AI研究の重鎮が語る、AI社会での人間の価値

AIが人間を超えるかどうかは、ナンセンス

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辻井潤一産業技術総合研究所人工知能研究センター長
 産業技術総合研究所の辻井潤一人工知能研究センター長は20日、都内で開催された講演会で、「人間と人工知能(AI)は協働する必要がある。価値観や目標の設定、広い文脈の理解や文脈の変化への対応ができるのが人間だ」と語った。AIについては、〈人間を超えるか超えないか〉などの混乱した議論もあると指摘。社会実装に向けて、AIの得意・不得意を理解した上で、多くの人に開かれた議論が求められる。

 朝日新聞社が主催する「朝日新聞ダイアログAIフォーラム2018」に、辻井研究センター長をはじめ、ソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)の北野宏明社長、メディアアーティストの落合陽一氏らが登壇した。

 北野社長は、米国と中国がAIの覇権を争う現状を受け、「日本が勝ち戦に持ちこむには、自動車や製造業などの実世界技術からAIに入るしかない」と警鐘を鳴らした。動きが遅れれば、メーカーは要求通りに安くて良いもの作るだけの負けパターンに陥る。

 落合氏は、「最終ユーザーが自分で簡単にAIをプログラミングできることが、多様な社会には重要だ」と語った。ハンディキャップを持つ人も働く社会の実現には、補助する道具が高価ではいけない。自分に合わせてプログラミングできれば、対象者の少ない多様な問題を解決できる。同フォーラムは、24日まで東京ミッドタウン日比谷(東京都千代田区)のビジネス創造拠点「BASE Q」で行われる。

型にとらわれない、柔軟で流動的な人材


 講演後、辻井研究センター長にAIの社会実装について見解を聞いた。

 ーAIの社会実装はどんな分野で、どんなスピードで進むのでしょうか。
 「私個人の考えとして話すが、AIが実装される分野は多岐に渡り、スピードは速い。製造業も今は動きが鈍いが、『AIを導入したい』という多くの声を聞く。日本の競争力のためにもやらなければならない。シミュレーションなどの周辺技術が整ってきた」

 ー医療分野での利用が期待されています。
 「医療費を下げながら質を上げるには、AIを使うしかない。予防医学の領域は、病気でない段階で可能性を見つけるため、膨大な検査データを扱う。今のAIは画像処理が強く、豊富なデータがあれば、人間より高度なことができる。個別の仕事に最適化されたAIは、かなり早く入るだろう」

 ー次のステップは。
 「全体最適化の領域にAIが導入されるには、制度的な課題もあり、時間がかかる。それでも、10年くらいのスケールで変化するとみている」

 ーAIと協働するために、人間はどんなマインドセットの変化が必要でしょうか。
 「大量生産の成功を支えたのは、それぞれが割り当てられた仕事をする分業社会だった。だが、固定化された仕事は、個別の仕事に特化したAIで置き換えられる可能性がある。一方、型にとらわれず、変化に柔軟に対応するのは、人間にしかできない。流動的な、組織にとらわれない人材が求められるのではないか」

 ー現在の第3次AIブームが、一時的な熱狂となる可能性はありませんか。
 「今のブームはいずれ終わるが、すでに次が控えている。次のブームは、(知識を与えて難しい問題に対処する)第2次ブームと、現在の第3次ブームを組み合わせたものになるだろう。研究者は準備を始めている」

COMMENT

梶原洵子
編集局第二産業部
記者

AIが社会に実装された時、私たちの生活はどうなるのか。具体的にイメージできる人は、まだ少ないのではないでしょうか。しかし、AIは専門家だけが使うものではなく、デジタル化された社会で暮らす全ての人に関わります。多くの人が情報を持って、オープンに議論に参加できるようにしていきたいです。

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