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アイデアをいち早く製品化し市場投入できる“日本の深圳”はどこだ!

個人や起業家の妄想、どこまで大企業が支援できるか
アイデアをいち早く製品化し市場投入できる“日本の深圳”はどこだ!

起業家や学生がアイデアを形にする「テックショップ東京」

 IoT(モノのインターネット)時代の到来は、モノづくりの民主化をもたらす。ハードウエアとソフトの領域が接近・融合し、ITベンチャーや個人がモノ(ハード)の製作に乗り出すからだ。ニーズの拡大を受け、設備や作業場を提供するサービスも増えている。専門的な研究の積み重ねで発展してきたモノづくり。これが広く世に解き放たれれば、全く新しい価値を生み出す可能性が広がる。

 「妄想して、それを形にする力が富に直結する時代になった」。ヤフーの安宅和人チーフストラテジーオフィサー(CSO)は起業家のアイデアが素早くハードになり、世に普及する傾向にあると指摘する。その代表格がスマートフォンだ。

 家庭用ロボット、自動走行車、仮想現実(VR)機器などスマホに続く次世代分野でも、ベンチャーの存在感が際立つ。

 IoTの進展でモノの情報化が加速し、ソフト起点で革新的なハード製品が続々と生まれている。ITベンチャーが集積する米シリコンバレーでは「試作加工の需要が急拡大している」(下田裕和日本貿易振興機構サンフランシスコ次長)という。

 日本でも同じうねりがある。量産化試作などを支援する施設「テックショップ東京」(東京都港区)の作業場に並ぶのは旋盤、3Dプリンター、レーザー切断機など50種以上の機械。起業家や学生をはじめ、さまざまな人たちがアイデアを形にするために集まる。

 その一人が、聴覚障がい者向け装着型端末「オンテナ」を開発する本多達也さんだ。ヘアクリップのように髪に留めると、光と振動で音を感じられる。

 学生時代の障がい者支援の体験から、製品を発案した。現在は富士通に所属しつつ、商用化を目指している。本多さんは「一日も早く、世界中の聴覚の不自由な方々にオンテナを届けたい」と意気込む。

 大手製造業もモノづくりベンチャーの支援に乗り出す。シャープが展開する製造ノウハウを伝授する支援プログラム「シャープIoT.メークブートキャンプ」は熟練技術者が製品要求仕様書の作成などを指導。IoT機器の製品化を後押ししている。

 こうしたベンチャー向けの量産化支援で国際的に注目されているのが、電子機器などの巨大な産業集積がある中国・深圳だ。「大量生産もできるのが圧倒的な強みになる」(経済産業省幹部)。アイデアをいち早く製品化・市場投入してデータを集める地として、世界中の起業家が熱視線を注ぐ。

 ソフトとハードの融合は今後も加速する見通し。未来社会では起業家の発想から画期的製品が生まれる機会が、さらに広がりそうだ。それだけに、新たなモノづくりの担い手をどれだけ育成・誘致できるかは、中長期の産業競争力を左右する。日本がこの流れに乗り遅れないためにも、産官両面での環境整備が急務だ。
(文=藤崎竜介)
日刊工業新聞2018年3月20日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
 試作加工を行うことができるラボなどが充実し始めたため、アイデアをスピーディに形にするのが容易になった。  一方でそれを商用量産化するには、末尾にあるように依然として海外リソースを使わざるを得ないのが実態だ。これではどこで儲けを生み出すのかが難しく、今以上にソフトウェアの研鑽とソフトウェアによるハードウェアの絶妙な制御領域、およびそれらから集まってくる統合的なデータによるビジネスモデルで競っていく時代に突入しているとも言える。  大手企業による支援も始まっているとあるが、まだまだ限定的。試作くらいではROIを問わずに、まずはやってみるトライ&エラーの姿勢が求められる

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