未開のVR医療に挑む型破りな「アイデア」と「ビジネス力」とは

 「これはすごい。肝臓の中に入り込み、患部を立体的に把握できる」―。都内の中核病院に勤務する外科医は手術前、仮想現実(VR)端末で患部周辺の立体画像をのぞき込んだ。すると臓器や血管、患部の状態が、まさに手に取るように目の前に広がった。

 サービスを提供するのは、2016年に創業したHoloeyes(ホロアイズ、東京都港区)。患者のコンピューター断層撮影装置(CT)画像から3次元(3D)データ(ポリゴン)を作り、VR端末で閲覧できるサービスを医療機関に提案する。

 例えば、がんは臓器内の枝分かれした血管に点在し、2次元画像だと把握しにくいことが多い。VRを使えば、執刀医は除去する患部や注意すべき血管、骨の位置を立体的に把握でき、拡大したり、回転させたりして、どこにメスを入れるかイメージトレーニングも容易になる。また医療チーム内での情報共有にも役立つ。世界的にも珍しいツールだ。

型破りな考え


 事業化したのはプログラマーで最高経営責任者(CEO)の谷口直嗣と、外科医で最高執行責任者(COO)の杉本真樹の2人。13年、モーションコントロール(動作制御)の手術に関する杉本の記事を谷口が見つけたのがきっかけだった。保守的な医療業界では型破りな考え方に対し、谷口は興味を抱いた。「医者なのに気が合いそうだ」。

 3日後、谷口は杉本の前にいた。杉本から医療の最新動向を聞くうち、医療の世界でも臓器のデータをポリゴンに置き換える動きがあることを知った。「これをVRで見ると、面白いのではないか」。すぐに頭部のポリゴンを作成して見てみると、頭蓋骨の中に入り込み、内部から首の付け根が鮮明に見えた。

 VRの新たな可能性を感じ始めた時、ある執刀医から患者の前立腺データをポリゴンにしてもらいたいと依頼があった。前立腺周辺は骨盤が邪魔して内視鏡の視野が狭くなる。だが骨盤の向こう側を透視できるポリゴンには、その制約はない。実際に作成すると、見えにくい奥まった部分も把握できると執刀医に喜ばれた。ビジネスとしての可能性は確信に変わった。

一気に広げる


 ただ、このツールを医療機器に位置付けると、承認までの時間やコストが膨大になる。難題が立ちふさがる中、第三の男が登場する。営業を担う取締役の新城健一だ。新城は複数の会社で経営の経験があり、実ビジネスに詳しい。「低コストで一気に広げるには、医療機器とは違う商流で勝負する必要がある」。新城は規制の外でビジネスができるよう政府に掛け合った。

 同社はVRツールを医療機器にせず、医療チームの「コミュニケーションツール」と位置付けることで、煩雑な手続きを省くことに成功した。4月から本格提供を開始し、すでに約30機関の納入実績を持つが、現状に満足していない。新城は「もっと実績を伸ばしたい」と語り、代理店集めに奔走する。今後はVRの症例データを集め、他の医師や医学生の研修用途として提供する構想も掲げる。(敬称略)

日刊工業新聞2018年9月7日

日刊工業新聞 記者

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09月10日
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医・工・ビジネスの三者三様の得意分野が、VR医療という未開の領域で花開こうとしている。

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