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AI作家プロジェクトの松原教授が語る、地方交通とAIの可能性

はこだて未来大学副理事長(未来シェア社長)・松原仁氏
 人工知能(AI)がさまざまな分野で活用され、その効果が期待されている。こうした中、公立はこだて未来大学発ベンチャーの未来シェア(北海道函館市)は、地域の公共交通サービスの維持にAIを活用しようと実証実験を展開。同大学では北海道函館市を中心に、地域活性化でAIを役立てようと取り組んでいる。AI研究の第一人者で、未来シェアの社長を務める同大学の松原仁副理事長にAIの社会実装と今後の展望を聞いた。

 ―現在、AI研究で力を入れていることは。
 「基本研究では、AIに小説を書かせたり俳句を作らせたりなど創造的な作業をすることだ。脚本を書かせることも始めている。一方でAIは社会実装の段階に入った。現在はこだて未来大発ベンチャーの『未来シェア』で社長を、他2社で役員を務めている。社会実装は企業として取り組んだ方が望ましい」

 ―未来シェアの事業内容は。
 「北海道を含め地方は公共交通が疲弊している。このまままだと人の移動手段がなくなり、街が消滅してしまう。未来シェアでは、タクシーより安くてバスより便利な交通手段をAIで実現しようと取り組んでいる。スマートフォンを活用した乗り合いシステムだ」

 「地域の実情に合わせて、全国各地でタクシー会社や通信会社、自治体などと組んで短期間の実証実験を行っている。地方自治体から多くの声をかけていただき、実証中も含めてこれまで20件ほどの実績がある。実験を繰り返し、問題を洗い出すことが大事だ。未来シェアの事業を強化するため増資もする。2年くらいで実用化したい」

 ―バスやタクシーなどの事業者にとって利点はありますか。
 「同システムの活用で乗車率が上がり、自家用車を乗らなくなった人が利用すればタクシー、バスの乗客が増える。自治体が公共交通で支援している費用も減る傾向になる」

 ―大学では『未来AI研究センター』を立ち上げています。
 「函館は人口が減り経済も縮小している。AIで交通や観光、漁業、遠隔医療など、いろいろな問題に対応したい。実証実験の段階から社会への定着を実現し、地域にお金が回る仕組みを目指す。高齢化社会を逆手に取って、問題を解決していきたい」
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ここ数年でAIの活用が多くの分野で当たり前になってきた。だが社会課題の解決に対してはどうか。地方では、人口減少や少子高齢化などの問題が深刻化。将来は街自体の存続が危ぶまれる事態が想定され、明るい未来を描きにくい状況にある。こうした地方が抱える問題に、はこだて未来大ではAIを地域活性化に生かそうと取り組んでいる。AIが社会課題の解決で有効性を発揮し、多くの分野で活用が進むことを期待したい。(札幌支局長・村山茂樹)

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