空飛ぶクルマも下支え? 東北振興の切り札「次世代放射光施設」でできること

東北大に設置 2022年度稼働

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次世代放射光施設のイメージ。円周325―425メートルで、拡張性を持った設計(光科学イノベーションセンター提供)
 東北の悲願が実現する。文部科学省は7月、原子レベルで物質の構造や性質を見られる巨大な顕微鏡「次世代放射光施設」を東北大学青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)に設置することを決めた。同省は2019年度予算の概算要求に整備費用を盛り込む方針で、早ければ22年度にも運用を始める。地元の関心は高く、新たな産業の振興につながるとして、官民一体で取り組む構えだ。

 高性能の放射光施設は、今や産業界の発展に欠かせない存在になっている。国内最大の放射光施設である「スプリング8」(兵庫県佐用町)を中心に、創薬や低燃費タイヤなどの開発で大きな役割を果たしてきた。しかし、軽元素など柔らかい物質を見るのに適した、エネルギーの低いX線「軟X線」クラスの施設は国内になく、各界で建設が望まれていた。

 林芳正文科相も次世代放射光施設の建設にあたり、「日本の科学技術の進展と国際競争力の強化に貢献できる」と意欲的だ。

 仙台市に建設する同施設は、軟X線を放出するために必要な30億電子ボルト級の電子エネルギーの光源を持つ。国のプログラムで高分子の研究を主導する東京大学大学院の伊藤耕三教授は、同施設について「軽元素の動きや結合などを見る際に威力を発揮する」と期待する。

 世界ではさまざまな製品が金属製から高分子材料へとシフトしており、軟X線施設が完成して新材料での研究が加速すれば、「空飛ぶ車や、微生物分解するストローの開発なども不可能ではない」(伊藤教授)。物質の構造解析に優れたスプリング8と、機能解析に優れた次世代放射光施設。性質の違う二つの施設を「相補的に活用して研究を進めていく」(同)。

 施設は官民と学術界、地域が一体となって整備・運営する。国の主体は量子科学技術研究開発機構で、主に蓄積リングや入射器、当初10本整備するビームラインの一部などを担う。

 民間側は一般財団「光科学イノベーションセンター」を代表機関に、東北経済連合会、宮城県、仙台市、東北大が共同で整備する。各者はそれぞれ、建屋・研究交流施設の建設・運営、ビームライン整備、土地造成や地域支援などを分担する。

 整備費用は360億円で、民間・地域側が160億円程度を負担する。民間分の財源は企業から同財団への加盟金が中心。1口5000万円の出資口数に応じ、施設の優先利用権を付与する。

 文科省の正式決定前から多くの企業が出資の意向を表明しており、期待の高さをうかがわせる。すでに加盟企業や研究者を中心に、ビームラインの将来構想や利用法についての話し合いが持たれているという。

 地元中小企業に対しても、小口出資で利用権を共同利用する仕組みを設けており、今後は東北各県にも広がると見られる。

地域の期待―研究開発の集積地に


 施設の計画自体は、東日本大震災からの復興を期して東北の7国立大学が共同で発案したものだ。首都圏への人口流出など切実な問題を抱える地域にあって、流出の抑制や産業集積の一助になることを期待する。

 施設稼働後に目指す姿は、産学の研究開発施設が集積した「リサーチコンプレックス」の形成だ。さらに、「地元産業のレベルアップ」(みやぎ工業会の畑中得実理事長)を図りつつ、国内のイノベーションを先導する地域となることだ。

 ただ、東北には放射光施設がないため、「施設をどう使えばいいか分からない」といった中小企業の声も多く聞かれる。仙台市の担当者は「運用開始までにどこまで周知させられるかが課題」と話す。

 一方で、施設に強い期待感を示す中小企業もある。ナノレベル(ナノは10億分の1)の研磨加工で世界的に知られるTDC(宮城県利府町)の赤羽優子社長は当初、放射光施設に懐疑的だったが、スプリング8を使ったことで考えを変えた。「新たな測定方法を確立し、さらに技術力を向上できるかもしれない」と期待を込める。

 特に次世代放射光施設では、研究者と企業が一体となって実験できる「コウリション・コンセプト」という仕組みを設けるため、「放射光を分からない人でも施設を使える」(赤羽社長)。

 東経連では同施設を東北での「成長戦略の核」と位置づける。また、岩手、宮城両県にまたがる北上山地が候補地の大型加速器「国際リニアコライダー」との相乗効果を期待する声も挙がる。

 

日刊工業新聞2018年8月7日

COMMENT

東北にとって初となる最先端施設をどう成長の糧とできるか、これまで以上に官民と学術界、地域の連携が求められている。 (日刊工業新聞社仙台支局・田畑元、冨井哲雄)

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