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「8K」テレビは売れるの?シャープの答えは決まっている

創業者が説く「他社にまねされる製品を作れ」
「8K」テレビは売れるの?シャープの答えは決まっている

昨年末に国内で発売した「AQUOS 8K」の開発現場

 シャープは2017年12月、国内で70型の「8K」テレビを発売した。フルハイビジョンの16倍の画素数を持つ8K映像は、高精細さが売りだが、16倍の情報を処理できる映像エンジンが必要だ。実際、同社が15年に発売した業務用8Kモニターの消費電力は1440ワット。「車で言えば、スーパーカー並みの排気量だった」と、シャープの喜多村和洋TVシステム事業本部長は表現する。価格だけでなく“燃費”も課題だった。

 そこで汎用の半導体をカスタマイズするのではなく、専用の半導体を搭載し、画像エンジンの構造を簡素化した。消費電力は従来比3分の1の470ワットに削減。消費税抜きの市場小売り価格も約100万円と、17年初頭の有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)テレビと同水準だ。

 8Kテレビの普及を疑う声も根強く残るが、中国メーカーなどは8Kテレビの開発を急いでいる。また一部のハリウッド映画は8Kカメラで撮影され、3月に発売する人気ゲーム「ファイナルファンタジー15」のパソコン版も8K映像に対応する。8Kコンテンツが相次ぎ登場する見込みで「潮目が変わった」と、喜多村氏は手応えを感じる。

 競合相手が8Kテレビを投入すれば、競争も厳しくなる。だが、シャープ創業者の早川徳次が説いた、「他社にまねされる製品を作れ」を掲げるシャープにとっては「歓迎すべきこと」(喜多村氏)。競合製品が増えた方が、世間の関心が集まって市場が拡大する期待もある。

 画面を間近で見ると、フルハイビジョンテレビでは画質の荒さが目に付くが、8Kテレビでは滑らかさを維持できる。しかも8K映像は、脳が実物と勘違いすることから、立体的に見える。「人間の視野角を超えるくらいに間近で見れば、仮想現実(VR)のような没入感を得られるかもしれない」(同)と話す。高精細な映像を表現できる8Kは、テレビの楽しみ方を一変させる可能性がある。

<製品プロフィル>
 海外では中国で発売済みで、2月に台湾、3月に欧州で発売する。フルハイビジョンや、その4倍の解像度の4Kを8K相当に高画質化する「アップコンバード」機能を搭載した。8Kの映像コンテンツでなくても高画質映像を楽しめる。8Kの業務用カメラも発売しており、8Kコンテンツを作成する環境も整えつつある。
(文=大阪・平岡乾)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 記者が初めて8Kディスプレーを目にしたのは、2016年5月に開かれた伊勢志摩サミットで併設された先進技術の展示スペース。一目見て思わず、「3D表示ではないですよね」と技術説明員に聞けば、その方は待ってましたとばかりににやりと笑い、8K映像では奥行きがあるような錯覚が生じるのだと説明してくれた。8Kディスプレーは単に「綺麗さ」が向上するのではなく、没入感という新たな価値をもたらす点は間違いない。  近年の4Kテレビや有機ELテレビの市場拡大の例を踏まえると、1インチ当たりのパネル価格が今の半減以下となる5000円台まで下がれば、普及が加速しそうだ。ただ、没入感は実際に目にしないと体感できない。一般消費者が8Kテレビに触れる機会をいかに増やすかが課題だ。 (日刊工業新聞大阪支社・平岡乾)

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