本物の酒づくりは自然から、環境を考える一ノ蔵が選んだガスの熱

一ノ蔵(宮城県大崎市)

 手づくりできちんと良い酒をつくる-。日本酒好きに高く評価される宮城県の蔵元「一ノ蔵」のこだわりは、〈一ノ蔵らしい〉本物の酒づくりだ。「大吟醸 一ノ蔵」や「大和伝」、低アルコール酒「ひめぜん」など多彩な酒を生産。日本酒の可能性を広げながらファンを増やす秘訣は、伝統の技と自然を守り続けることにある。

酒を育む豊かな自然


 一ノ蔵は昭和48年に同じ酒づくりの志を持つ宮城県の酒蔵4社が企業合同して、誕生した。宮城県大崎市(旧松山町)の本社蔵は、きれいな山々に囲まれ、豊かな自然環境の中にある。一ノ蔵では2本の井戸を掘り、1日に二百数十トンもの水を使う。一ノ蔵で営繕エネルギーを担当する山岸仁一さんは、「使用する器具は熱湯殺菌を行い、極力、薬品を使わない」と話す。

 水と米からつくられる一ノ蔵の酒にとって、周囲の自然も味のベースになる。1年間で使う3万俵の米のうち95%以上は、旧松山町を中心とした地元産の米。11月に出荷する『新米新酒』用の早生種の米など、自前で育てている米もある。自然を守るため、できることからこつこつと、環境保全型農業や太陽光発電の導入、清掃活動など環境活動に取り組んできた。

「食用米からも良い酒をつくる技術がある」と山岸さんは話す

 重油ボイラの制御盤が壊れた時、省エネを見込めるプロパンガスボイラに転換するのは自然な選択だった。重油タンクも屋外の設置から30年近くが経ち、検査のタイミングに来ていた。もし重油が漏れれば、周囲の環境への影響は大きい。山岸さんは、「導入を決める際、地域や環境への貢献が役員会で大きな賛同を得た。『コスト削減ができなくてもガスボイラにしていい』という判断だった」と振り返る。以前にディーゼル発電の導入を検討したこともあるが、ある役員から「こんなきれいな山の中で煙を出すのか!」と強い反対にあった。ガスしか選択肢はなかった。

 重油の使用量は年330キロリットルだったが、ガスの使用量は年240トン。二酸化炭素(CO₂)排出量は約27.6%削減できた計算となる。コスト削減効果は燃料価格によって変動し、現在は年数十万円程度。更なる上乗せも期待されている。

 ボイラで発生させた熱は、精米した米を蒸す「蒸米(むしまい)」の工程に使われる。一ノ蔵では、ガスボイラの蒸気を熱交換し、不純物を取り除いた『純水』の蒸気をつくり、純水の蒸気で米を蒸す。酒の味を変えないように念には念を入れている。

蒸米の工程(一ノ蔵提供)

 瓶詰めする時の低温殺菌にも熱を使う。通常は殺菌した酒を瓶詰めするが、高級酒や発泡清酒は、酒を詰めた後の瓶に温水をかけて殺菌する。発泡清酒「すず音」は、瓶詰め後も発酵を続けることで炭酸を生成させ、ちょうど良いタイミングで瓶ごと殺菌して発酵を止める。「殺菌後の酒に炭酸を足す発泡清酒とは味が違う」(山岸さん)と胸を張る。

人員配置も簡単に


 ガスボイラにしたことで、「人員ローテーションを組みやすくなった」(山岸さん)という利点も得られた。重油ボイラの運転に必要な運転資格を持つ人は限られており、24時間の酒づくりに対応する人員配置に頭を悩ませていた。一ノ蔵が導入したガスボイラの運転にはこの資格が必要なく、現在は十数人が交替で運転している。

 環境に配慮した新しい技術を取り入れる一方、味に関係するものは変えられない。水も水質が改善されればいいのではなく、「たとえ少ない方がいいとされる鉄分が下がっても、味が変われば『一ノ蔵』ではない」と、山岸さんは力を込めて語る。道具も同じで、米を蒸す時は昔ながらの甑(こしき)という大型の蒸籠を使う。長年使う米を蒸す機械は古く、蒸気が逃げていても、使っている。手づくりにこだわる一ノ蔵の蔵人にとって、道具が変わればやり方が変わってしまう。

2017年1月に導入した真新しいガスボイラ

 一ノ蔵は、この酒づくりのこだわりを、お客様に直接会って地道に伝える活動を続けている。3月下旬には『日本酒大学』、4月下旬には『蔵開放』を開催。日本酒と宮城県の地場産品を囲む『一ノ蔵を楽しむ会』は、東京と大阪、名古屋、札幌、福岡で開催している。

 7月下旬に開催する小学5・6年生向けの『いちのくら微生物林間学校』は、パン作りや顕微鏡観察などで微生物の世界を体験してもらおうという企画だ。小学生が20歳になるとお酒を贈る。ある父親から、「ずっと話さなかった娘が、お酒が届いた時に『お父さん、一緒に飲もう』と言ってくれた」という感謝の手紙をもらったこともある。

 世の中が変わっても、伝わるものはきちんと伝わるはずだ。

本社蔵の玄関には新酒の完成や熟成具合を知らせる杉玉がある


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