「仮想通貨」という呼び名が生む誤解。その中身は暗号化された文字列

経済・産業を変えるブロックチェーン

 仮想通貨取引所のコインチェック(東京都渋谷区)から580億円相当の仮想通貨が盗まれた。実行犯の特定を含め全容がまだよく分らず、今もって波紋は収まっていない。今回の事件を再発防止の教訓とするためにも、真相の徹底解明が急がれる。併せて、仮想通貨を経済活動の中でどう位置づけるべきかについても考える機会としたい。

 仮想通貨の取引所を巡る事件といえば、2014年に経営破綻したマウントゴックス(東京都渋谷区)が記憶に新しい。当時は仮想通貨が広く知られておらず、大騒ぎにはなったものの、どちらかといえば世間とはかけ離れた出来事としてとらえられていた。

 あれから4年がたち、状況は変わった。仮想通貨による取引が全世界で活発化する中で、日本でも2017年に仮想通貨法ができ、現在までに十数個の仮想通貨が登録されている。仮想通貨が投機対象となっている現状はさておき、インターネット上で完全かつ自由にやりとりできる電子通貨への期待は大きく、社会インフラの一翼を担う存在となりつつある。

 今回の事件はこうした状況に冷や水を浴びせたが、仮想通貨が抱える課題を浮き彫りするという意味で、格好の検討材料といえる。


 そもそも仮想通貨を巡ってはブロックチェーン(分散型台帳)やデジタルトークン、コールドウォレット、暗号鍵などの難解な専門用語が飛び交い、世間一般には分かりにくい。仮想通貨という呼び方からしても、誤解を招きやすい。業界内では「仮想(バーチャル)というと、『実際にはないもの』というイメージが強く、事の本質を見失ってしまう」との声も少なくない。

 英語では「バーチャル・カレンシー(Virtual Currency=仮想通貨)」ではなく、「クリプト・カレンシー(Crypto Currency=暗号通貨)」という言い方が一般的。その中身は暗号化された文字列だ。

 今回の事件は、暗号自体が破られたわけではなく、ブロックチェーンにかかわる運用システムがハッキングされ、ブロックチェーンの機能でもあるデジタルウオレット(財布)の秘密鍵が盗まれた。

 取引所であるコインチェックのウォレットの中には巨額の仮想通貨が入っていて、それがインターネットにつながった状態で、ずさんに管理されていたため、580億円分を丸々盗まれたわけだ。

 ブロックチェーン推進協会(BCCC、東京都品川区)の平野洋一郎代表理事(インフォテリア社長兼CEO)は「今回の事件はブロックチェーン技術全体の技術的な欠陥や脆弱性に起因するものではなく、取引所固有の問題だ」と指摘する。

 ブロックチェーンそのものは安全でも、秘密鍵が盗まれてはどうしようもない。すべての仮想通貨はその特性上、秘密鍵が盗まれてしまうと、システムに侵入することなく、送金ができてしまう。

 コインチェックを巡る問題で、浮き彫りとなったのはセキュリティー対策など運用態勢の甘さに他ならない。同協会では学ぶべき教訓として「秘密鍵をいかに厳重に管理するかに尽きる」と述べている。

 金融庁はコインチェックに対して、資金決算法に基づく業務改善命令を出した。再発防止に向けて、監視の目を今後どこまで厳しくするかが注目される。

経済・産業を変えるブロックチェーン
 一方で、仮想通貨や基盤技術となるブロックチェーンを経済活動の中でどう位置づけるかも今後の大きなテーマといえる。

 現在に至る仮想通貨の起点は08年に論文発表された「ビットコイン」にある。ビットコインは09年から運用が始まり、基盤技術であるブロックチェーンの技術革新が進展した。オープンソースとして発展を遂げている技術でもあり、群雄割拠の様相だ。

 ブロックチェーンは取引履歴を暗号化しながら、ネットワーク接続された複数のコンピューターに「ブロック単位」で分散させ、相互に認証しながらやりとりする仕組み。取引履歴がチェーンのように時系列でつながって記録されるため、ブロックチェーンと呼ばれる。

 ブロックチェーンの利点は大きく二つある。一つは、特定の管理者や中央の管理サーバーが不要なうえ、改ざんや攻撃に強いこと。もう一つは従来型のシステムに比べて数十分の1とも評されるコストパフォーマンス(費用対性能)だ。金融取引などのシステム構築は数十億~数百億円と巨額だが、ブロックチェーンならば「けた違いに安く実現できる」(ITベンダー)という。 

 ブロックチェーンの方式は、仮想通貨のようにだれもが使える「パブリック型」と、企業などが特定用途に使う「プライベート型」に分かれる。産業界が期待を寄せるのは用途や参加メンバーを限定したプライベートブロックチェーンだ。参加メンバーや利用者が限定されるため、パブリック型に比べてセキュリティーリスクが小さく、しかも処理が速い。採掘作業や全員のコンセンサスをとる必要もなく、1秒間に数千トランザクション(処理)が可能となる。

 用途展開では、まずトレーサビリティー(追跡管理)が注目される。ブロックチェーンは農作物の産地偽装や検査データの改ざん防止などにも有効。すでにいくつかの実証実験が始まっている。出生から死亡までの履歴を改ざんされることなく、記録して証明するといったことも可能。

 貿易業務でのブロックチェーンの活用も進んでいる。今2月、デンマークの海運世界最大手マースクと米IBMは国際貿易をデジタル化するプラットフォームの共同開発に向けて、合弁会社を設立した。中核となるのはブロックチェーン技術だ。

 今後は金融以外でも流通、製造、公共、医療などさまざまな分野でブロックチェーンの採用が進む見通しだ。
(文=斎藤実)

日刊工業新聞2018年2月8日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
02月09日
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コインチェック問題を近視眼的にとらえるだけでなく、ズームを引いて全体を俯瞰すると、次の時代への入り口が見えてきそうだ。
(日刊工業新聞第一産業部・斎藤実)

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