再生医療に応用進むiPS細胞、欠かせない臨床医の冷静な視点

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 iPS細胞(人工多能性幹細胞)を組織の細胞に分化させ、患部に移植する再生医療の臨床研究が進む。5月に大阪大学の沢芳樹教授が進める研究が了承された。iPS細胞を使った臨床研究が行われるのは、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーが進める眼科疾患「加齢黄斑変性」を対象とした研究に続き、第2例目。慶応義塾大学なども計画しており、2018年はさらに再生医療の動きが活発化する。

 阪大の沢教授の研究では、心臓に血液が行き届かない「虚血性心筋症」が原因で心不全となった重症の患者3例を対象としている。患者の心臓に、iPS細胞から作製した心筋細胞シートを移植する。若い細胞でできた細胞シートからは、「サイトカイン」というたんぱく質が分泌され、血管の新生に作用する。これにより心筋への血流が改善し、心機能が改善する仕組みだ。

 また、慶大医学部整形外科学教室の中村雅也教授らは、脊髄損傷の患者を対象とした再生医療の臨床研究を計画している。損傷後2―4週間で、運動機能と感覚が完全にまひした重症の患者が対象となる見込みだ。

 進められている臨床研究の対象患者には、「他に有効な治療法がない」という共通点がある。他のリスクと比較しても、iPS細胞を使った再生医療による有益性が上回ると判断された患者に限定される。

 沢教授の研究では、他の治療法の効果がなく数年以内の死亡リスクが高いとされる重症心不全の患者が対象だ。沢教授は、「現時点でベストな治療法として再生医療を提供する」と説明する。

 また脊髄損傷の場合、感覚が一部だけ残る重症の患者でも15―20%程度がリハビリで歩行が可能になるという。そこで、現時点では治療の見込みが極めて低い完全まひの患者を対象とした。中村教授は「倫理的側面からも、まずは現時点で治療の選択肢がない患者を対象とするのが妥当だ」と話す。

 iPS細胞は当初から再生医療への利用が期待された。今ようやく臨床にたどり着き、現在は主に安全性の評価に重点が置かれるが、今後は有効性の評価の視点も必要となってくる。

 iPS細胞を使った再生医療は、方法も対象となる患者も従来の治療とは異なる。有効性評価も従来の評価項目だけではなく、再生医療に沿ったものを検討する必要がある。

 そこには、「他に治療の選択肢がない重症の患者」を多く診てきた臨床医の視点が欠かせない。沢教授は自身の臨床研究の有効性について「生存率を重視すべきだ」と話す。

 心臓の機能を示す数値だけが、患者の重症度を表しているわけではないという臨床の経験があるからだ。生存率で有効性を評価するには、長期にわたる研究が必要になってくだろう。
                

 

日刊工業新聞2018年7月24日

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臨床応用に大きな期待が持たれるiPS細胞だが、数ある医療の可能性の一つとして、冷静に見守っていくことが重要かもしれない。 (日刊工業新聞社・安川結野)

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