目や耳に障害がある人もない人も、会話できる『未来言語』とは

かつて言葉はこうやってできた?

 視覚や聴覚などに障害がある人もない人も、誰もが会話できる「未来言語」を作ろうとする野心的な取り組みが始まった。そもそも同じ言語を話しても、完璧にわかり合うことは難しい。だが、全ての人に通じるコミュニケーション方法を模索すること自体が、わかり合う一歩となるかもしれない。

目や耳、口をふさいでも伝わる方法を探す


 未来の言語を探る取り組みは、パナソニックの起業家支援施設「100BANCH」に選ばれた四つのプロジェクトが、合同で進めている。外国人の日本語教育を支援する「NIHONGO」と知的障害を持つアーティストの作品を広める「MUKU」、点字と墨字を一体化した文字をデザインする「Braille Neue」、手話を使ったゲームを提供する「異言語ラボ」だ。NIHONGOのリーダーの永野将司さんは、「未来の言語は、触覚がカギになるんじゃないかと予想している」と話す。

 これまでに開いた2回のワークショップでは、文字通り『手探り』で未来言語のヒントを探った。ワークショップの参加者は、5-6人のチームをつくり、カードを引いて「目の見えない人」や「耳の聞こえない人」、「話せない人」の役を決める。目の見えない人の役はアイマスクをし、耳の聞こえない人の役は大音量の音楽が流れるイヤホンを身につける。その状態でしりとりや伝言ゲームをしながら、チームのメンバーとより良い伝え方を考える。

 序盤は比較的に簡単で、1人が持つ障害は1種類だけ。聞こえない人と見えない人の間は普通に話せる。だが、話せない人から見えない人へ伝える時は工夫がいる。伝える側の話せない人は身振り手振りで表現し、周りにいる耳の聞こえない人がそれを言葉で表現し、見えない人に伝える。チーム内の『助け合い』がなければ伝わらない。

 机の上に用意された、割りばしや風船、おもちゃの硬貨、画用紙、粘土、携帯用カイロ、発熱時に額に貼る冷却シートなども使う。例えば、温かさや冷たさ、形などは、モノを使う方が伝えやすい。

2020年、異文化理解や心のバリアフリーへ


 難易度は徐々に上がる。名詞と動詞のように二つ以上の言葉を伝えたり、ジェスチャーが禁止になったり、1人が複数の障害を持ったりする。そのたびに、チーム内で伝え方の「ルール」を追加する。名詞と形容詞、動詞で伝える順番を決めるチームもあれば、名詞の時は左手、動詞の時は右手を触ってから伝えるというルールとするチームもある。五感に関係する言葉の時は相手の目や鼻、口などを触るなど、多様なルールが生まれる。

 このほかにも、数を伝える時に、手の甲に指を置くのと、相手の指を曲げるのとどちらがわかりやすいのか。不快を感じさせないためにはどうやって触ればいいのか。試行錯誤する。「昔、言葉ができた時も、こうやって一つひとつ確かめながらできたのではないか」と永野さんは話す。

 重要なことの一つは、「どこまでわかったか」や「どの部分がわからないか」を的確に伝えること。ここで誤解が生じると、その後のコミュニケーションもずれる。これは、同じ言語を話す人同士の意思伝達でも同じだろう。

 2回目のワークショップでは最終的に、目も耳も口もふさがれた人同士で、「大きなのっぽの古時計の歌を歌う」という内容を伝えた。相手の両手を大きく広げて「大きな」を表現したり、相手に両手にマイク替わりの棒を握らせ、ゆったりと体を揺らして「歌う」を表現したりした。少数ながら、正しく伝えられたチームもいた。参加した20代の女性は「一生懸命伝えようとする愛情が伝わってきた」と話す。試みを繰り返していけば、誰もがわかる新しいサインが生まれるかもしれない。

 2020年の東京五輪・パラリンピックをきっかけに、政府は異文化理解や心のバリアフリーに向けた取り組みを推進している。未来言語を探る試みは、心のバリアフリーの一助となりそうだ。

目と耳、口の全てをふさがれた2人が“会話”を試みた

ニュースイッチオリジナル

梶原 洵子

梶原 洵子
09月21日
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実際にワークショップを体験してきました。とても難しかったのと同時に、「伝わる」ということ自体がとてもうれしくて、おもしろいことなんだと感じました。

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