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量子メモリー進化へ、核スピンをMEMSで制御

NTTと産総研が成功
量子メモリー進化へ、核スピンをMEMSで制御

板バネMEMSと根元の核磁計共鳴変化のイメージ(産総研提供)

 NTTと産業技術総合研究所は、原子の核磁気共鳴の周波数を微小電気機械システム(MEMS)で制御することに成功した。原子核の回転軸がぶれながらコマのように回る周波数を、機械的にコントロールする。この変化を利用した量子メモリーや量子センサーへの応用を目指す。

 ガリウム・ヒ素の結晶を加工し、両端が固定された板バネ構造のMEMSを作成した。このバネを振動させると固定端にひずみが生じる。ひずんだ部分の原子は核磁気共鳴の周波数が影響を受ける。

 実験で板バネの振動を増減させたところ、5キロヘルツほど共鳴周波数を動かすことに成功した。共鳴周波数を変化させたり、混ぜることができた研究は世界初という。このMEMSの構造は半導体素子に集積できる。NTTが素子作製と計測、産総研がデータ解析などを担当した。
(2018年8月29日)
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
桁違いの高速計算を実現する量子コンピューターや、絶対的な秘匿性が予想される量子鍵配送通信では、量子情報を一定時間保持できる量子メモリーが重要な要素技術として注目されています。量子状態を長時間維持する技術の候補が、原子核の回転(核スピン)を利用すること。原子の中心に位置する核のスピンは、原子の周囲を回る電子スピンに比べて1000分の1程度の大きさの磁気しか持っていないため、外部の影響が小さく、長く量子状態を保持できる可能性があります。今回の発表は、原子核の回る核スピンの周波数をMEMSで制御できることを示唆したため、量子メモリーへの応用が期待されます。

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