ニュースイッチ

人工知能の発達で社会がどこまで変わるのか?日立が対話できる基礎技術を確立

今後10―20年で3分の2の仕事がソフトウエアに置き換わる?
人工知能の発達で社会がどこまで変わるのか?日立が対話できる基礎技術を確立

開発する人型ロボット「EMIEW2」でも対話能力を向上

 日立製作所は論理的な対話が可能な人工知能の基礎技術を開発したと発表した。賛否が分かれる議題に対し、大量のテキストデータを解析することで、賛否の根拠や理由を英語で提示する。人とコンピューターの対話を目指す人工知能の第一歩。将来、企業の文書や病院の電子カルテなどを解析し、業務を支援するデータや意見を生成するシステムの開発を目指す。

 電子カルテから病態などの情報を分析する日立の独自技術を、新開発の人工知能システムに導入。与えられた議題に対し、大量のニュース記事から確実性の高い根拠や理由を探索。複数の価値を基準にすることで、一つの側面に偏らない根拠や理由を提示する。従来、テキストデータを使って対話する人工知能はなかったという。

 東北大学の乾・岡崎研究室の協力を得て開発した。7月26日から中国で開かれる自然言語処理に関する国際会議「ACL―IJCNLP」で発表する。

人の仕事を奪うようなAIを作るべきか? 疑問を抱えながらビジネス利用は進む


 「いつになったら人工知能(AI)はできるんだ」「人の仕事を奪うようなAIを作るべきなのか」―。AIの研究者は相反する意見のはざまにある。人間と同じように自由に思考するAIの実現は何十年も先の未来だ。「自由思考のAIは、まだまだ実現可能な研究テーマではない」ともいわれる。一方で、計算やデータ解析、検索など限られた知的活動は急速にAIに置き換わっている。だがこれらのプログラムは社会から知性と認められないはがゆさがある。それでもAIは社会や仕事を変えていく。

 人間の弁護士に比べて4000倍の審査処理速度を実現

 「人間の生きている社会は極度に非効率的な活動の塊だ。情報通信技術(ICT)で仕事が効率化され、今後10―20年で3分の2の仕事がソフトウエアに置き換わるとされる。その時、なんとムダなことをしていたかと振り返ることになる」と国立情報学研究所の喜連川優所長は断言する。実際に米国の弁護士事務所では証拠書類の審査業務の多くをAIが担っている。データ解析事業を手がけるUBICの証拠書類審査AIは、人間の弁護士に比べて4000倍の処理速度を誇る。

 米国の裁判では証拠開示手続きという仕組みがあり、証拠になりそうな情報を相手に提供しなければならない。関係者の電子メールや関連書類など膨大な情報を、証拠になり得る情報か、関係のない情報か判断する必要がある。この作業はシステム化できず、人件費が費用の7―8割を占めていた。

 UBICの弁護士AIは熟練弁護士の判断基準をコピーする。熟練弁護士がいくつか書類を審査してサンプルとして与えると、AIがテキストデータから単語や並び方、組み合わせなどを解析して判断基準を作る。AIが熟練者の暗黙知をまねて、残りの情報を点数化し整理する。人間は書類の一部をチェックすれば済む。UBICの守本正宏社長は「膨大な書類を人海戦術で読み込んでいく作業は人間にはつらい仕事だ。米国では作業のAI化が当然になっている」と説明する。UBICは同技術を社内監査にも展開する。電子メールなどを解析して、情報漏えいや収賄などの予兆を検出する。

 現場改善コンサルタントの業務も一部AI化している。日立製作所の業務改善支援AIはビッグデータ(大量データ)を解析し、効果のありそうな要因候補を選び出す。例えば小売店のサービス改善では、来店者や店員の動きを名札型センサーで収集する。だが客が商品棚の前を通った「頻度」「速度」「順番」「滞留時間」、または店員が声をかけた「タイミング」「話しかけ方」など解析要素が無数にあり、この組み合わせも含めると、ほぼ無限の要因候補がある。これを売り上げや購入品数などの業績データと相関があるか解析する。

 日立のAIは数千から数万の要因候補を自動でリストアップし、さらに確度の高いものを絞り込む。日立中央研究所の矢野和男主管研究長は「AIでビッグデータ解析を誰もができる技術にしたい」という。改善策を実施すれば前後のデータから施策の効果がわかる。コンサルタントの直感や経験に頼っていたサービス改善をAIの計算力で補う挑戦だ。

 プレステージ・インターナショナルとソフトバンクは、コインパーキングなどの管理サービスにAI技術を活用する。駐車場のフィールドサービスでは、自動精算機や遮断機などさまざま機器を扱う。さらに緊急対応と巡回保守など何種類もの作業が入り交じる。技術者の対応スキルと配置を含めて最適化する必要があった。スマートフォンで技術者の位置や作業状況を把握し、作業指示に反映させる。プレステージ・インターナショナル傘下のプレミアモバイルソリューションの西澤久雄社長は「膨大な情報を最適化するにはAIが必須だ」と説明する。

 熟練検査士に頼っていた漏水検査の効率を5倍に

 日本ウォーターソリューション(埼玉県和光市)と産業技術総合研究所はAIで漏水検査の効率を5倍に向上させた。熟練検査士が正常と判定した音パターンをAIに学習させ、正常の範囲から外れたら「要検査」と判定する。すると熟練検査士が聴音棒で漏水の有無を判断する。熟練者による検査を5分の1に減らせることを実証した。

 証券取引はAIの主戦場だ。株式の自動売買AIを開発してきた東京大学の鳥海不二夫准教授は「最も古典的で最強のAIは誤注文を狙うAIだ。AIだけで生計を立てているファンドもある」と説明する。証券会社などの担当者が桁(けた)を間違えて注文した瞬間に、超高速で売買を成立させて利益をかすめ取る。誤注文は市場全体で年に数回は起こりえる。その瞬間を狙ってAIが膨大な銘柄を監視している。

日刊工業新聞2015年03月18日深層断面/07月23日 科学技術・大学面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
人工知能の発達と社会への活用が加速している。日立も同分野の研究開発に多額の投資をすると報道された。IoTが産業の大きな要素になりつつある今、企業間の競争はさらに激化するだろう。そのうち、人工知能が入っていなければビジネス競争で勝てないなんていう時代が来るかも・・・?

編集部のおすすめ