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ドローン開発ベンチャーに世界中から人材集まる「内なる国際化」

日本の歴史の節目には外国人材が活躍した!
ドローン開発ベンチャーに世界中から人材集まる「内なる国際化」

エンルートラボではさまざまな言葉が飛び交う(右端がイエン・カイさん)

 外国人観光客によるインバウンド消費に沸く日本。2017年は過去最高となる前年比19.3%増の2869万1000人(日本政府観光局調べ)が日本を訪れ、我が国の経済を下支えした。しかし外国人からの影響は何も日本の外側からだけとは限らない。日本の内側から社会や産業を支え、変革を促す存在にもなり得る。経済のグローバル化が進む一方、少子高齢化が進展する我が国にとって、海外から高度人材や企業の投資を引きつけることが今後の成長には欠かせない。これまで以上に「内なる国際化」が求められている。

 島国である日本は江戸時代に鎖国したこともあり、どうしても国際化に出遅れがちなイメージがつきまとう。しかし歴史の節目節目には、海外から受け入れた人材が世の中を変革した事例に事欠かない。

 例えば遠い昔の鑑真和上や戦国時代の宣教師、明治期のお雇い外国人等々。現代でも外国人経営者が日本企業の経営を立て直すような例もあるし、ラグビーのワールドカップで外国出身選手が日本代表として活躍したのは記憶に新しい。そして身近なところでも、実は外国人材が多く活躍している。

まるでシリコンバレー


 「スピード感はまるでシリコンバレーの企業」。ドローンなどの開発を手がけるエンルートラボ(埼玉県ふじみ野市)で執行役員AIシステム部門長のイエン・カイさんは、同社に入社した理由をこう話す。

 2003年に中国から来日し、東京大学に留学。大学院へと進んで博士号を取得した後は、スタンフォード大学の研究員として米国に滞在していた。そして自らベンチャー企業を立ち上げようと大学を辞めた時に知り合ったのが、同社社長の伊豆智幸さんだった。

 東京の池袋から東武東上線の急行に乗って30分足らず。典型的な郊外の住宅街。駅から15分ほど歩き、畑も点在するところに、エンルートラボの本社がある。社員30人ほどの小さな会社だが、その半分近くが外国人社員。

 日本語のほか、英語や中国語、スペイン語、フランス語などが飛び交う。入社する予定の社員もナイジェリアや南アフリカ出身という。「出身地では五大陸すべてがそろっています」とイエン・カイさんは話す。

 同社はドローンなどの無人機を、顧客の要望に応じて開発するベンチャー企業だ。現在開発を進めているものでは、離島や災害で孤立した場所などへ医薬品を輸送するためのドローンや、震災時にレスキュー隊と協力して空からけが人を探し出すドローンなどがある。

 同社では新しい技術を開発するとオープンソースとして公開する。産業用ドローンなどを開発するためのオープンなエコシステム、つまりスマートフォンのアンドロイドに相当するようなドローンのプラットフォームを作り上げることを目指している。

パーツは自由に購入


 イエン・カイさんはドローンなど無人機向けAIのアルゴリズムを開発している。もともと個人的にドローンを作っていたが、「自宅マンションで飛ばして部屋の壁を傷つけてしまったり」と何かと不便。だから同社に入って最初に考えたのは、「ここには室内の広いスペースがあって、思う存分にドローンで遊べる」ということだったとか。

 同社ではドローンに必要なパーツを多く在庫するだけでなく、足りないものはネット通販で自由に購入できるため翌日には手に入る。次々と新しいことに自由に挑戦でき、開発した技術をすぐ機体に組み込み実験できる。このスピード感と自由さに、入社してきたほとんどの外国人は「日本の企業らしくない」と驚くという。

 転職組の中には大企業出身者もいる。しかし日本の大企業では「日本語が通じないからと仕事を任せてくれなかったり、自分のスキルを生かせるポジションを与えられなかったりと不満を抱えてきた人もいる」(イエン・カイさん)。そのため「新しいものを作りたいと、とにかく自分のやりたいことを最優先」して同社の門を叩く外国人材も多い。

好きなことがやれる


 同社がオープンソースとして公開した制御用フレームワークは、世界中の技術者たちがドローンなど無人機に組み込んで開発し、そこから技術的な課題などが同社にフィードバックされる。「好きなことがやれるのなら場所は関係ない。日本だとネット通販でも翌日に配達してくれるから、むしろシリコンバレーより便利かも」とイエン・カイさんは指摘する。

 社内では日本人社員の多くが英語を話せるため不便はないし、外国人社員も日本で生活していれば意思疎通できるぐらいの日本語はマスターする。外国人社員も顧客ニーズに応えるために、どんどん現場に出向いていく。「海外にも似たような企業はあるが、お客さんと実際につながり、課題にすぐ対応できるのが当社の強み」だ。

 ちなみに外国人社員が困ることが多いのは役所や銀行などで手続きする時という。「その時は日本人社員が付き添ってくれます」とイエン・カイさんは笑う。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
今月のMETIジャーナルの政策特集は「内なる国際化」をさまざまな角度から紹介、検証します。

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