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中国ロボットの勢い止まらず!地場メーカーの台頭が加速

担当記者の現地レポート&地場有力メーカーの経営トップインタビュー
中国ロボットの勢い止まらず!地場メーカーの台頭が加速

瀋陽新松機器人自動化のロボット

 中国系ロボットメーカーの成長が著しい。中国ロボット産業連盟(CRIA)によると2014年は中国メーカーの販売台数が前年比77・1%増の1万7000台に拡大した。大手の瀋陽新松機器人自動化や広州数控設備のほか、安徽埃夫特智能裝備や南京埃斯頓機器人工程など後発組も台頭している。足元では主要ユーザーである自動車業界の減産、そして中国経済全体の停滞といった不安材料があるのも事実。だが中国製造業の自動化ニーズは根強く、また政府の支援施策も強力にロボット業界を後押ししている。中国系メーカーの勢力拡大は、しばらく止まりそうもない。

 【30%以上の成長見込む】
 「わが国のロボット産業は非常に速いスピードで発展している」。CRIA理事長で瀋陽新松機器人自動化総裁の曲道奎氏は、こう断言する。CRIAは14年の国内総販売台数を前年比55・7%増の5万7000台と推定。15年も30%以上の成長を視野に入れる。

 ファナック安川電機、独クーカ、スイスのABBなど海外大手がしのぎを削る中、見逃せないのが中国メーカーの台頭だ。瀋陽新松機器人自動化は14年に50―60%の販売増を記録。15年は「保守的にみても50%は伸びる」(哈恩晶部長)という。

 広州数控設備も15年に同2倍近くの実績を見込んでおり、事業拡大のスピードには目を見張るものがある。日系など海外勢の力が圧倒的な中国市場では、地場メーカーのシェアは多めにみても30%程度とボリュームはまだ小さい。それでも最大需要地の同国で、着実に存在感を高めているのは事実だ。

 中国経済は株価の急落などにより、先行きへの不安感が高まっている。ロボット産業も主要ユーザーである自動車業界の減産などにより、これまでの急成長を維持できるのか疑問符が残る。だが、広州数控設備の何敏佳董事長兼総経理は、「自動車などの生産量が減っても、当社にはほとんど影響がない」と慎重意見に真っ向から反対する。瀋陽新松機器人自動化も「成長は止まらない」(同)と強気の姿勢を崩さない。

 背景にあるのが、中国の製造業全体を覆う巨大な自動化の波だ。これまで人海戦術で世界の工場として発展してきた同国の製造業だが、人件費高騰や人手不足などで、機械主体の生産に移り変わりつつある。「ロボットの導入は多くの企業にとって避けては通れない道」(同)だという。

 急速に勢力を増す中国系のロボットメーカー。だが、同国で高シェアを誇る日系メーカーにとっては、まだ脅威になっていないようだ。安川電機(中国)の西川清吾ロボット事業統括部董事事業部長は「中国メーカーは一見、当社のロボットと同じように動く製品は作れる。しかし産業用ロボットは、アーム先端のツールが最終的にどんな仕事をするかが重要。ツールとの組み合わせや制御技術など、ノウハウにはまだまだ差がある」と豪語する。

 ただ、一方で瀋陽新松機器人自動化の哈部長は「欧州メーカーは自動化の最先端、日系メーカーは中間、我々のレベルはまだ低いが、日系とはそのうちライバルになる」と不敵にほほえむ。現状で中国メーカーが進出しているのは荷積みをはじめ簡単な用途に限られるが、今後中国側の技術レベル向上に伴い業界構造がどう変わるのか、注目したい。

 【政府の全面支援でロボット産業を育成】
 中国ロボット産業の成長を語る上で、欠かせないのが行政の存在だ。中央政府は労働力減少対策や産業競争力強化を目的に、作業者1万人当たりのロボット稼働台数を現状の30台前後から100台以上に高める目標を設定。国の方針に従い、地方政府もロボット産業の育成に心血を注いでいる。

 例えば広州数控設備が本社を構える広東省広州市は、地元産業用ロボットの導入費用に対して1台当たり20%以内(限度額3万元)を補助するなど、地場企業を対象に自動化支援施策を推進。他の地方政府も同様の制度に力を入れるほか、技術を持つ海外ロボットメーカーの誘致にも積極的で「あらゆる市から工場新設のオファーがあり、税制をはじめ優遇条件もかなり良い」(日系ロボットメーカー幹部)という。

 政府は当然中国系メーカーの育成にも力を入れており、研究開発助成などにより技術力の底上げを図っている。結果、後発組の安徽埃夫特智能裝備や南京埃斯頓機器人工程などが急速に力をつけているほか、新規参入も活発だ。

 現在、中国系メーカーの数は大小合わせて約400社。「今はまさに黎明(れいめい)期。今後産業全体として発展するのは間違いないが、弱い企業の淘汰(とうた)も進むだろう」(中国メーカー関係者)。競争が激しいからこそ、メーカー各社は必死だ。「まだレベルは低いが、成長の速さは予想以上」と、ある日系メーカー幹部は舌を巻く。官民が一体となり猛スピードで突き進む姿は、中国ならではだ。

 日系、欧州系のロボット大手にとっても中国はさらなる事業拡大が期待される地域だけに、地場メーカーの動向からはこの先も目が離せない。

日刊工業新聞2015年07月14日 深層断面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
現地を見てきた人の話によれば「とにかく地場メーカーの勢いがすごかった」とのこと。中国では国産品が優先的に導入される土壌があるので、その勢いはとどまらないだろう。最近は技術面での躍進もめざましい。その中で戦う日系メーカーの差別化ポイントは品質なのか、はたまた別のものになるのか。数年後にはビジネスモデルにも変化が見られるかもしれない。

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