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揺れる東芝「事後対応」ケーススタディ・オリンパス

東芝、21日に社長が記者会見。第三者委員会から報告書を公開し、進退についても言及

「損失隠し発覚」旧経営陣が退任し、緊急避難で就任した高山社長が会見


 <2011年11月9日付>
 オリンパスの企業買収を巡る問題で、同社が1990年代から証券投資の含み損などを隠してきたことが分かった。英国人社長の解任に端を発する問題は、長期間にわたる不正会計の疑いにまで発展。損失隠しが行われた経緯や巨額の報酬を支払った助言会社との関係など、依然として不透明な点が多く、事態の収拾は遠い。すでに上場廃止といった事態を予想する声もあがっており、光学機器メーカーの雄は一夜にして重大な経営危機に陥った。
 
 【強弁も情報開示不透明】
 「第三者委員会の調査結果を待って、速やかに内容を公表したい」―。8日の記者会見でオリンパスの高山修一社長は同じ言葉を繰り返した。同社は同日、1990年代からの有価証券投資にかかる損失隠しを公表。英ジャイラス買収時のアドバイザーへの報酬や優先株の買い戻し資金、ベンチャー3社の買収資金を複数のファンドを通すなどの方法で、投資有価証券の含み損解消に利用していたことを明らかにした。事態を受け第三者委員会は調査対象に損失隠しを加え、関与した森久志副社長を8日付で解任。山田秀雄常勤監査役は辞任する意向だ。
 
 だが現時点で開示した情報はまったく不十分だ。高山社長は損失隠しの理由に業績への影響を挙げたが、「全部を集計できていないので金額については言えない」と明言を避けた。損失隠しの時期や手法についても判然としない。責任者は菊川剛前会長、森副社長、山田監査役の3人としながら「3人以外の人間もいるかもしれない」とし、その追及は第三者委員会に丸投げした。高山社長は「昨日夕方まで全く知らなかった」と関与を否定したが、このような主張がすんなり通る状況にはない。

 高山社長は「事業の価値は毀損(きそん)していない」と強弁する。しかし有価証券報告書への虚偽記載は上場廃止の対象だ。20年間も投資家に情報を隠してきたことを考えれば、上場維持は極めて難しいと見るのが自然だ。
 
 オリンパスの不正会計の発端は巨額損失の発生にある。これだけ長期間かつ規模の大きい不正会計となれば、同社の財務基盤がかなり脆弱(ぜいじゃく)である恐れもある。公表ベースでさえ同社の自己資本比率は15%で、キヤノンの66%、富士フイルムの64%、ニコンの47%と比べて低い。一方で有利子負債は約6500億円(11年3月末)と高水準だ。

 すでに格付け情報センターはオリンパスの発行体格付けをAからBBB+に2段階引き下げた。損失隠しの発覚で財務体質改善が遅れる可能性が高まったうえ、資金調達に支障を来す恐れがあるからだ。米国の大株主も過去の取締役会の議事録の開示を要求。同社の信用不安は始まっている。

 上場廃止などで信用不安がさらに増幅すれば、事業の大胆な見直しを迫られるのは必至だ。稼ぎ頭である内視鏡部門を含む医療事業を軸とした他社との合従連衡や不振のデジタルカメラ事業の見直しなど、同社を軸とした業界再編につながる可能性もある。

 同社と同様の長期間の不正会計の果てに企業が消滅した事例がある。カネボウだ。70年代からとされる不正会計は同社を蝕み、最後は事業の切り売りを経て解体。かつて日本最大の企業だったカネボウはあっけなく消滅した。カネボウとオリンパスを同列には語れないが、長期にわたるガバナンスとコンプライアンスの欠如が何をもたらすか、オリンパスの経営陣は肝に銘じるべきだ。
 

重い“愚行”のツケ、規制強化の引き金に


 オリンパスの損失隠しが発覚したことで、企業の内部統制のあり方が改めて問われる。会計基準の国際化が進む中、日本の大手企業が20年間も損失を隠してきた事実は重い。日本企業への信頼を毀損するだけでなく、国際的ルールのさらなる強化を招く懸念もある。「内部統制報告制度」「四半期報告制度」の導入など、企業の財務報告に関するルールが複雑かつ厳格化される現在、過剰な規制は企業の負担増や国際競争力の低下に直結する。オリンパスの愚行が、日本の産業界に多大な影響を及ぼすことは間違いない。
 
