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わずか5000人の放射線診断専門医、見落としがん死は無くせるか

クラウドソーシングやAI活用も
わずか5000人の放射線診断専門医、見落としがん死は無くせるか

画像診断件数はこの10年で約50%増加

 人材不足を背景に、医療画像診断分野でもクラウドソーシングの波が訪れている。コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの画像診断装置の進歩により、画像診断件数はこの10年で約50%増加した。また検査1件当たりの撮影枚数も飛躍的に増加している。従来は1件当たり16枚が主流だったが、高度な診断装置では撮影枚数が320枚に及ぶものもある。

 一方、撮影画像を読影する放射線診断専門医は、緩やかな増加傾向にあるものの、国内には約5000人しか存在しない。医師の中で直接患者を持たない唯一の存在で、他の診療科と比べ経済条件がよいわけではないこともあり、なり手が少ない。

 その結果、画像診断の需給バランスが逼迫(ひっぱく)している。診断が難しい画像でも、放射線診断専門医でない一般の医師が画像診断をするケースもでてきており、診断の質が低下している。

 実際、2018年6月には、千葉大学病院でCT画像の見落としによってがん患者が死亡するなどの事例が発生している。この需給ギャップを埋めるため、放射線診断専門医をクラウドソーシングで活用するビジネスが登場してきている。

 希少な放射線診断専門医の隙間時間を利用して、クリニックから受託した画像を遠隔で読影してもらうモデルである。それでも、遠隔読影の市場規模はまだ小さい。

 日本における年間画像診断件数1億5000万件のうち、放射線診断専門医が診断しているのはその約30%に過ぎない。残りの約70%は非放射線医が診断している。放射線診断専門医が診断している画像のうち、クラウドソーシング型で遠隔読影されているものは10%、全体の約3%に留まる。

 今後、日本における遠隔読影市場は、(1)画像診断件数の増加、(2)誤診リスクの高まりなどを背景とした、放射線診断専門医による読影のシェア向上などによって拡大が見込まれる。

 人工知能(AI)を活用した医療画像解析エンジンを開発しているベンチャー企業も複数存在する。しかし、特定のメーカーや機種の医療機器に依存した、汎用性の低いエンジンであるケースが多い。
 
 それゆえ、AIによる画像診断は人間による診断のダブルチェックの要素が強い。当面は、放射線診断専門医による画像診断のニーズは高まり続けると予想される。
(文=野村リサーチ・アンド・アドバイザリー 西川拓)
日刊工業新聞2018年8月8日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 キヤノンやカシオ計算機などはデジタルカメラで培った技術を活用し、医療用の診断支援システムを開発中だ。画像解析技術とAIを活用して患者の病変をとらえ、医師の診断を助ける。実用化には関連法に基づく承認が必要だが、AIによって、画像活用が診断に近い領域へ広がる可能性が出てきている。医師は限られた時間で多くの画像データをさばき、病気かどうかの判断も医師の技量に左右される面も多いそうだ。診療科別で医師が不足していたり、地域によっても医師がいる、いないなど偏在が課題となる中、AIで病変の“ふるい分け”が出来れば、診断精度の向上や見逃しの低減などが期待できる。

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