殺虫剤研究者がみたゴキブリの生き様
パーソナルスペースに入り込む力/虫の声を聞け!(2)安台梨乃さん
ゴキブリはなぜ嫌われ死ななければいけないのか。黒光りするあの見た目や、ガサガサと走るあの動きなどその理由は枚挙にいとまがない。世界から最も嫌われていると言っても過言ではない、その命と向き合う研究者がいる。「虫の声を聞け」シリーズ第2回目は殺虫剤製品の研究開発を行うアース製薬研究開発本部研究員グループリーダーの安台梨乃さん。
―ゴキブリは世界中から嫌われています。やはりそれだけ害がある虫なのでしょうか。
「ゴキブリは病原微生物を媒介するため、害虫となっている。そのため、ゴキブリは人間に間接的な害がある虫と言える。仮に無菌のゴキブリなら、害はないだろう」
―では、そもそも不快とされているのはなぜでしょうか。
「ゴキブリは形や色など見た目が悪い。丸みがあるゴキブリや色が異なるゴキブリはあまり不快ではない気がする。人間はどうしようもなく嫌いな形や色があり、ゴキブリはその要素があるのではないかとすら思う」
「ただゴキブリは嫌われている一方で、話題性も高く、人を引きつける。インターネット上でもうわさや誇張された情報が飛び交っているが、そこには『自分はなぜ嫌いなのか』をもっと知りたいという気持ちが潜在的にあると思われる。研究者として興味深い存在だ」
―確かになぜ嫌いなのかは説明するのは難しいです。
「ただゴキブリの行動は嫌われる行為があるのは確かだ。例えばゴキブリは家屋や部屋に、いつの間にか入ってくる。個人的な空間(パーソナルスペース)に勝手に入ってくることは誰しも嫌がる。人間は仕事や生活など緊張する時間や場所を明確に分けており、不意を突くのはよくない。その上、1匹いれば数十匹いる可能性がある。つまり、いないけど本当はもっといるという潜在的恐怖を与えてくる」
―一方で学ぶべき長所はありますか。
「自分が生きる場所を積極的に探し、立ち位置を確保していくところは見習っている。会社の中で仕事をする上では、多様な部署や業務があるが、やはり自分の役割を主体的に見つけていくことは大切だと思う。もっと言えば、自分のポジションさえ見つければ、生きていけることをゴキブリは教えてくれる。生きることへの執着心や独力の強さもすさまじさを感じる。仲間や子ども、ふんすらも食べる。食べなくても、水分があれば生きれる。一生で約480匹を産むだけでなく、雌は単為生殖を行う。その一生懸命さには脱帽する」
―懸命に生きる姿に愛着がわくことはありますか。
「ない。割り切っている。ゴキブリは特に見た目のかわいげがない。そのため、私はあまり同情はしない。“あの形”だからこそ、同情する気持ちを抑え、飼育や殺す仕事をやりやすくしている。ただ、ゴキブリは積極的に、人に危害を加えているわけではない。そのため、意味もなくゴキブリを殺すことに抵抗感がある。命を意識する場面もある」
―例えば、どんな場面でしょうか。
「子どもを対象とした殺虫剤の試用イベントで、ゴキブリを殺したときに、『なんて残酷なんだ』と子どもからアンケートがあった。子どもはまだ汚いイメージや害虫という知識がないため、ゴキブリはただの虫の一種と捉えている。改めて、命を不要に殺してはいけないと感じた。当社は毎年12月に虫の供養も実施している。中には何匹殺したか、覚えている人もいるくらいだ。教育面や開発面など命を最大限生かすようにしている」
―具体的には。
「製品による殺し方が苦しまない方法へ変化している。以前はゴキブリに下痢の症状を与え、体液をはき出させて殺していた。ただ、こうした殺し方は動き回るため、消費者も嫌がる。今は必要以上に苦しませるのではなく、動けないように足をまひさせてから殺す。また虫によっては忌避剤で対応するなど殺さない方法もある」
―社内でも害虫に対する考え方が変化していますか。
「昭和の時代と違って、虫と単純な対峙(たいじ)するわけではなくなった気がする。背景には下水が整備されるなど住居環境がよくなったほか、虫も同じ地球に住む生物の一員とする考え方が社内でも浸透しているためだ。虫との距離を保って共生し、生態系を意識した仕事に変化してきた」
人を引きつけるゴキブリ
―ゴキブリは世界中から嫌われています。やはりそれだけ害がある虫なのでしょうか。
