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コミュニケーション論から見た技術文書【文章ゼミ#02】

「読み上手は 書き上手,書き上手は 読み上手」
この記事のポイント
1、組織の生産性を上げるためのコミュニケーションとは?
2、「可逆定理」とは?
3、可逆定理を文章上達に活かすには?


 コミュニケーション(communication)の語源は,ラテン語のコミュニス(communis),共有(common コモン)であり,これはコミュニケーションの本質を的確に表すものである。したがってコミュニケーションの日本語訳は「データや情報,知識,知恵の共有プロセス」になる。言い換えると,コミュニケーションとはメッセージのやりとりと,その結果(事象が共有されている状態)を表す概念と言えよう。

 「データ共有」の段階から「情報共有」へ,さらに「知識共有」から「知恵の共有」へと次第にコミュニケーションのレベルを高めると、組織の生産性が上がる。
メタデータが情報、メタ情報が知識、メタ知識が知恵

 コミュニケーション論は,一対一の対話からマスメディアまで幅広い分野で,「情報の受け手がどう解釈するのか」といった点について論じるものである。コミュニケーション論に立てば受け手が主役であり,読み手が主役である技術書の書き方と共通するものがある。

 ところで,この宇宙には可逆定理(相反定理)と呼ばれる,対称性を示す美しい現象が多くみられる。身近な例では,良いモータは良い発電機になり,その逆も真なりである。モータの性能を示すトルク係数Ktと,発電機の性能を表す起電力係数Keは相等しい。物理の教科書には,モータの原理としてフレミングの左手の法則(Fleming's left hand rule),発電機の原理として右手の法則(Fleming's right hand rule)が出てくるが,可逆定理によりフレミングさんの手形は左右対称である。

 コミュニケーションの世界でも,「聞き上手は 話し上手,話し上手は 聞き上手」という可逆定理が成立することが経験的に知られている。たとえば,講義の上手な先生は,学生の支離滅裂に見える質問にも的確に答えておられる。また,職場で部下に「お前の言うことはよく分からん」を連発する上司の指示命令ほど,意味不明なことが多い。これを技術書に言い換えれば,読み上手は 書き上手,書き上手は 読み上手,と言えよう。10年前に明治大学文学部教授の斉藤孝氏が,「読み上手 書き上手」 (ちくまプリマー新書)という本を出版されている。

 少しでも多くの人に読んで欲しいと思うのならば,まずは読書力を磨くべきである。日頃から優れた技術書に接して,それを注意深く読んでいる人は,書く力が向上するはずである。名画や名曲に多く接していると,審美眼が養えるのと同じである。

 技術文書は一発勝負の一方通行のことが多いので,読み手像を明確にすべきである。技術書の筋書き=フォローチャート(「#4 生産性の高い書き方」を参照)は,自分の論理でなく相手の頭の中で組み立てる。実験結果を今か今かと待っている上司には結論先行,新規顧客には背景から筋を立てて解説する。

 先のメディア論(「#1 誰が、何を、誰に伝える?」を参照)と組み合わせると、自分が置かれた状況に応じて論理展開のパターンを設計する必要がある。

次回:#3 論理的に書く能力を上げるには?( 公開予定日6月21日)
この連載について
筆者プロフィール:廣田幸嗣(ひろた・ゆきつぐ)
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。

主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
可逆定理が活かせるものは他にないでしょうか。

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