ニュースイッチ

主要地銀の半数以上が増益へ、構造改革で明暗

19年3月期見通し。それでも収益構造の転換に猶予なし
主要地銀の半数以上が増益へ、構造改革で明暗

地銀の半数以上が増益…と柴戸地銀協会長(左から2人目)

 地方銀行の業績は、まだら模様が色濃くなっている。2019年3月期の当期利益見通しは地銀20行・グループのうち12行・グループが増益となり、金利環境に左右されない手数料ビジネスやコスト削減を軸とする構造改革の進展度合いで、収益力の明暗が分かれた格好だ。本業のもうけを示す実質業務純益は5行・グループが減益(7行・グループは非公表)を予想。低金利環境はしばらく続く見通しで、収益構造の転換が待ったなしの情勢に変わりはない。

全国地方銀行協会が15日に開いた会見で、柴戸隆成会長(福岡銀行頭取)は各行の業績について「地銀の基礎的収益力であるコア業務純益は(地銀協加盟行の)半数以上で(中間決算が)増益となった」と説明。「銀行収益の根幹とも言える貸出金利息や役務利益の増加」などを増益の要因と分析した。

 一方、米国金利の上昇などを受けて、債券の売却損や不良債権処理額が前年と比べて増加傾向にあり「(地銀にとって)収益環境は依然として厳しい」との見方を示した。

 貸出金利息については加盟行のおよそ半数が増加に転じているものの、依然として多くの銀行で利回りの低下が継続。貸し出しボリュームの拡大でカバーしている現状が浮き彫りになった。

 日銀の金融緩和策については「(金融機関への)副作用に対する配慮は前向きに受け止めている」としつつ、「金融緩和が長期化すれば副作用の増大につながるかもしれない」と懸念を示した。

地域によって特色出る


【東日本】
 通期減益予想の改善策としてコンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)の川村健一社長は「中小向けの貸し出しや投資型販売ビジネスへの注力を考えている」とするが「打ち返しとまではいかない」と収益環境の厳しさをにじませる。

 厳しい環境下で「一層デジタル化を推進し事務コストを削減していく」(池田一義埼玉りそな銀行社長)、「フィンテックなど最新技術を積極的に導入する」(深井彰彦群馬銀行専務)、「聖域を設けない物品費支出の抑制」(安田光春北洋銀行頭取)など各行がコスト減を進める方針だ。

 デジタル化の進展や人口減少を受けて店舗の在り方を模索する動きも広がる。七十七銀行ではセミセルフ端末や本部専門スタッフに遠隔相談できる個人向け店舗を新設。

 小林英文頭取は「様子をみながら増やしていきたい」としており、店舗運営の効率化を見据える。めぶきFGの松下正直副社長も「(店舗運営の効率化は)あらゆる選択肢がある。(地域金融を担う)地銀としての役割を考えながら進めたい」とする。

 「他行とアライアンスを組み、都内営業拠点の共同設置や事務の共通化を推進する」(千葉銀行の佐久間英利頭取)と、他行との連携を駆使してコスト減につなげる例もある。

 東京きらぼしFGも、「グループ会社が展開する『前給サービス』を連携する他行と横展開していく」(常久秀紀取締役)とする一方で、拠点数も3割削減する戦略的店舗政策を進める。

【中部】
 当期増益予想の十六銀行は、投資信託やM&A(合併・買収)仲介などの役務取引等利益が好調。

 村瀬幸雄頭取は「伸び代のある分野で、しっかりやる」とし、実質業務純益は前期比2・1倍の大幅増を見込む。静岡銀行も堅調な業績の見通し。柴田久頭取は「事業承継支援に力を入れる。収益、チャンネル、ヒトの構造改革も加速する」と意欲を見せる。新規事業開拓や異業種連携を進める考え。

 一方、ほくほくFGは当期減益予想。傘下の北陸銀行は、コンサルティング営業部を6月に新設して手数料収入増を図っており、「他行に負けないよう体制整備を急ぐ」(庵栄伸頭取)。

【関西・中四国】
 関西と中四国の主要地銀は、取引先紹介などの企業ニーズを開拓し、サービス収益の上積みを図る。関西みらいFGの菅哲哉社長は「下期もフィー(サービス)収益は手応えがある」と強調する。京都銀行の土井伸宏頭取は「証券、信託もまとめて提案し収益を拡大する」と新たなサービスの投入効果を見込む。広島銀行の部谷俊雄頭取も「企業の資金運用、広島市の再開発案件、相続など余地はある」と意欲を示す。

 各行は本業の融資も中小企業向けを拡大している。貸出金が関西地銀首位の関西みらいFGでは、傘下の関西アーバン銀行の18年9月末時点の融資残高が17年9月末比509億円増、近畿大阪銀行が同294億円増、みなと銀行が同615億円増と3行とも伸ばした。

 しかし、多くの地銀は金利がまだ下げ止まらず減益を補えない。18年3月期に実質業務純益が赤字となった池田泉州ホールディングスの鵜川淳社長は「4月から役員報酬と社員賞与をカットしている」と、身を削るコスト削減に踏み切った。

 関西のある地銀は「18年は前年比で採用を50人絞り、人件費を約4億8000万円減らした」(役員)と、コスト優先の状況を明かす。地元企業からの配当などで堅調な京都銀は11月末、少人数で運営する実験的な支店を滋賀県長浜市に開く。

 本業の先細りを避けられず、収益を生むサービスや低コスト経営の模索が続く。

【九州】
 ふくおかFGと西日本フィナンシャルホールディングス(西日本FH)は、19年3月期の当期利益が増益となる見通し。西日本FHは業務改革によるコストの削減などで実質業務純益の増益も確保する。

 だが、ふくおかFGの柴戸隆成社長は「気を引き締めて業務運営していきたい」とし、今後へも楽観を見せない。西日本FHの谷川浩道社長も「厳しい環境が継続している」と低金利の逆風が続く見方を維持した。
                      
日刊工業新聞2018年11月16日

編集部のおすすめ