何かを書くために必要な情報の収集・整理法【文章ゼミ#5】
集めた情報の整理は思考形成プロセス
この記事のポイント
1、日頃の情報収集が大切
2、よくある虚報に注意! 例えば・・・
3、情報を仕分ける力=自分のレベル
執筆が決まってから慌てて情報収集すると,ネット上の膨大な実報と膨大な虚報におぼれてしまう危険性が高い。ここでデータと情報(実報・虚報)の関係は;
・データに正しい形を付与(イン・フォルメ)したのがInformation(実報)
・データをねじ曲げて変形(デ・フォルメ)させたのがDeformation(虚報)
となる。改ざんやフェイクニュースの多発など,Information SocietyはDeformation Society(仮称)でもあることに注意すべきだ。
短時間に収集するのではなく,日頃からネットなどから情報収集してフォルダにいったんストックし,後で見直して良品だけを残しておく。インターネット経由で多くのIT リソースを,オンデマンドで利用することができるクラウド時代に,あえて情報を手元にストックしておくのは無駄に見えるかもしれないが,実際にやってみると,GUI(Graphical User Interface)の進化と大容量メモリのおかげで大した手間でない。
むしろこれを続けていくことで,断片的な部分知が融合されて全体知に育っていく。収集物の整理は思考形成プロセスであり,継続は(論理)力になる。
ネットだけが虚報源ではない。
通俗本には「電気の運び手は電子で,その移動速度は速いので,スイッチを入れれば電気はすぐに伝わります。」の類の虚報が多いので注意する。「電気の運び手は電線に沿って伝わる電磁波で,電気は光と同じ速度で伝わる。電磁波が到来すると電子が動く。速度はカタツムリの歩みと同程度である」が正しい。誰しも専門外のことは間違っているのかどうか分からないので,引用するときは慎重であるべきだ。
専門書や教科書でも根本的な誤りが想像以上に多いので注意が必要である。例えば、手元の権威ある大学の熱力学の教科書に,「上下限温度が同じならカルノーサイクルの効率が理論上の上限でガソリンエンジンのオットーサイクルや,ディーゼルサイクルの効率は,カルノーサイクルより必ず低くなります。」と書いてある。
しかし,ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは,熱サイクル機関(外燃機関)ではなく内燃機関(酸化還元反応をさせて自由エネルギーを取り出す装置)であり,理論効率は熱サイクル理論ではなく,化学平衡論で決まる。作動原理の異なるものを比較すると,「エンジンの燃焼温度を高温にしないと熱効率が上がらない」などの誤解が生まれる。
技術分野ごとのフォルダに集積された情報を,ときどき閲覧し実報と虚報とに区分けする。区分け作業は非常に難しいが,仕分けの力=自分の技術レベルだから腹をくくり勉強するしかない。学問に王道はないのである。
高度のシステムは細分化された多くの専門技術を寄せ集めている。当然すべてを理解するのは難しいので,重要な技術分野をトリアージ(優先順位付け)する能力もいる。
次回:#6 「矢印」と「箱」で論理透明度を上げる (公開予定日6月24日)
この連載について
筆者プロフィール:廣田幸嗣(ひろた・ゆきつぐ)
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。
主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)>
1、日頃の情報収集が大切
2、よくある虚報に注意! 例えば・・・
3、情報を仕分ける力=自分のレベル
執筆が決まってから慌てて情報収集すると,ネット上の膨大な実報と膨大な虚報におぼれてしまう危険性が高い。ここでデータと情報(実報・虚報)の関係は;
・データに正しい形を付与(イン・フォルメ)したのがInformation(実報)
・データをねじ曲げて変形(デ・フォルメ)させたのがDeformation(虚報)
となる。改ざんやフェイクニュースの多発など,Information SocietyはDeformation Society(仮称)でもあることに注意すべきだ。
短時間に収集するのではなく,日頃からネットなどから情報収集してフォルダにいったんストックし,後で見直して良品だけを残しておく。インターネット経由で多くのIT リソースを,オンデマンドで利用することができるクラウド時代に,あえて情報を手元にストックしておくのは無駄に見えるかもしれないが,実際にやってみると,GUI(Graphical User Interface)の進化と大容量メモリのおかげで大した手間でない。
むしろこれを続けていくことで,断片的な部分知が融合されて全体知に育っていく。収集物の整理は思考形成プロセスであり,継続は(論理)力になる。
ネットだけが虚報源ではない。
通俗本には「電気の運び手は電子で,その移動速度は速いので,スイッチを入れれば電気はすぐに伝わります。」の類の虚報が多いので注意する。「電気の運び手は電線に沿って伝わる電磁波で,電気は光と同じ速度で伝わる。電磁波が到来すると電子が動く。速度はカタツムリの歩みと同程度である」が正しい。誰しも専門外のことは間違っているのかどうか分からないので,引用するときは慎重であるべきだ。
専門書や教科書でも根本的な誤りが想像以上に多いので注意が必要である。例えば、手元の権威ある大学の熱力学の教科書に,「上下限温度が同じならカルノーサイクルの効率が理論上の上限でガソリンエンジンのオットーサイクルや,ディーゼルサイクルの効率は,カルノーサイクルより必ず低くなります。」と書いてある。
しかし,ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは,熱サイクル機関(外燃機関)ではなく内燃機関(酸化還元反応をさせて自由エネルギーを取り出す装置)であり,理論効率は熱サイクル理論ではなく,化学平衡論で決まる。作動原理の異なるものを比較すると,「エンジンの燃焼温度を高温にしないと熱効率が上がらない」などの誤解が生まれる。
技術分野ごとのフォルダに集積された情報を,ときどき閲覧し実報と虚報とに区分けする。区分け作業は非常に難しいが,仕分けの力=自分の技術レベルだから腹をくくり勉強するしかない。学問に王道はないのである。
高度のシステムは細分化された多くの専門技術を寄せ集めている。当然すべてを理解するのは難しいので,重要な技術分野をトリアージ(優先順位付け)する能力もいる。
次回:#6 「矢印」と「箱」で論理透明度を上げる (公開予定日6月24日)
この連載について
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。
主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)>