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IBMのレッドハット買収はゲームチェンジの切り札か

ロメッティCEOが自社イベントに登壇へ
IBMのレッドハット買収はゲームチェンジの切り札か

巨額買収が注目のIBMのロメッティCEO(右)とレッドハットのジム・ホワイトハースト社長兼CEO

 クラウド市場での覇権を賭け、巨人・米IBMが大型買収で打って出た。米レッドハットの買収は米国でうわさがあったが、これほどまでの巨額な資金を投じるとは予測されていなかった。買収総額の334億ドル(約3兆8000億円)は、レッドハットのキャッシュフローの約30倍に相当する。これが適正なのか、高いのか。IBMは勝算をどう弾いたのか。いろいろな臆測が飛び交う中、IBMのジニー・ロメッティ最高経営責任者(CEO)が来日し、7日に都内で開く自社イベントに登壇する。

 ロメッティCEOの来日は年次イベントへの参加が目的だが、今回の買収と時期が重なり、レッドハットについての発言も注目される。レッドハットはオープンソースソフト(OSS)の雄であり、OSSのムーブメントやデジタル変革にもたらす価値などにも言及するとみられる。

 ただ、IBMが直面する現実は厳しく、米アマゾンやグーグルなどクラウド専業の新興勢力との戦いに苦しんでいる。クラウド専業のソフトレイヤーの買収などで活路を見いだしてきたが、一気呵成(かせい)の攻めには転じ切れていない。3兆8000億円という買収額の大きさは危機感の裏返しとも読み取れる。

市場で存在感


 レッドハットは基本ソフト(OS)「リナックス」のディストリビューターでは最大手。クラウド商戦に向けては「コンテナ」と呼ぶリナックスの仮想化技術をベースとしたOSS製品群「オープンシフト」を戦略商品として掲げ、市場での存在感を強めている。

 レッドハット買収はゲームチェンジの切り札となり得るか。野村総合研究所の藤浪啓上級コンサルタントは「買収を通してエコシステム(協業の生態系)を手に入れられる。そこに大きな意味がある」とIBMの狙いを指摘する。OSS製品は特定ベンダーに依存しないオープンな開発コミュニティー活動に基づいており、システム構築(SI)業者やソフト会社、ユーザー企業のIT技術者につながり、イノベーションを生み出す源泉にもなる。レッドハットはエコシステムの真ん中で重責を担っている。

 IBMは20年以上にわたってOSSの活動に関わり、現在、6万5000人のオープンソースの技術者を抱えている。独力でもエコシステムを築く力を持っているが、それに労力を費やすよりもレッドハットの存在感を維持したままでOSSのエコシステムへの影響力を強めれば新展開が見込める。餅は餅屋に任せ「買収で時間を買った方が得策」(藤浪氏)というわけだ。

 企業のIT投資のあり方も様変わりしている。IBMのボブ・ロード最高デジタル責任者(CDO)は「IT予算の95%はソフト開発者が意思決定で重要な役割を果たしている」と指摘。それを踏まえ「開発者の心とニーズを満たし、コミュニケーションをすることが大切だ」という。レッドハット買収はこうした考え方の延長線にあるとみられる。

OSSで影響力


 かつて米サン・マイクロシステムズはオープンソースのプログラム言語「Java(ジャバ)」で一世を風靡(ふうび)した。開発者のコミュニティーからも絶大な評価を得ていたが、自社ビジネスとのシナジーを十分に発揮できないまま、オープンソースに深入りし過ぎて失速した。

 米マイクロソフトはサティア・ナデラCEOが2014年に就任して以来、OSSへの影響力を強めている。直近では75億ドル(約8300億円)を投じ、OSSの共有サイトを運営する米ギットハブを買収した。ナデラCEOは「ギットハブを独立した組織として維持する」と表明。買収を契機に企業文化の変革に挑み、収益面でも成果を上げている。

 OSSは、うまく使えば強力な武器となる。IBMは「我々は適正な距離を持って、OSSと向き合っている」(ロードCDO)という。レッドハットの買収完了は19年後半を予定する。IBMにとっては社運を賭けた大勝負となる。
日刊工業新聞2018年11月6日

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