ニュースイッチ

星野リゾートはなぜ強いのか。社長・星野佳路が語る「成功の条件と世界戦略」

「日本の観光産業は、需要ではなく運営や生産性に問題がある」(星野社長)
星野リゾートはなぜ強いのか。社長・星野佳路が語る「成功の条件と世界戦略」

星野社長


世界中の大都市で「ホテルか日本旅館か」を選ぶマーケットは必ずある。東京はその試金石


 ―2016年には、初の都市型日本旅館「星のや東京」が開業します。
 「星野リゾートの20年後、30年後を考えるときに、世界の大都市に日本旅館を作るということが、夢であり課題。90年代のバブル経済のときに、米国に留学していたが、日本のホテル業界は絶頂で、日本航空やセゾンが米国のホテルを買収して進出していたが、結果的にうまくいかなかった。あのときはみんな必死に頑張ったし、私もそれに加わった。当時の反省を踏まえた上で、もう一度日本のホテル業界が世界に出るチャンス担いたい」

 「ニューヨークやサンフランシスコでトヨタが走ってるし、今や世界中に寿司屋がある。世界の旅行者が大都市で日本旅館に泊まるという選択肢を与えることは絶対に可能だ。フランス料理と日本料理の選択と同じように、ホテルか旅館か選ぶ。そのマーケットは必ずある。宿泊客は日本旅館の快適性や素晴らしさを支持してくれている。十分にやる価値がある」

 「その中で、東京は外せない都市であり、日本旅館を大都市で通用し、その上で収益を出せることを示すには、まず東京でやらないことには話にならない。星のや東京はそういう位置づけで、うまくいけば、日本旅館が世界に出ていくドアが開く。星のや東京が東京で勝てなければ、日本旅館は海外に出る機会を逸する。そういう重要なプロジェクトだ。東京で収益を出せば、世界の都市の開発会社や不動産投資家が認めてくれるようになる」

 星のや東京がオープンして浴衣を着て大手町を歩いてもらえれば楽しい

 ―日本旅館と西洋のホテルの違いは。
 「日本旅館はホテルに入ったらセミプライベートが始まるということ。西洋のホテルはホテルに入ってもパブリックで、ロビーやレストランに宿泊客でない人がいる。日本旅館は靴を脱ぐ瞬間からセミプライベートが始まり、施設内に宿泊客以外の人がいないから、浴衣でうろうろしてもいい。そこが日本旅館として譲ってはいけない線だ。日本旅館が進化し、快適性、機能性で西洋のホテルに負けないということが大事で、それさえきちんと担保されれば、日本に行ったら日本旅館という選択肢が自然に受け入れられる」

 「機能的に足りないところを修正しながら、変えてはいけないところは変えない。概念的には、旅館が進化した形で、どこからみても旅館だけど、機能性や快適性で何ら大手の外資系ホテルに妥協するところがない、というのが開発のテーマ。星のや東京がオープンすることで、浴衣を着て大手町を歩いてもらう、みたいなことがあると面白いな、と思っている」

 本業で失敗しも学びがあるが、サイドビジネスは本当のロスになる

 ―これまでの企業経営の経験の中から、経営者として成功に最も必要なものは何だと思いますか。
 「本業からぶれないことが大事だと思う。星野リゾートもこれまで、投資のタイミングや施設の改装・改築が過剰だったり、経営判断の間違いもあったが、本業をホテルの運営と定義して、そこからぶれなかったことがよかった。本業での間違いから学ぶことはプラスになるが、サイドビジネスで失敗すると痛手だけを被り、本業は停滞してしまう」

 「本業で失敗して損をしても反省して学べることがあれば、勉強代としての投資にもなるが、サイドビジネスのロスは本当にロスになる。常に意識しているのは稼働率、単価、顧客満足度くらいで、いつでも夢に向かって進める活動をしていきたい。寄り道せず、まっすぐ向かう。注意しているのはそのぐらいだ」

  <プロフィール>
 星野佳路(ほしの・よしはる)
 慶應義塾大学経済学部卒。米国コーネル大学ホテル経営大学院で経営学修士号を取得後、シティバンクなどを経て1991年、星野リゾート代表取締役社長。観光リゾート業界の風雲児として頭角を現し、日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目されている。長野県軽井沢生まれ。初代の星野嘉助が生糸業を興し、所有していた中軽井沢の山林に温泉を掘って旅館業を始めた。55歳。
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
アマンやアンダーズなど、不動産をもたずに運営に特化した外資の高級ホテルチェーンが相次いで日本市場に参入する中で、星野社長は「20数年前に話していたことが本当に起きている」と、この流れを予想していたと言います。「(ホテルの競争は)最終的に運営会社同士の戦いになって、ノウハウの長けている方が勝っていくと言う構図は、当初想定した通りで、そこに負けないために特殊な運営方法選んできた。それが競争力になっている」とも。日本の宿泊施設の常識を打ち破り、「マルチタスク」という独自の人材活用方法で収益力を高める経営手法は、日本市場だけを見ていたら生まれなかったものなのかもしれません。

編集部のおすすめ