生産性革命の“切り札”だが…IT活用進まない中小企業

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東商夏季セミナー。会頭、副会頭、特別顧問らが出席した合同会議
 IoT(モノのインターネット)技術の大幅な進展で、付加価値がモノからサービスへ移行している。ただ、中小製造業のIT利活用は工場内のデータを取得して生産性向上に結びつけようとする取り組みにとどまり、サービス化を含む新たなビジネス創出にまで結びつけている割合は極めて低い。大企業と中小企業との間で生産性格差が拡大する中、中小企業の生産性革命の“切り札”として期待される、IT利活用の現状を追った。

大企業と格差拡大


 東京商工会議所は6日、中小企業の経営課題の解決について議論する夏季セミナーを都内で開いた。三村明夫会頭をはじめ副会頭や特別顧問ら約140人が参加した。「2020年生産性革命の実現に向けて―真に豊かさを実感できる経済社会を目指して―」を演題とするグループ別セミナーでは、中小企業の生産性向上に向けて、IT利活用を促す方法などを話し合った。

 IT利活用が中小企業の生産性向上の有効な手段だとするデータとともに、大企業と中小企業の間で生産性格差が年々拡大していることや、国内総生産(GDP)の約7割を占めるサービス産業に生産性向上の余地が高いといった課題が示された。

 参加者からは「働き方改革は顧客にお願いすることで対策が進んでいるが、生産性向上はどうしたらいいか途方に暮れているのが経営者の現状だ」といった指摘があった。「会社トップである経営者が強力にIT化を進めていくことが重要ではないか」「IT活用のための専門人材を社内に設けるべきだ」「他の企業が成功している良い事例の横展開が必要だ」といった意見が出た。

顧客ニーズ先取り


 IoT技術の進展によって事業で用いるモノをインターネットに接続し機械の稼働状況といったさまざまなデータの取得ができるようになった。さらにデータの処理能力が高まり、データを集めてビッグデータ(大量データ)解析を行うことで、単なる需給のマッチングではなく顧客のニーズを先取りすることも可能になった。モノを通じて顧客との接点に価値が生まれている。

 しかし、収集したデータの活用状況は中小製造業において偏りがあるようだ。日本政策金融公庫総合研究所が三菱UFJリサーチ&コンサルティングとまとめた報告書「IoT時代にサービスで新たな付加価値創出に取り組む中小製造業」によると、センサーやITを活用して工場内のデータを取得し、商品開発や生産改善に結びつけようとしている割合が高いのに対し、新製品を作ったりサービスやソリューションに結びつけたりしている割合は著しく低かった(図)。

 日本公庫総合研究所の足立裕介主任研究員は、「これからは製造業でも、単なるモノづくりだけでは付加価値を維持しにくくなっている」と指摘する。従来はモノの機能を高めることが顧客の価値創出に直結しており、製品販売後のアフターサービスやメンテナンスは、あくまで製品を売ったり顧客をつなぎ留めたりする手段としてのサービスだった。

 しかし、IoTによって顧客とつながることで新たなサービスが生み出されるようになり、モノの利活用からもたらされるデータが顧客の満足度や利便性に大きな影響をもたらすようになった。収益性が低いとされていたアフターサービスやメンテナンスが、場合によっては製品を上回る価値形成の手段となりつつある。

 IoTを活用したプラットフォームは、早い段階で広く浸透させた方が、先行者利益を得やすいと言われている。足立主任研究員は「中小企業でも、IoTの活用によってサービス化に取り組みやすくなっており、新たな競争優位を獲得するチャンスだ」と話す。

人手不足が深刻化


 そもそも、経営資源の制約が大きい中小企業にとってIT導入のハードルが高いのも実情だ。とりわけ、人工知能(AI)やビッグデータ、IoTといった先端技術の利用となればなおさらである。

 2018年版中小企業白書によると、先端技術のうちの少なくとも一つ以上を活用している中小企業は、まだ全体の1割程度にとどまり中小企業への普及は乏しい。

 だが、これら先端技術を活用した企業は未活用企業よりも売上高と経常利益額が増加傾向にあるうえ、3年前と比べて労働生産性も向上している割合が高いことが明らかになった。

 少子高齢化を背景に、製造業に限らずあらゆる業種の中小企業で人手不足が深刻化している。政府はITツールを導入して業務効率化をサポートする支援を補助金などを通じて後押しし生産性向上を急ぐが、「中小企業ではIT活用が爆発的に進むような状況に至っていない」(政府関係者)のが現状だ。

 

日刊工業新聞2018年7月23日

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労働の担い手の中心である生産年齢人口の減少が加速し“待ったなし”となる中、今後どのように中小企業にIT利活用を促進させるかが大きな課題となっている。 (日刊工業新聞社・山下絵梨)

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