、現場の士気を高める施策が求められる。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
火力は枠組みが固まり動きにくい状況になった。それよりも今後、注目は原子力事業。こういう状況になると、東芝は海外で新規受注は厳しいだろう。日立もGEとの合弁をどうするか。三菱重工も自身の事業環境だけでなく、パートナーを組むアレバの経営も厳しい。国策として日本政府はどこまで再編などに踏み込むか。

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