日本初の女性機長が歩む道「パイロットの能力に男女差はない」
JAL・藤有里さん 国際航空女性協会のスピーチより(前編)
女性である利点は雰囲気を作りやすいこと
しかし、いわれのない言葉や、ミスを素直に受け入れるだけでは続かない。ストレスのコントールの重要性を語った。「過度なストレスは、仕事面でパフォーマンスが落ちますし、プライベートでも何も楽しめない、ただつらいだけの毎日になります」と話す藤さんは、同業である夫の支えが大きかったと打ち明けた。
「私の愚痴を聞き、間違っていればやさしく指摘し、正しければ励ましてくれました。私のストレス解消法は、夫や友人に嫌なことを話して、見方がいることを確認して安心することでした」と述べ、自分に合ったストレス解消法を知ることが大事だとした。
そして、機長昇格後、男性と女性どちらの副操縦士とも乗務して感じたことは、能力に男女差はないこと。そして、権利と責任もまた男女同じだということだった。
藤さんは女性である利点を「雰囲気を作りやすいことでしょうか。地上旅客係員や客室乗務員、パイロットと、あらゆる場面での会話は男性よりも女性の方が、比較的スムーズに行えると感じています」と話した。機長として話しやすい雰囲気を作り出すことで、多くの情報が得られ、チーム全員でより良い仕事ができると考えているという。
そして、男女ともに仕事でベストを尽くすには、周囲の協力や理解が大切だと話す。女性の場合は産休が入る場合があり、今の時代は男女とも育休を取得する可能性がある。しかし、女性の場合、もし仕事が片手間になれば男性から「女性の仕事はこの程度か」と思われてしまうことがあるという。
この時に、女性側は子育てと両立しているから、仕事の出来が少し悪くても仕方ないと考えてしまい、男性も女性は子育てで大変だから仕方ないと考えてしまうことを、藤さんは、“負の連鎖”に陥ることだと懸念する。そして、何も言われなければ、女性もそのまま仕事をしてしまう。自らの副操縦士時代の経験を振り返りながら、藤さんはこのように語った。
「自分は大丈夫なのか。何か大切なことに気づいていないのではないか」と、今も自問自答しているという。
自分に割ける時間の違い
では、女性にパイロットという仕事は向いていないのだろうか。「男女問わず、そして私のように小さな人でもパイロットにはなれます」と藤さんは明言する。
今年ブリティッシュ・エアウェイズがまとめた調査を基に、藤さんは日本のみならず、世界的にみても航空会社のパイロットという仕事が女性でもできると認知されていないと語った。日本では2013年、女性パイロット訓練生のドラマが放映され、少しではあるが航空会社のパイロット訓練生を志望する女性が増えたと、事例を話した。
航空業界で、女性が次にすべきことを「与えられた仕事は、責任を持って遂行すること」というのが藤さんの持論だ。同じミスをすれば女性のほうが大きく取り上げられ、女性は結婚や出産で時間をとられがちだ。そこで、会社側はよりリスクが低い男性を選ぶ。
藤さんは家族が出来た時に、割ける時間の違いが大きいという。男女の能力は同じでも、自分に割ける時間は違うということだ。だからこそ、会社や夫の協力があった上で、女性自身の努力があれば、男女同じ条件下で女性も能力が発揮できると、藤さんは考えている。
「女性が働くことで、社会に利益をもたらすと思わせられれば、みんなの意識も変わります。時間も努力も必要ですが、変えることは出来ると信じています」。講演をこう結んだ。
(後編は7月24日公開予定)