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「いま一度、厚板をやろう。新たな溶接プロセスで」

日本のモノづくりのために、実用化困難に挑んだダイヘン
「いま一度、厚板をやろう。新たな溶接プロセスで」

ダイヘンが開発した高能率アーク溶接システム

 「いま一度、厚板をやろう。新たな溶接プロセスで日本のモノづくりをサポートする」(惠良哲生溶接機事業部研究開発部長)―。

 薄板の高速・低スパッタ溶接を実現する溶接プロセス、溶接機のイメージが強いダイヘンだが、厚板向けで一般的な従来溶接法による溶接機でも高シェアを持つ。同社は厚板溶接で低コスト・高能率という顧客ニーズに応えるべく、2012年、高能率アーク溶接システム「D―Arc」の開発を始動した。

 戦後確立された厚板向け従来溶接法は「材料を含めて開発しつくされた安定プロセスだが、ランニングコストが高止まりしていた」(同)。汎用性が高くロボット化や自動化にも適したガスメタルアーク(GMA)ベースの新手法への置き換えで、厚板の1パス(1回)溶接を実現し、同コスト低減を狙った。

 ただ、開発には多くの課題が立ちふさがった。実用化困難とされた溶接金属の深部に溶接ワイヤが潜り込みアーク(溶接時の放電現象)を発生させる“埋もれアーク溶接”の安定制御もその一つ。

 通常、溶接ワイヤの先端が溶けた溶滴は重力などで下に移行する。だが高電流では、横向き回転でスパッタをばらまくローテーティング移行と呼ぶ現象が起こる。

 元来、同現象は悪者扱いされ抑制対象。だが、制御担当の研究開発部の馬塲勇人氏は「逆に利用して安定化できないか」と逆転の発想をした。同現象を周期的に発生させることに成功。溶接ワイヤが深部に潜り込むにつれ、周囲に迫ってくる溶融金属の壁面を抑え、安定制御した。

 高電流対応専用トーチの開発は、同社が世界で初めて確立した銅合金3D積層造形技術をいち早く活用。機械加工で困難な内部設計を可能にし、大幅な小型・軽量化を図った。「CFD(流体シミュレーション)本格活用でシールド性も確保した」(玉城怜士トーチ技術部主事)という。

 無理難題を克服したワイヤ送給装置、独自の溶接制御LSIなども組み合わせ、厚板1パス溶接を実現した。
(文=大阪・松中康雄)
日刊工業新聞2018年2月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
複数回溶接する多層盛りが常識の厚板で、1パス(1回)溶接を可能とし、前後工程の作業時間短縮、ワイヤ消費量の大幅削減も実現した。生産コストは従来溶接法比85%削減可能。建設機械や造船、建築・鉄骨などに使う厚板溶接作業を高効率化、高品質化する。顧客評価は高く、海外で鉄道車両の台車向けでの引き合いもある。 (日刊工業新聞大阪支社・松中康雄)

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