店舗の売り上げにも貢献“顔認証”普及への課題は
国内企業で導入実績も
指紋などの身体的な特徴で本人を特定するバイオメトリクス(生体認証)の利活用が新たな段階を迎えている。注目は顔認証。生体認証と言えば犯罪捜査のイメージも強いが、顔認証は従来用途にとどまらず、端末へのログインや空港での出入国管理に加え、イベントの入場管理や行政手続きなどへと広がりをみせる。「デジタル世界への入り口」としての存在感が増す中、顔認証がもたらす新たな価値と、普及への課題を探る。
生体認証は指紋や顔のほか、虹彩、指や手のひらの静脈など、それぞれに特徴を持つ。いずれも使いやすさや認証率の高さが決め手となるが、顔認証の最大の特徴は本人が意識しなくても、リアルタイムで複数人を同時に検知して認証できることにある。
顔認証は、サイバー(仮想空間)とフィジカル(物理的な現実世界)をつなぐ接点でもあり、利用者にストレスをかけずにさりげなく素早く認証でき、かつ成りすましやIDカードの貸し借りなどの不正入場を防止できる。
さらに人工知能(AI)による映像解析を加味すれば、監視カメラを介し、街中を歩く群衆から不審人物を見つけ出すことも可能だ。
海外ではテロ対策などで顔認証の引き合いが増えているが、米アマゾンが運営するAIを駆使する無人店舗「アマゾン・ゴー」では、中核技術として使われている。顔認証の可能性について、野村総合研究所(NRI)の藤波啓上級コンサルタントは、「商業施設が集まるオフィス街など、一定の場所に限れば“丸ごとサービス”も可能だ」と指摘する。
丸ごとサービスとは、例えば複合施設などで人々の行動を個々にモニタリングしながら認識し、店舗情報をレコメンド(推奨)したり、買い物や飲食後に自動で課金したりする仕組み。
こうしたサービスは本人が知らない状態では成立し得ないが、プライバシー問題や利用の同意などをクリアできれば実現可能。つまりは、顔認証は社会の安心・安全を支えるだけでなく、売り上げを伸ばす手段としての潜在力も秘める。
ただ、技術的に可能であっても、日々の生活シーンとして、人々に抵抗感なく受け入れられるかどうかは別問題。もとより顔認証などの生体認証に対する許容度は、「国ごとの文化によっても異なる」(藤波氏)のが実情だ。
「生体認証をきちんと扱うには、実績と評価が重要だ」(NECセーフティ事業戦略室の鈴木武志マネージャー)。NECは1980年から生体認証を手がけ、世界70カ国以上で700システム超の納入実績を持つ。注力する顔認証でこだわったのは動く被写体(動画)に対する照合精度だ。
顔認証は日の当たり方や顔の向きなどで影響を受けやすい。NECの顔認証技術は、米国立標準技術研究所(NIST)による評価テストで、07年に動画で99・2%の照合精度を達成し、静止画を含め4回連続で1位の座を堅持した。「太陽光の下や、スタジアムなどの混雑した場所で顔の一部が隠れていても、きちんと認証できなければ実用化で意味がない」(鈴木氏)という。
東京五輪はNECにとって顔認証システムを国内外にアピールする絶好の舞台。対象は各国の選手やボランティアなど、30万人規模となる。そこで顔認証の真価をどう示すかが注目される。
NECの生体認証は「バイオ・イディオム」というブランド名があり、優位性について鈴木氏は「顔、指紋、虹彩、声紋、耳音響、掌紋・静脈を含めた六つの生体認証を持つ。ネットワーク技術などとの組み合わせも可能なことだ」と強調する。20年に商用サービスを予定する第5世代通信(5G)時代の生体認証の活用も検討中だ。
旅行客にとって疲れがピークに達している場合が多い、空港の帰国審査。この審査に顔認証ゲートを導入すれば、パスポートに登録した顔画像を機器が読み取り、本人と照合するだけなので、最短10秒ですむ。17年秋に羽田空港に先行導入したのを皮切りに、成田、関西、中部、福岡の5空港で導入が進む。すべてパナソニックが受注した。パスポートの最大有効期間である10年間で、顔つきが変化しても認識できる。
7月には、パナソニックは富士急ハイランド(山梨県富士吉田市)に顔認証ゲートを納入。富士急ハイランドは同月、目当てのアトラクションだけを楽しみたい入場者などを取り込むため、入園料を無料化した。
同時に、乗り放題となるフリーパス利用者のなりすましを防ぐため、顔認証の仕組みを導入。顔認証は新たなビジネスも支える。
顔認証に使うAIといった技術面では、NECなど競合との差はあまりない。最大の差別化要因は、誰でも操作しやすい優れたユーザーインターフェース(UI)にある。