 企業活動のグローバル化に伴い、会計基準の国際化も進んでいる。延期されたとはいえ、国際会計基準(IFRS)の強制適用が視野に入るなど、世界的に企業会計の厳格化・透明性が求められるのは確実だ。00年代前半、米エネルギー大手エンロンや通信大手ワールドコムなどによる不正会計も、SOX法制定のきっかけとなった。

 日本の産業界からはルールばかりが先行し、行きすぎた規制の厳格化を疑問視する声も聞かれる。たとえば内部統制報告制度。粉飾決算など企業の社内管理体制をチェックする同制度は09年3月期から導入されたが、「監査法人があまりにも厳格すぎる」(大手企業首脳)という不満が企業に渦巻いている。

 経団連は昨年7月、企業に過度な実務負担がかからないように制度の簡素化を求める提言をまとめたほか、経済産業省も金融庁に監査法人の弾力的運用を求めている。経済界が「性善説」に立った企業独自の対応を尊重し、制度の見直しを求めていた矢先の不祥事。見直し機運は一気にしぼむ。日本だけでなく世界の内部統制ルールを揺るがす事態を招きかねない。

 【取締役会機能不全/日本経営に難問】
 株式市場では、オリンパスが過去の損失隠しの発覚を受けて同社株が急落した。投資家が上場廃止を懸念したためだ。経営トップ解任で初めて明るみに出た不祥事だけに「相当、根が深い」と、今後も不正な事実が見つかる可能性があるとの見方も一部にある。

 企業の経営を監視する社外取締役や社外監査役といった“社外の目”が機能しなかったことに対し、こうした仕組み自体を疑問視する向きもある。鈴木裕大和総研環境・CSR調査部主任研究員は「仕組みが“絵に描いた餅”になっているかもしれない」と警鐘を鳴らす。社外取締役や社外監査役に起用される人材が経営陣の知人・友人であるケースが少なくないためだ。

 大楠泰治前クレディ・スイス証券投資銀行本部長は「取締役会が機能していない」と指摘する。海外とは異なり、さまざまな決定が取締役会ではなく、経営者の一存で決められる状況が背景にある。今回のオリンパス問題を契機にこうした仕組みがあらためて見直されることになりそうだ。
 
 《高山社長「上場廃止回避に全力」》
 オリンパスの高山社長が8日行った会見の内容は以下の通り。
 ―損失隠しが発覚した経緯は。
 「7日夕方に森久志副社長から報告があった。森副社長からの報告の後、菊川剛前会長から『今まで黙っていて申し訳ない』と言われた」
 ―関係した人物は。
 「菊川前会長と森副社長、山田秀雄常勤監査役だ。8日の取締役会で森副社長を解任した。山田監査役は辞意を示している」
 ―いつから始めたのか。
 「90年代だ。7日時点では10年前までの資料しかなく、それ以上は認識していない。もう少しさかのぼると思う。円高が進行する中、業績が伸び悩んでいた。当社の損失計上の先送りもそのころから始まったようだ」
 ―誰の指示か。
 「社長と総務担当役員が関わり、歴代引き継いでいた。菊川前会長が誰から引き継いだかは申し上げることができない」
 ―組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)か。
 「全社員が知っていた訳ではない。トップが部下に指示を与えた訳だから、組織ぐるみと言われればそうかもしれない」
 ―損失の金額は。
 「大まかに把握しているが、今ここで申し上げることはできない。損失が大きかったので、業績に大きな影響を与えると判断して計上を先送りしたのだと想像する」
 ―違法性の認識は。
 「不適切な会計処理を行ってきたのは事実だ。粉飾決算と指摘されても仕方ない。第三者委員会の調査報告を待ちたい」
 ―上場廃止の可能性も指摘されている。
 「会計処理も含めて適切に行っていきたい。そうならないよう全力で努力したい」
 (肩書きは当時)

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
オリンパスはやはり上場廃止にならならず、常に市場の目にさらされていたことが再生で大きかった。ソニーとの資本提携も発表当時は実効性について批判的な声もあったが信用補完になり、ひとまず軌道にのりつつある。医療機器という事業の幹があったのも、再生の道を分かりやすくした。産業界全体でみると、11年の当時からガバナンスの強化が指摘されていたが、上場企業における新しい企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」が動き出したのがようやく今年6月。それも実行する企業や経営陣の意識次第で、機能するかが大きく変わる。幸い、東芝は医療やインフラの一部、半導体の一部などで幹となる事業を抱えている。変な社内対立は「ノーサイド」にして再スタートを切って欲しい。

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