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経済や教育に効果も…巨大加速器“ILC”誘致の実現度

経済や教育に効果も…巨大加速器“ILC”誘致の実現度

ILC絵画コンクール入賞作品(8月完成した『ILC東北マスタープラン(詳細版)』の表紙より)

 8月5日、著名な物理学者でノーベル賞受賞者のシェルドン・グラショー氏とバリー・バリッシュ氏が都内で講演し、国際リニアコライダー(ILC)は「世界で最も重要な素粒子プロジェクト」(バリッシュ氏)「人類の発展に必要であり、日本の技術者や産業界にも刺激を与えるもの」(グラショー氏)と語り、日本でのILC実現を強く訴えた。

 国内では文部科学省の有識者会議がILCの新計画案は「科学的意義がある」とする報告書をまとめ、日本学術会議に審議を依頼。これを受けて学術会議が検討委員会を設置し、学術全体におけるILC計画の位置付けなどについて近く審議を始める。この結果を踏まえ、政府は研究者が求める12月18日までに誘致の判断を下す。

 科学的意義については学術会議も当初案を2013年に認めており、巨額の建設費が今後の議論の焦点になる。有識者会議は加速器本体の建設費約5000億円と測定器関連経費などを含め、総建設費は最大約8000億円になると試算している。このうちホスト国である日本の負担額は半分程度が見込まれる。

 ILCを推進する超党派の議員連盟(河村建夫会長)は月内に、自民党を中心とした連絡協議会を設立し、政府へ強く働きかける考え。「他の学術分野の予算を圧迫すべきではない」との声は多く、協議会ではILCを国家プロジェクトとして通常の科学技術予算の枠外で扱い、19年度予算の概算要求に盛り込むことも求める。

 ILCは世界50カ国の科学者たちが20年以上かけて進めてきた計画であり、実現すれば日本初の国際研究所となる。世界でリーダーシップを発揮できるまたとない機会だ。

 宇宙の謎を探るという人類共通の知への探求の扉を開くだけでなく、その経済効果や産業の発展の可能性、教育的な効果など、日本にもたらす価値は決して小さくない。基礎科学の成果は短期的にみるものではなく、長期的な観点でとらえる必要があるだろう。
(文=藤木信穂)
日刊工業新聞2018年8月8日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今後、科学者コミュニティーで議論を深めるだけでなく、実現に向けて継続的に国民に理解を求めていく取り組みが欠かせない。 (日刊工業新聞社・藤木信穂)

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