中小の総合病院、経営再生に最も重要な「治療より予防」

【連載】抜本再生のカルテ(上)

 中小企業の事業再生には人と人のドラマがある。私が銀行と経営者の仲介役となって、再生支援に取り組んできた事例を紹介する。

 中小企業再生支援協議会(再生支援協議会)は中小企業の事業再生に向けた取り組み(再生計画策定)を支援する国の公的機関である。スタッフには金融機関の出身者や公認会計士、税理士、中小企業診断士といった専門家をそろえ、さらに外部の法律事務所や会計事務所などとも連携を図ることで、さまざまな企業のケースに対応していく。

 私たちの仕事は、経営悪化により立ち行かなくなった、いわゆる窮境状況にある中小企業からの相談で始まる。そしてヒアリングの結果、再生の可能性があると判断すれば事業や財務などに関する詳しい調査に移り、具体的な支援プランの策定に進んでいくのである。

 この場合、重要なのは再生支援協議会の立ち位置だ。私たちは企業からの相談を受けて動きだすものの、公的機関である以上、公正中立であることが求められる。したがって、債務者である企業と債権者である金融機関などとの間に立ち、仲介役として再生スキームの成功に導いていく。

 再生支援協議会の役割をわかりやすく説明するなら、中小企業における「経営の病」を治す病院のようなものだ。最初のヒアリングは医師による診察にあたり、続いて行われる調査は臨床検査にあたる。

 病院でコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの専門機器を用いるのと同様、事業や財務のデューデリジェンス(企業の価値査定)を進める時には、業界に精通した専門のコンサルタントなどに協力してもらうのである。その結果、業績回復の切り札になるアイデアが得られ、再生の可能性が広がっていく。

 その後は病院と同様に再生(治療)計画を立て、時には大手術に匹敵する大胆な債権放棄を金融機関にお願いするなどして、その企業が事業を続けられるように導く。最終的に雇用が守られ、地域経済の安定に寄与できれば、こんなうれしいことはない。

 追跡調査の結果によると、私たちが再生をお手伝いした企業の9割近くは窮境から脱することができ、10年後も事業を続けている。さらに約7割は経営状況が完全に回復し、優良企業として復活しているのである。ただし、現実には相談を受けた段階で再生を諦めなければならないケースも多く、そのあたりが今後の課題だろう。

 医療の現場では、最近、「治療より予防」といった考え方が強くなってきた。よりたくさんの人に定期的に健康診断を受けてもらうことで、重い病気になるのを防ぐのである。私はこの方針を企業再生にも取り入れるべきだと思う。

 例えば、再生支援協議会のような組織が日常的に多くの企業に接し、経営相談などを受けることで事前に対策をしておくのである。そうすれば大量の不良債権が発生することはなくなり、社会にとっても大きなメリットがあるのではないだろうか。
(文=藤原敬三)


【筆者略歴】東京都中小企業再生支援協議会顧問、中小企業再生支援全国本部顧問 
 72年(昭47)大阪府立北野高校卒。76年神戸大経卒、同年第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。支店長、審査部企業再生専任審査役などを歴任。03年3月みずほ銀行を退職し、東京都中小企業再生支援協議会統括責任者、顧問、07年4月より全国本部統括責任者。17年4月より現職。主な著書に「会社は生き返る カリスマドクターによる中小企業再生の記録」(日刊工業新聞社刊)など。


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日刊工業新聞2018年10月30日

明 豊

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今日から3回に渡って藤原さんの連載がスタートします。次回は11月2日に公開予定。さまざまなケーススタディなどは書籍で紹介されていますのでぜひ。

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