論理的に書く能力を上げるには?【文章ゼミ#03】
発想を刺激する、論理を鍛える
この記事のポイント
1、良い文章とは?
2、書く能力は,論理構成力に比例する
3、そもそも書くことはなぜ大切か?
良い文章とは,(1)中身のあることを,(2)読み手が理解しやすいように書かれたものであり,論理の流れが自然で見やすく平易な言葉が使われている。湿った情緒的,感情的な文章,気取って難解な表現を多用する文章ではなく,乾いた透明度の高い文章である。技術文書を書くには,客観的で筋の通った論理展開力が必要である。
ではどうすれば論理が鍛えられるのか? 昔から対話は,論理を鍛え学問の基礎になるものと考えられていた。ハーバード大学のサンデル教授の白熱教室も,対話形式の授業である。ロゴスlogos(論理,理性)のギリシア語源はlegein(話す)で,これをやり取り(dia)するのが,対話dia-logos(dialog)である。
対話をすると発想が刺激されて,類推(ana)による論理展開(ana-logos)が自由にできるようになる。時には,共に(sym)酒を飲む(posium)シンポジウム形式で談話すると発想が豊かになり,課題の本質が次第に明らかになってロジックが強靭になる。
「対話」の類似語の議論(discuss)には「バラバラに打ち砕く」、討論(debate)には「徹底的に叩く」という,相手を打ち負かすという意味合いが強い。これらは自分のロジックの正しさを証明するための最終関門で,論理はさらに鍛えられる。
しかし揮発性の高い話し言葉だけでは,現在の複雑な技術を論じるのが難しくなっている。文字や図表などで可視化して,論理展開を見やすくする必要がある。学会や会社では予稿や要報があり,それを下敷きにスライドを使って受け手に説明し,議論をするのが普通である。予稿や要報は限られたスペースに,自然な流れの論理を要領良く展開する必要があり,書き手は構成をいろいろと組み替えて見やすくする。こうして相手に分かりやすくしようと努力すると,論理展開の欠点も露わになり再構成が生じたりもする。ワープロソフトで原稿を書くようになってから,論理の組み換えが容易になっている。
文字や図表を使って論理を鍛えてゆくプロセスを見れば,論理構成力が書く能力と描く能力に比例することが分かる。「読む」「見る」「いいね」だけの受動的な生活を送っていると,いくら多くの情報に接していても思考力は身につかないだろう。
出版物の情報提供手段としての比率が下がった現在でも書き描く能力の価値は変わらない。例えば,映像放送番組でも説得力ある展開を支える「書かれたシナリオ」の存在が必須である。Webで深みのある主張を展開するときも,ベースに「書かれた論理」があってのことである。
要するに技術文書の表現力や書く能力を上げるには論理力を養うこと,反対に論理力を強化するには書くことである。これは堂々巡りの循環論ではなくスパイラルアップ論である。書かないと論理力が落ち,論理が弱くなると書けないからスパイラルダウンになる。人工知能の進化より人間の退化の方が怖いのである。
次回:#4 生産性の高い書き方 (公開予定日6月22日)
この連載について
筆者プロフィール:廣田幸嗣(ひろた・ゆきつぐ)
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。
主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)>
1、良い文章とは?
2、書く能力は,論理構成力に比例する
3、そもそも書くことはなぜ大切か?
良い文章とは,(1)中身のあることを,(2)読み手が理解しやすいように書かれたものであり,論理の流れが自然で見やすく平易な言葉が使われている。湿った情緒的,感情的な文章,気取って難解な表現を多用する文章ではなく,乾いた透明度の高い文章である。技術文書を書くには,客観的で筋の通った論理展開力が必要である。
ではどうすれば論理が鍛えられるのか? 昔から対話は,論理を鍛え学問の基礎になるものと考えられていた。ハーバード大学のサンデル教授の白熱教室も,対話形式の授業である。ロゴスlogos(論理,理性)のギリシア語源はlegein(話す)で,これをやり取り(dia)するのが,対話dia-logos(dialog)である。
対話をすると発想が刺激されて,類推(ana)による論理展開(ana-logos)が自由にできるようになる。時には,共に(sym)酒を飲む(posium)シンポジウム形式で談話すると発想が豊かになり,課題の本質が次第に明らかになってロジックが強靭になる。
「対話」の類似語の議論(discuss)には「バラバラに打ち砕く」、討論(debate)には「徹底的に叩く」という,相手を打ち負かすという意味合いが強い。これらは自分のロジックの正しさを証明するための最終関門で,論理はさらに鍛えられる。
しかし揮発性の高い話し言葉だけでは,現在の複雑な技術を論じるのが難しくなっている。文字や図表などで可視化して,論理展開を見やすくする必要がある。学会や会社では予稿や要報があり,それを下敷きにスライドを使って受け手に説明し,議論をするのが普通である。予稿や要報は限られたスペースに,自然な流れの論理を要領良く展開する必要があり,書き手は構成をいろいろと組み替えて見やすくする。こうして相手に分かりやすくしようと努力すると,論理展開の欠点も露わになり再構成が生じたりもする。ワープロソフトで原稿を書くようになってから,論理の組み換えが容易になっている。
文字や図表を使って論理を鍛えてゆくプロセスを見れば,論理構成力が書く能力と描く能力に比例することが分かる。「読む」「見る」「いいね」だけの受動的な生活を送っていると,いくら多くの情報に接していても思考力は身につかないだろう。
出版物の情報提供手段としての比率が下がった現在でも書き描く能力の価値は変わらない。例えば,映像放送番組でも説得力ある展開を支える「書かれたシナリオ」の存在が必須である。Webで深みのある主張を展開するときも,ベースに「書かれた論理」があってのことである。
要するに技術文書の表現力や書く能力を上げるには論理力を養うこと,反対に論理力を強化するには書くことである。これは堂々巡りの循環論ではなくスパイラルアップ論である。書かないと論理力が落ち,論理が弱くなると書けないからスパイラルダウンになる。人工知能の進化より人間の退化の方が怖いのである。
次回:#4 生産性の高い書き方 (公開予定日6月22日)
この連載について
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。
主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)>