基礎研究は壊滅状態。詐欺のような研究が横行している…

研究者の認識悪化が顕著に

 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の総合的意識調査で基礎研究の認識悪化が明らかになった。基礎研究の多様性や成果、成果応用についてポイントが低下し、原因の一つに英科学誌「ネイチャー」の日本の科学力の低下を示す特集記事が挙げられた。この悪化は調査結果が調査対象を感化するエコーのような効果が表れたのか、研究環境悪化による総崩れの前兆なのか、見方が分かれている。

昨年度の結果


 NISTEPでは第五期科学技術基本計画(2016―20年度)の5年間、研究者のマインドを調べる総合的意識調査を実施している。調査2回目となる17年度の結果がまとまり、基礎研究への認識悪化が示された。

 基礎研究の多様性が確保されているか聞いた設問は、100点満点換算で16年度の33ポイントから17年度は30ポイントに低下、基礎研究から国際的に突出した成果が出ているか聞いた設問は47ポイントから41ポイントに、研究成果がイノベーションにつながっているか聞いた設問は45ポイントから41ポイントに下がった。NISTEPは3ポイント以上の変動を意味のある変化としている。

報道が影響?


 この変化の解釈を難しくしているのは他の設問がほぼ変動しなかった点だ。63問中60問は横ばいだった。

 悪化3項目の理由記述欄には16―17年度に変化した要因を挙げた回答はほぼなかった。16―17年度の間にあったのは英ネイチャーの特集記事とその関連報道だ。日本の大学や研究機関による研究水準の低下をデータで示した。伊神正貫科学技術・学術基盤調査研究室長は「理由として特集記事を挙げた方もいる。予想以上に研究者の心に効いているのではないか」と説明する。

 社会調査では調査結果が明らかになると、当事者が状況を再認識し、次の調査の回答に反映することがある。

数字以上の意味


 一方、意味のある低下は3問に留まったが、研究環境や研究マネジメントに関しては低下した設問が多いことも事実だ。63問中58問がポイントを下げ、平均点が50点を超えた設問は63問中3問しかなく、多くが20―40点代に留まる悲観的な内容だった。

 そして「資金の問題から基盤的な基礎研究はできなくなっている」、「基礎研究分野は壊滅状態。すぐにお金になるところばかり」、「イノベーションばかりがもてはやされ詐欺のような研究が横行している」など、痛切なコメントが多く寄せられた。これらは数字以上の意味をもつかもしれない。
(文・小寺貴之)
  

日刊工業新聞2018年5月14日

小寺 貴之

小寺 貴之
05月18日
この記事のファシリテーター

 社会調査のエコーは世論調査が参考になります。政権支持率が一定水準を下回ると、その結果を受けてさらに支持率が下がり、底が抜けるなどと表現されます。調査結果自体が社会に影響して認識を増長します。このまま研究者のマインドが冷えるだけだと問題です。それ以上に問題を認識したまま、長年解決できていない現状があります。マインドが冷え、貧して鈍していくことだけは避けなければなりません。すると民間識者に「国が解決してくれるという叶わぬ希望は捨てて、自立の道を歩め」と言われたりします。意識調査に「国の支援は期待せずに元気にやっていますか」という設問を加えて、その伸びを追跡するのが良いと思います。伸びなかったら抜本的な改革論が持ち上がると思います。

●2018年5月25日追記
 勉強不足で申し訳ありませんが、基礎研究とイノベーションは事例ベースで説明されている範囲に留まると認識しております。窒化ガリウムや蛍光体の基礎研究が白色LEDになった、基礎研究が豊かな国はイノベーションを起こしてきた、という事例があっても、基礎研究が豊かだからイノベーションが増えるかどうかは実証されていないと思います。これはイノベーションの定義が多様であり、評価できないことが挙げられます。特許数や関連する産業活動と結び付けてイノベーションというのは難しいと思います。個人的にはイノベーションは政策効果の評価指標にすると不完全だと思います。一方で現在、暫定的に評価指標として用いられている論文数や被引用トップ10%論文などは、研究分野によって事情が違うため、一律に比較して政策の意思決定に使うと副作用があります。研究の現場を知る政策担当者による調整が必要になります。

 また仮に基礎研究への投資額と産業や社会に与えてきた影響の大きさを評価できたとしても、日本では科学技術予算の総額についての政策判断には使われないように思います。分配を決める際に研究分野やテーマごとに比較できるとよいのですが、どのくらいの分類サイズで比較すべきか議論になると思います。分野間、テーマ間での競争がより激しくなると思います。また細かく検証するなら統計分析よりも、産業界や学術界の目利きに頼った方が早いです。しかし基礎研究は目利きが難しく、研究者の数が論文数やトップ10%論文の数に効いていたという報告があります。

 科技予算総額の推移は内閣府の出している科学技術関係予算(http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/index2.html)を参照して下さい。個人的には横ばいや凸凹と表現するのが現実的ではないかと思います。また最近、集計方法の変更があり研究開発以外の、本来は公共事業などの予算を付け替えているという批判もあります。予算推移の解釈は難しくなりましたが、研究者にとっては付け替えを機に、研究開発に回る予算を増やすよう綱引きするチャンスが増えたともいえます。

 研究者の話し合いで全体からの分配率を決めることはできていないと思います。できているのは分野ごとに現在の予算を守り増やすための議論と、総額増への議論が中心です。これは科技予算に限らず、多くの予算でみられます。残念ながら私は最適な分配率や、分配率を求めるための合意形成プロセスを見いだせておりません。その間に、稼げない研究者の立場が悪くなり、稼げる研究者でないと生き残れないような環境が広がっていると感じています。

この記事にコメントする

古川 英光
古川 英光
05月21日
私は研究のスタイル自体を時代の流れに合わせて変えていく、合わせていくことは必要なことのように思います。例えば、大学の教員を「お金を稼ぐ/稼げないけど大切なことをする」「研究をする/教育をする」のように役割を分けていくのが現実的なのかなと思います。その意味では、教育や入試に関わるマネジメントだけでなく、研究のマネジメントも組織で支援することが必要となります。 でもこういう意見は少数派だと思います。基礎研究をあまり干渉されずに、従来のスタイルで続けたい気持ちもとても良くわかるのですが、、、。
山越 恭子
山越 恭子
05月21日
いくつか質問があります。
基礎研究がイノベーションの礎というのは酒の席の話のレベルではわかりますが、政策レベルでは具体的にどのように実証されているのでしょうか。論文というのは世界に公表されるもので、一国の経済や競争力を利するものだとは思えないのですが。
また科学研究費の総額自体は増えており、問題は分配だという意見を河野議員が述べていました。これが本当であれば、研究者コミュニティの内部でどのように分配するべきなのか、研究者自身が話し合わなければどうしようもないと思いますがいかがでしょうか。
  

ファシリテーター紹介

記者・ファシリテーターへのメッセージ

この記事に関するご意見、ご感想
情報などをお寄せください。