「ゴキブリは病原微生物を媒介するため、害虫となっている。そのため、ゴキブリは人間に間接的な害がある虫と言える。仮に無菌のゴキブリなら、害はないだろう」
―では、そもそも不快とされているのはなぜでしょうか。
「ゴキブリは形や色など見た目が悪い。丸みがあるゴキブリや色が異なるゴキブリはあまり不快ではない気がする。人間はどうしようもなく嫌いな形や色があり、ゴキブリはその要素があるのではないかとすら思う」
「ただゴキブリは嫌われている一方で、話題性も高く、人を引きつける。インターネット上でもうわさや誇張された情報が飛び交っているが、そこには『自分はなぜ嫌いなのか』をもっと知りたいという気持ちが潜在的にあると思われる。研究者として興味深い存在だ」
仲間や子ども、ふんすらも食べる
―確かになぜ嫌いなのかは説明するのは難しいです。
「ただゴキブリの行動は嫌われる行為があるのは確かだ。例えばゴキブリは家屋や部屋に、いつの間にか入ってくる。個人的な空間(パーソナルスペース)に勝手に入ってくることは誰しも嫌がる。人間は仕事や生活など緊張する時間や場所を明確に分けており、不意を突くのはよくない。その上、1匹いれば数十匹いる可能性がある。つまり、いないけど本当はもっといるという潜在的恐怖を与えてくる」
―一方で学ぶべき長所はありますか。
「自分が生きる場所を積極的に探し、立ち位置を確保していくところは見習っている。会社の中で仕事をする上では、多様な部署や業務があるが、やはり自分の役割を主体的に見つけていくことは大切だと思う。もっと言えば、自分のポジションさえ見つければ、生きていけることをゴキブリは教えてくれる。生きることへの執着心や独力の強さもすさまじさを感じる。仲間や子ども、ふんすらも食べる。食べなくても、水分があれば生きれる。一生で約480匹を産むだけでなく、雌は単為生殖を行う。その一生懸命さには脱帽する」
意味もなくゴキブリを殺すことに抵抗感
―懸命に生きる姿に愛着がわくことはありますか。
「ない。割り切っている。ゴキブリは特に見た目のかわいげがない。そのため、私はあまり同情はしない。“あの形”だからこそ、同情する気持ちを抑え、飼育や殺す仕事をやりやすくしている。ただ、ゴキブリは積極的に、人に危害を加えているわけではない。そのため、意味もなくゴキブリを殺すことに抵抗感がある。命を意識する場面もある」
―例えば、どんな場面でしょうか。
「子どもを対象とした殺虫剤の試用イベントで、ゴキブリを殺したときに、『なんて残酷なんだ』と子どもからアンケートがあった。子どもはまだ汚いイメージや害虫という知識がないため、ゴキブリはただの虫の一種と捉えている。改めて、命を不要に殺してはいけないと感じた。当社は毎年12月に虫の供養も実施している。中には何匹殺したか、覚えている人もいるくらいだ。教育面や開発面など命を最大限生かすようにしている」
生態系を意識
―具体的には。
「製品による殺し方が苦しまない方法へ変化している。以前はゴキブリに下痢の症状を与え、体液をはき出させて殺していた。ただ、こうした殺し方は動き回るため、消費者も嫌がる。今は必要以上に苦しませるのではなく、動けないように足をまひさせてから殺す。また虫によっては忌避剤で対応するなど殺さない方法もある」
―社内でも害虫に対する考え方が変化していますか。
「昭和の時代と違って、虫と単純な対峙(たいじ)するわけではなくなった気がする。背景には下水が整備されるなど住居環境がよくなったほか、虫も同じ地球に住む生物の一員とする考え方が社内でも浸透しているためだ。虫との距離を保って共生し、生態系を意識した仕事に変化してきた」
【略歴】やすだい・りの 1986年生まれ。11年京都工芸繊維大院卒、同年アース製薬入社。研究開発本部研究部に所属する。同社研究所(兵庫県赤穂市)で研究員のグループリーダーとして、ゴキブリや小バエなど害虫向け虫ケア製品の研究・開発を行う。同研究所は研究用のゴキブリを70万匹以上飼育しており、日本では珍しいマダガスカル産で丸形の「マダガスカルオオゴキブリ」や世界一美しいといわれてるゴキブリ「グリーンバナナローチ」なども見学用で扱う。
日刊工業新聞2018年5月1日