「あいまいさ」による全体最適#03 企業の強みを伸ばすために大切なこと

「あいまいさ」をどのように商品やサービスに落とし込むか

 日本企業においては長らく、現場でコミュニケーションをとり意思決定をする力が成長を支えてきました。AIやITによる自動化が来る時代において、現場の力を持つ企業が「新たなものづくり」でチャンスを掴むためには、組織の部分最適化による弊害を抑え、全体最適化を目指す必要があります。

「あいまいさ」はなぜ重要か


 他の新しい業界と同じく、「新たなものづくり」が起こる中では、将来大きくなるニーズと消えて無くなるニーズが混在します。どれがどれかは簡単にはわかりません。なぜなら勃興期においてニーズは、顧客である個人や企業の個別の状況において「こんなものがあったらいいな」という感性から生まれているからです。さらに、そのニーズを満たす解決策も千差万別で、どれが効果的かはしばらくして結果を見るまではわからないためです。

 このような状況は、非常に混沌として「あいまい」です。しかしだからこそ、企業にとってはチャンスになります。「あいまい」という言葉は一見ネガティブですが、実際はかなりポジティブな面を持っています。学術分野において「西洋人は物事を分解して突き詰める傾向があるが、東洋人は全体をとらえて理解する傾向がある」という研究結果が出ています。この東洋人(日本人)の「全体をとらえる」ことはすなわち「視点をぼやかす」と言うことであり、目に映る映像は「あいまい」になります。これは、状況に対する捉え方でも同じです。ある状況において、様々な情報がある中で、それを分解し部分を突き詰めるのが西洋的な考えなら、様々な情報を、視点をぼやかし「あいまい」なまま全体をとらえるのが東洋的だと言えるでしょう。

 ニーズが混在している「新たなものづくり」においは、どの情報が重要になるかは後にならないとわかりません。だから「あいまい」な状況の中で、情報を取捨選択することなく「あいまい」なまま受け入れる、このことが最も重要になるのです。私はここに、「全体を捉えて理解する」日本の強みが生きる道があると思います。

「あいまいさ」を商品やサービスとして具体化するプロセス


 しかし一方で、「あいまい」なままでは何も生まれません。全体を捉えつつ、同時に情報を集約して商品に落とし込み、サービスを標準化していく必要があります。このときに生きるのが「ああでもない、こうでもない」という現場の話し合いです。現場で議論を繰り返すなかで、「これでいいのでは」という商品やサービスが生まれます。とはいえ、一発で成功することは稀なので、「まず商品/サービスを出してみて、それから改良していく」プロセスが必要になります。そのためにはある程度のリスクも必要で、それを組織全体で許容するためにも「ああでもない、こうでもない」という話し合いは重要なのです。

 また、「まず商品/サービスを出してみる」という点で重要なのは、「簡単に出せるところから出す」という方法です。例えば、あるユーザーに生産データの収集がしたいというニーズがあった場合、まずは既存のPLCから収集してそのデータをどう使って何ができるかに取り組む方が、いきなり複数工場のネットワーク化に大きな投資金額をかけるよりもずっと簡単で、かつ価値があります。小さく始めて結果を分析し、成果が見えたら次に進むという方法です。そしてこれを繰り返すことで、長い時間をかけて自社の核になる技術や仕組みを培っていきます。

「あいまいさ」が活きる組織のあり方


 「あいまい」なニーズを持つ市場において、情報を取捨選択せずに忌憚なき話し合いをし、簡単にできるところからまず商品/サービスを出してみて、結果を見ながら改良していく。この一連のプロセスこそが、かつて強い製造業を作り、そしてこれからの時代においても全体最適化をして成長していくのに必要になるのでしょう。そして、このプロセスを実現する仕組みとして、企業の機能を3層に分けることを提唱しています。その3層は、顧客の接点に近い最上層(主に営業)、自社の強みが生きる部分でかつ標準化を行う最下層(土台となる開発や製造)、その間の中間層の3層です。中間層は、現在の企業においてぴったり当てはまる部署はありませんが、専門のスタッフを置き、部門を超えて「ああでもない、こうでもない」の話し合いをする場であると同時に、自社商品/サービスを標準化するためのアイデアを出す機能をもたせます。中間層は、最上層と最下層をつなぐとても「あいまい」な層です。しかしかつて日本は、大企業においてはミドル層(中間管理職)の横のつながりがこの機能を果たしており、中小企業では経営者自らが担っています。今日においてはこの機能を「中間層」としてより組織的に行うことで、その効果を組織的に大きくすることが求められているのだと思います。
(文・菅原伸昭)

※ 本連載の詳しい内容は、書籍『利益を上げ続ける逆転の発想 あいまいもやもやこそが高収益の源泉』(日刊工業新聞社刊)に記載しています。

【著者紹介】
菅原 伸昭(すがはら のぶあき)
1991年京都大学卒業後、日商岩井株式会社に入社。産業機械などの日本・中国・アジアでの営業を経験後、自費にて中国へ語学留学。1996年に㈱キーエンスに入社し、30歳にて現地法人責任者として台湾法人を立ち上げ、その後中国の現地法人を設立、現地法人責任者として中国事業拡大に貢献。さらにアメリカ・メキシコ現地法人責任者を歴任。2014年からTHK㈱にて執行役員事業戦略特命本部長として、グローバルマーケティング・商品企画・データ分析の部署を立ち上げる。2017年からはAIベンチャーを立ち上げるとともに、営業組織構築のコンサルティングや業界構造・ビジネスモデル解明のリサーチなどを行っている。

藤井 幸一郎(ふじい こういちろう)
1975年東京都生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、1998年に中央官庁に入省し、資産流動化・不動産投資信託法の法案作成や国会質疑対応業務などに従事する。その後、東京大学大学院を経て、公会計基準の策定業務を行う。2006年にコンサルティング会社へ転職し、プロジェクトマネジャーとして、事業戦略の策定などの上流工程から、組織・業務の設計、ハンズオンでの現場改革といった下流工程までのプロジェクトを様々な業界に対して実施する。2013年に独立し、経営戦略策定や市場分析などのコンサルティングを大手・中堅企業に対して実施するほか、東日本大震災の被災地のNPOとともに、地域のデータブックの作成を行う。2017年にアトラトル㈱を設立し、海外市場の消費者や販売チャネルの「ありのまま」の調査とその背景データを分析して提供するサービスを行っている。

本書に関するお問い合わせは下記にご連絡ください。
nobu.sugahara@euler-intl.com
www.euler-intl.com

【書籍情報】
「利益を上げ続ける逆転の発想『あいまい・もやもや』こそが高収益を生む 」
(菅原伸昭、藤井幸一郎・著、日刊工業新聞社)
1,620円(税込)、256頁、2018年3月発行
NIKKAN BOOK STORE
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矢島 俊克

矢島 俊克
05月05日
この記事のファシリテーター

気づきやコミュニケーションといった現場の強さはそのままに、各組織の部分最適に陥らない管理方法は「決めつけない」ことにある。利益に結びつく必要な情報を漏らさないため、ありのまま受け止める思考法はユニークと言える。情報を集約して商品に落とし込み、サービスを標準化するのも現場での議論を重視。提供できるどころから顧客に提供し、改良できるサービスはどんどん改良していく。時間軸で切った価値の提供方法に、製造業の新しい収益モデルが見出せる。

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古川 英光
古川 英光
05月05日
「あいまい」を生かすためには中間層が大切って話は好きです。だから分厚い中間層が大切だと思うのです。選択と集中は中間層を排除することになるので、歯車が回らなくなってきているというのが私の印象です。
  

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