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「生体情報」の活用で医療費削減どこまで

健康寿命と平均寿命、約10年の開き
 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、日本の人口は2053年に1億人を割り、65年には8808万人にまで減少すると見込む。

 少子高齢化に歯止めがかからない中、社会保障費の増加も課題だ。経済産業省の江崎禎英商務・サービス政策統括調整官は「健康寿命と平均寿命との間に約10年の開きがある。この10年で多くの医療費が使われている」と指摘する。とりわけ健康意識の低い人に対策を徹底できるかが、個々の生活の質(QOL)の向上に向けたポイントになる。

 足元ではビッグデータ(大量データ)やIoT(モノのインターネット)といった技術が進化し、人々の健康状態を数値化することで、効果的なヘルスケアのサービスが可能になりつつある。健康度合いを調べて病気にならないようにするためのビジネスも生まれている。

 ユカシカド(東京都渋谷区)の「ビタノート」は、尿から栄養の過不足の評価ができる検査だ。尿を解析してビタミンやミネラル、たんぱく質、酸化ストレスなどを分析する。

「従来の尿検査は、病気の発生リスクを調べることが主な目的だった」と美濃部慎也社長は指摘する。同社のサービスは定期的に栄養状態を把握し、改善点があれば適切な食生活を図るなど、行動変容に移しやすくなる。

 少子高齢化が進むに伴って、介護業界の人手不足も深刻さを増している。政府は2020年代初頭までに介護離職ゼロを目指しているが、介護の中でも排せつのケアは介護をする側、される側のいずれにとっても負担が大きい問題だ。

 「国内だけではなく、海外からの問い合わせも多い」―。トリプル・ダブリュー・ジャパンの創業者である中西敦士最高経営責任者(CEO)は手応えを話す。同社の排せつするタイミングを予知するデバイス「DFree」は、超音波センサーを活用し、適切なタイミングでトイレを誘導するなど介護業務の効率化に貢献する。

 昨春にデバイスを発売し、昨年末時点で約150施設に導入された。導入後、「介護する側の夜間時の負担が減った」(中西CEO)など効果も出ている。介護される側にとっても、おむつからトイレで排せつできるように改善するなど、QOLの向上が期待できる。

 同社は昨夏、フランスに法人を設立した。現地の大手介護事業者と連携し、現在はグローバルでの展開を視野に入れる。

 糖尿病などの生活習慣病対策、介護人材の不足など社会的な課題は山積している。一方で、健康に対するさまざまな需要があるからこそ、それに対応したビジネスの創出が促されている。
(日刊工業新聞社・浅海宏規)
トリプル・ダブリュー・ジャパンの排せつ予知デバイス「DFree」
日刊工業新聞者2018年4月12日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 経産省も健康や医療情報により個人の生活習慣を変えようとする事業の対象を広げる。高血圧や高脂血症などの生活習慣病、介護予防分野で活用するよう検討を始める。従来は糖尿病のみを対象にしていた。健診データやレセプト(診療報酬明細書)データに基づき、対象者に改善策を助言・指示する仕組みを構築し、医師などの指導(介入)によって行動や生活の習慣を変えるよう支援する。  4月中旬にも日本医療研究開発機構(AMED)を通じて公募する予定。ウエアラブルデバイスなど、IoT(モノのインターネット)を用いて取得した個人の健康情報を基に、行動変容を促すことで、病気の予防や介護予防などに関する科学的なエビデンス(根拠)確立を目指す。例として高血圧や高脂血症などを想定。例えば高血圧症では、高血圧予防には減塩が有効なため、食事に含む食塩の量を推定できるIoTデバイスの活用を期待している。

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