同ゲートでは身長の違いを考慮し、カメラ3台を縦に並べた。さらに、ハーフミラーで覆うことで、利用者がカメラ3台のどれを見るべきか迷わなくした。こうした利用者への配慮は、家電事業で培ってきたものだ。
(文=斎藤実、平岡乾)
生体認証は指紋や顔のほか、虹彩、指や手のひらの静脈など、それぞれに特徴を持つ。いずれも使いやすさや認証率の高さが決め手となるが、顔認証の最大の特徴は本人が意識しなくても、リアルタイムで複数人を同時に検知して認証できることにある。
顔認証は、サイバー(仮想空間)とフィジカル(物理的な現実世界)をつなぐ接点でもあり、利用者にストレスをかけずにさりげなく素早く認証でき、かつ成りすましやIDカードの貸し借りなどの不正入場を防止できる。
さらに人工知能(AI)による映像解析を加味すれば、監視カメラを介し、街中を歩く群衆から不審人物を見つけ出すことも可能だ。
海外ではテロ対策などで顔認証の引き合いが増えているが、米アマゾンが運営するAIを駆使する無人店舗「アマゾン・ゴー」では、中核技術として使われている。顔認証の可能性について、野村総合研究所(NRI)の藤波啓上級コンサルタントは、「商業施設が集まるオフィス街など、一定の場所に限れば“丸ごとサービス”も可能だ」と指摘する。
丸ごとサービスとは、例えば複合施設などで人々の行動を個々にモニタリングしながら認識し、店舗情報をレコメンド(推奨)したり、買い物や飲食後に自動で課金したりする仕組み。
こうしたサービスは本人が知らない状態では成立し得ないが、プライバシー問題や利用の同意などをクリアできれば実現可能。つまりは、顔認証は社会の安心・安全を支えるだけでなく、売り上げを伸ばす手段としての潜在力も秘める。
ただ、技術的に可能であっても、日々の生活シーンとして、人々に抵抗感なく受け入れられるかどうかは別問題。もとより顔認証などの生体認証に対する許容度は、「国ごとの文化によっても異なる」(藤波氏)のが実情だ。
NEC、動画の照合精度高める
「生体認証をきちんと扱うには、実績と評価が重要だ」(NECセーフティ事業戦略室の鈴木武志マネージャー)。NECは1980年から生体認証を手がけ、世界70カ国以上で700システム超の納入実績を持つ。注力する顔認証でこだわったのは動く被写体(動画)に対する照合精度だ。
顔認証は日の当たり方や顔の向きなどで影響を受けやすい。NECの顔認証技術は、米国立標準技術研究所(NIST)による評価テストで、07年に動画で99・2%の照合精度を達成し、静止画を含め4回連続で1位の座を堅持した。「太陽光の下や、スタジアムなどの混雑した場所で顔の一部が隠れていても、きちんと認証できなければ実用化で意味がない」(鈴木氏)という。
東京五輪はNECにとって顔認証システムを国内外にアピールする絶好の舞台。対象は各国の選手やボランティアなど、30万人規模となる。そこで顔認証の真価をどう示すかが注目される。
NECの生体認証は「バイオ・イディオム」というブランド名があり、優位性について鈴木氏は「顔、指紋、虹彩、声紋、耳音響、掌紋・静脈を含めた六つの生体認証を持つ。ネットワーク技術などとの組み合わせも可能なことだ」と強調する。20年に商用サービスを予定する第5世代通信(5G)時代の生体認証の活用も検討中だ。
パナソニック、空港の帰国審査 家電技術生かす
旅行客にとって疲れがピークに達している場合が多い、空港の帰国審査。この審査に顔認証ゲートを導入すれば、パスポートに登録した顔画像を機器が読み取り、本人と照合するだけなので、最短10秒ですむ。17年秋に羽田空港に先行導入したのを皮切りに、成田、関西、中部、福岡の5空港で導入が進む。すべてパナソニックが受注した。パスポートの最大有効期間である10年間で、顔つきが変化しても認識できる。
7月には、パナソニックは富士急ハイランド(山梨県富士吉田市)に顔認証ゲートを納入。富士急ハイランドは同月、目当てのアトラクションだけを楽しみたい入場者などを取り込むため、入園料を無料化した。
同時に、乗り放題となるフリーパス利用者のなりすましを防ぐため、顔認証の仕組みを導入。顔認証は新たなビジネスも支える。
顔認証に使うAIといった技術面では、NECなど競合との差はあまりない。最大の差別化要因は、誰でも操作しやすい優れたユーザーインターフェース(UI)にある。
同ゲートでは身長の違いを考慮し、カメラ3台を縦に並べた。さらに、ハーフミラーで覆うことで、利用者がカメラ3台のどれを見るべきか迷わなくした。こうした利用者への配慮は、家電事業で培ってきたものだ。
(文=斎藤実、平岡乾)
日刊工業新聞2018年10月1日