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“九州バカ”がパンケーキで世界とつながる

一平社長・村岡浩司氏に聞く「地元創生起業論」
 ―刺激的なタイトルですね。
 「私自身が九州にしか関心がないので(笑)。全ての素材を九州産でそろえた『九州パンケーキ』という商品を作る中で、九州という地域を強く意識するようになった。県境で区切られてはいるが、それぞれの地域が個性的で、農産物の多彩さ、文化の多様性が一つの島に内包されている。ブランドで考えれば九州に勝てるところはないと思う。1300万人も住んでおり、マーケットとしても魅力的。東京や大阪の市場を見るのではなく、域内で何ができるかという発想をしている」

 ―副題の“地元創生”という言葉も特徴的です。
 「“地方創生”の政策はあくまで東京が中心。『東京が地方を元気にしてあげる』という発想で、成功、不成功のばらつきが大きい。地方発信で地域を元気にしていこうというのが“地元創生”の意味だ。地方で暮らす人たちが自分たちの地元の価値を見直すことに意義がある」

 ―若い頃の失敗も隠さず紹介しています。
 「初めての本の執筆で、半分くらい書いたところで振り返ると、良いことばかり、格好を付けて書いていた。やってきたことを客観的にと思い直した。米国に留学して、帰国して古着屋の事業で失敗し、すし職人もやった。自分で言うのも何だが、面白い青年だったと思う。本文の欄外に『起業メモ』を設けたが、これまでを振り返って今の自分が評価したものだ。あらためて見ると、失敗も全て何かにつながっているのが分かってきた」

 ―これからも九州にこだわりますか。
 「パンケーキミックスに続いて九州の原料を使ったパンや、コーンの素材にこだわって作ったソフトクリームも提供するようになった。モノづくりに関してはできるだけ正直に、まっすぐ九州にこだわりたい。そして、そこで出た利益を、どのように地域に還元するか。世界中の人がうらやましいと思うような九州をつくりたい。それが自分のモチベーションになっている」

 ―熊本地震をきっかけに、その決意を新たにしたそうですね。
 「熊本で原料を調達するなど結びつきが強くなっていた。地震で高速道路が分断され、地域が孤立する事態に直面し、自分自身の取り組みが中途半端だったのではないかと反省した。我々の商品はまだまだ九州の人には知られていない。グローバルな視点は持ちつつも、外のマーケットばかりを追うのではなく、九州の中で浸透することが大切だと感じた。九州で生まれ、誰もが知っているアイスクリームの『ブラックモンブラン』や、清涼飲料の『スコール』のような存在になりたい」

 ―起業を志す人にメッセージをお願いします。
「大学を出て就職する、会社勤めをする、それに加えて第三の選択肢を皆が持っていいと思っている。起業して稼ぐだけでなく、地域活動に関心を持って没頭するのもいい。そしてそんな挑戦が失敗しても認めてもらえるような社会だといいなと思う」(聞き手=大分・宗健一郎)
村岡浩司(むらおか・こうじ)氏。88年(昭63)宮崎県立大宮高校卒。渡米し、輸入衣料や雑貨を扱う会社を設立。98年に家業であるすし店に入り、すし職人に。12年、九州の素材だけで作った「九州パンケーキ」ミックスを発売。各地で飲食店を手がける一方、九州各地のまちづくりや食を通じたコミュニティー活動に取り組む。宮崎県出身、48歳。
田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
九州は人口規模も面積も日本全体の約1/10のスケールとなっていて。産業も農林水産業、工業、観光業などバランスがとれている。利便性の高い福岡空港や、九州各地の空港から韓国インチョン空港に乗り入れており、世界中へのアクセスが良い。アジアに近いという立地もグローバル社会の中で有利に働いている。九州は一つの島ということもあり、他の地方に比べると連帯感が強い傾向にある。そのような背景も九州パンケーキが大きく成長している原動力になっているだろう。この九州パンケーキをきっかけに、さらに九州が一つにまとまることができれば、九州のさらなる飛躍につながるはずだ。

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