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ジャパンディスプレイ新社長、黒字化へ「もう言い訳はできない」

月崎氏に聞く「聖域なき原価低減を徹底する」
 ジャパンディスプレイ(JDI)は19日の株主総会を経て新社長に月崎義幸氏が就任した。2018年3月期に過去最大となる当期赤字2472億円を計上した同社は収益力向上が最大のテーマ。スマートフォン向けパネル事業の構造改革や、スマホに次ぐ事業の育成など課題は多い。月崎氏に今後の取り組みを聞いた。

 ―課題をどうとらえていますか。
 「きちんと収益を出せていないのが最大の課題だ。投資が重かった部分がその一つ。また拠点も含め、3社統合して発足した時点での体質を温存してしまった。ただ17年度の大規模な構造改革で、固定費はかなり軽くなった。課題に対する展望は見えてきた」

 ―中国では特にスマホ事業の価格競争が激しく利益を出せていません。テコ入れは。
 「中国ビジネスは薄利多売の面がぬぐえない。受注から設計開発、生産も含めて現地化を進める。現地でクローズできる体制を整え、事業効率を高める。車載向けは大きく伸びる余地がある。中国専任チームを組織し、相当力を入れている。受注も取れ始めた」

 ―中国パネルメーカーに勝ち抜くには。
 「駆動回路技術を軸とした技術力では我々に優位性があり、消費電力などの特性で勝っている。今、攻勢をかけている(4辺狭額縁の)『フルアクティブ液晶』のような、付加価値の高い製品でいかに価格下落を抑えるかもテーマ。新しい技術を取り入れた先進的な製品を早く市場投入するのが強みであり、同時に強化しないといけない部分だ」

 ―18年度は営業利益率2―3%が目標です。
 「フルアクティブ液晶の売り上げ貢献に加え、聖域なき原価低減を徹底する。生産プロセスの見直しにまで踏み込み、変動費を2ケタ%削減したい」

 ―新規事業の進捗(しんちょく)は。
 「我々の薄膜技術をあらゆるセンサーに応用したい。指紋センサーに次ぎ、新たな生体認証センサーに取り組もうとしている。サービスなどを組み合わせたソリューションビジネスも踏まえ、パートナー選びも始めた」

 ―印刷式有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルを手がけるJOLEDの子会社化を撤回しましたが、関係強化の方針を打ち出しています。
 「有機ELという武器がラインアップに加わる点はメリットだ。顧客への提案をワンストップでできる。営業と開発、製造において現在の協業関係で十分メリットは出ている。さらに協力関係を深めようとしている」

 ―社長就任にあたり抱負は。
 「当期黒字化が最大のミッションだ。素晴らしい技術や製品があっても、結果を出せないとステークホルダーには納得してもらえない。17年度にうみを出し切った。もう言い訳はできない」
(聞き手=政年佐貴恵)

変動費削減や現地化率アップ


 ジャパンディスプレイ(JDI)は利益創出力向上に向けた施策を加速する。生産プロセスの見直しなどを進め、2018年度に変動費を前年度に比べ2ケタ%削減する。中国でのスマートフォン用液晶パネル事業では、販売から設計開発、生産まで現地化率を高める。同社は18年度の目標として営業利益率2―3%と、当期黒字化を掲げる。液晶パネル新製品による売り上げ増に加え、コスト削減を徹底することで目標の必達につなげる。

 変動費削減は、個別課題解決に向けた専門組織「クロスファンクショナルチーム」のテーマの一つとして取り組む。液晶パネルの加工(前工程)を手がける国内の生産拠点で、例えばガスや液剤といった間接材を対象に生産プロセスの変更も含めてコスト低減策を見直す。

 サプライチェーン全体でVA(価値分析)活動も進める。さらに海外生産拠点も含めた基幹システムを効率化し、作業性改善につなげる。

 中国では主にスマホ用液晶パネルを対象に、パネル加工以外の工程を現地でできるよう権限移譲する。従来、受注活動や品質保証といった部分は現地で行っていた。だが設計開発工程はほとんどを日本で手がけており、事業スピードの低下やコスト増の要因となっていた。現地化比率を引き上げることで、事業効率や顧客対応スピードを高める。

 JDIは17年度に4年連続の当期赤字に陥り、収益構造の改善が課題となっている。17年度には能美工場(石川県能美市)の譲渡や、後工程(検査・組み立て)を手がける中国の工場の統廃合など、固定費削減を実施した。18年度も引き続きコスト削減活動を強化し、黒字化を目指す。
日刊工業新聞2018年6月19日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
発足時からJDIの経営に触れてきた月崎氏。「新生・JDIとしてルールを一本化しなければならない一方、出身母体のDNAは消す必要はない」との持論を掲げる。月崎氏は変動費削減チームも率いる。生え抜き社長として各自の個性を生かしながら、収益構造改革にどこまで切り込めるかも、大きな命題の一つだろう。

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