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揺れる東芝「ガバナンス改革」日立は模範になるか?

外国人取締役が慣例を変えた。“日本流経営”のあり方そのものが問われる
揺れる東芝「ガバナンス改革」日立は模範になるか?

13年12月にワシントンで開催された日立の取締役会


かつての内向きの企業統治とは様変わり


 日立製作所は2014年3月期に営業利益で過去最高更新が見えてきた。事業構造改革は一定の成果を出し始めているが、このまま収益は拡大し続けられるのか。取締役会の議長として活性化に取り組んできた川村隆会長。一昨年、外国人初の社外取締役に就任、米3Mという巨大企業のトップとしてグローバル経営に豊富な経験を持つジョージ・バックリー氏。取締役会のキーマン2人に、改革の現在地と課題を聞いた。

川村隆会長(現相談役)「もめ事が起きないようでは改革はできない」


 ―ジョージ・バックリー社外取締役などは「まだスピード感が足りない」と指摘しています。
 「私や中西宏明社長の考えていることと同じで、意見がマイルド過ぎるとか、もっと劇的に方向性を決めないと間に合わないとか。社外取締役は多くいた方がいい。(義務付けを反対した)経団連と日立のガバナンスは違ってきている」
 
 ―新興国で社会インフラの潜在顧客向けに頻繁にイベントを開いています。会長・社長の理想と、現場の実ビジネスに乖離(かいり)があるようにも感じますが。
 「海外現地法人のトップも自分の事業のことだけを考えていたら何も変わらない。意識を変えるのには時間もかかるし、無理やり引っ張っている面はどうしてもある。もめ事が起きないようでは改革はできない」

 ―本社部門の改革にも着手しました。
 「日立は(実質的な)事業持ち株会社を目指しているので、グループ会社を含め横串の戦略がいる。他社にはあまりない形態かもしれない。だから日立本体の本社部門はとても大事で、実力のある人材だけを残す。海外法人の外国人トップで実績をあげれば持ち株会社の役員にさせ、そこで力を付ければ将来は日立の社長だってありえる。まったく別の会社からいきなり外国人を連れてきてトップにさせるのは、日立の事業特性上難しい」

 ―以前、営業利益率10%を目指す中で構造改革は3合目ぐらいと話されていました。現在は。
 「5合目ぐらいは見えてきたが、再編する必要があるものはまだかなり残っている。しかし事業をすべてなくすとブランドや技術面で困るものもある。相関でいろいろ考えているところ。(10%に向け)少しずつ進んでいるが、(抜本的なコスト改革プロジェクトの)『スマトラ』をもっとしっかりやる必要がある」

 ―川村―中西体制は市場からも評価と期待が高い。改革路線の途中でトップが代わることを危惧する声もあります。
 「業績が悪くなければ代わりにくいのは確か。でも年齢はかなり重要な要素。我々は『年寄り救援隊』で、長くやるのはまずい。カンパニージェットを保有して10分の時間も無駄にしない企業トップもざらにいる。日立もそうなった時には、60歳後半や70代のトップでは無理だろう」

ジョージ・バックリー社外取締役「経営者の育成は新製品の開発と同じようにやる必要がある」


 ―社外取締役になって約1年半。日立が抱える最大の課題は。
 「グローバル企業を模索しているが、まず各地域のマネジメントに権威を与え、意思決定を分散化しなければいけない。もう一つは、ビジネスをより簡素化することだ。急成長している市場、エンドマーケットに焦点を当てるべきだ。川村(隆)会長、中西(宏明)社長は『もっと早く動かなければ』と話しているが、私もそう思う」

 ―米ゼネラル・エレクトリック(GE)やドイツ・シーメンスなど世界の競合相手に比べ見劣りしていると。
 「いや、シーメンスは日立と同じ問題を抱えている。巨大で複雑な企業であり、多くの部門で利益を出しているが収益性は低い。GEは少し先を行っているが、さらに金融や最終商品を縮小し、エネルギーなどに注力している。現在の競争環境においてマーケットパワーを持つには、事業のリインベント(再定義・再発明)が最も重要だ」

 ―営業利益率10%を目指す上で必要なことは。
 「事業ポートフォリオはもっと入れ替えなければいけない。その過程でリストラも不可欠だろう。一方で日立には息をのむような幅広いテクノロジーが多くある。それを少しでも早く市場に投入し、成熟させる戦略をとるべきだ。『安定の前に繁栄が必要』という言葉を忘れてはいけない」

 ―欧米企業は業績が好調な間は、あまり経営体制を変えません。しかし川村会長、中西社長は世代交代を意識しています。
 「中西さんは日立の改革の要。とても賢く思慮深い。人によく接し一生懸命仕事をする。経営者として素晴らしい資質を持っている。川村会長も忘れてはいけない。彼には先見の明があり、日立に必要なことを常に先読みし、そして中西さんを育てた。2人にはできるだけ長く続けてほしい」

 ―次のリーダーが育っていないという声もありますが。
 「経営者の育成は新製品の開発と同じようにやる必要がある。取締役会として先のことは準備しなければならず、事業戦略も18年度ぐらいまでは議論している。(交代の)具体的な話はないが、すべての人間は時計に勝つことはできない。この件は心配しておらず、日立は長く安定した状況でいるだろう」
 
 【記者の目/トップ交代の過程明快に】
 川村会長は執行役を外れているとはいえ、実質的にグループ戦略を取り仕切るなど執行側に近い存在。現在の改革路線は川村・中西ペアで動いており、市場も2人のリーダーシップにプレミアムを付けている。だからマネジメントの交代には敏感だ。 日立の取締役のうち社外が8人で、うち外国人が3人も占める。かつての内向きの企業統治とは様変わりした。いずれトップ交代があるだろう。その時に川村会長と中西社長は、タイミングや人選について取締役会で納得してもらう必要がある。ズバズバ意見を言う外国人取締役はどんな助言をするのか。経営体制のスムーズな移行が成長のカギを握る。
 (聞き手=明豊)
日刊工業新聞2014年01月07日 電機・電子部品・情報・通信面/2015年05月12日1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
最終的に東原現社長に決めたのは、川村氏と中西氏(現会長兼CEO)の二人。決議する取締役会では外国人の社外取締役から一部意見もあったが、場の“空気”は変わらなかったという。社外取締役の意向でトップが決まるケースが多い米国型のガバナンスを、そのまま日本に持ってきてもうまくいかないだろう。 日立の現在の執行体制は、中西CEOのリーダーシップに依る部分が大きい。「リーダーシップ」と「独断」は紙一重。力強いマネジメントの基礎は、確固たるガバナンスにあることを、日立はこれから証明していく必要がある。

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