川重がNY地下鉄車両を逆転受注できた“納期の力”
中国中車に競り勝てたことが大きな意味を持つ
川崎重工業は25日、米ニューヨーク市で地下鉄車両約1612両を受注したと発表した。受注総額は約4033億円で同社にとって過去最大となる。同案件の入札をめぐっては、世界首位の中国中車とカナダ・ボンバルディア陣営が優勢とされていた。ニューヨーク地下鉄向けで約30%のトップシェアを握る川重。世界の巨人とのつばぜり合いとなったが、納期などの契約履行能力や高い品質が評価され、劣勢をはね返した。
ニューヨーク地下鉄を運営するニューヨーク市交通局(NYCT)から、新型車両「R211」を受注した。当初の契約分は535両で、2020年から23年にかけて納入する計画だ。オプション契約(追加発注)の最大1077両を含めれば、合計1612両を製造。25年まで生産が継続することになる。
川重は今回の受注で受注残はさらに拡大し、収益基盤と工場稼働率の一層の安定化につながる。受注した車両は現地生産拠点のリンカーン工場(ネブラスカ州)で構体製作を実施。ヨンカース工場(ニューヨーク州)とリンカーン工場の2カ所で、機器取り付け・最終組み立て・機能試験を行う。
川重は同地下鉄向けに2200両以上の納入実績を持つほか、ワシントンでも大型案件を手がけるなど、北東回廊に強い。これまでの最大案件は、13年に受注したロングアイランド鉄道・メトロノース鉄道向け通勤電車の最大676両、受注総額最大約18億3000万ドルだった。
“逆転受注”の背景には、NYCT向けの別件で発生したボンバルディアの納期遅延が横たわる。ニューヨーク地下鉄の車両は16年時点で、700両以上が耐用年数を迎えていた。
そこで16年中に新型車両「R179」に交換する計画だったが、ボンバルディアの生産が遅延。納入は18年7月に延期となった。価格面で有力視されていた中国中車・ボンバルディア連合だったが、失注の結末で幕を閉じた。
川重にとって今回の受注は過去最大の受注規模はもちろん、中国中車に競り勝てたことが大きな意味を持つ。売上高2241億元(16年12月期、約3兆8711億円)と、圧倒的な規模を誇る中国中車。足元では中国国内市場で9割を稼ぐが、旺盛な同市場もいずれは成熟期を迎える。
市場飽和を見越して力を入れるのが、海外市場の深耕だ。米国でもボストンやシカゴ、ロサンゼルスなどで受注を積み上げてきた。
中国中車にとって今回の案件は、北東回廊攻略の足がかりとなったに違いない。同地域を牙城とする川重は、自陣を死守した格好だ。
中国中車の脅威は、長らく鉄道車両のビッグスリーとして君臨していた独シーメンス、ボンバルディア、仏アルストムの勢力図を塗り替えるまでになった。
17年9月にシーメンスとアルストムが、鉄道車両事業の統合を発表。中国中車の海外拡大を見越しての合従連衡だが、両社を合算しても事業規模は中国中車のおよそ半分にとどまる。
巨人たちの動きを横目に、日本、北米、アジアに絞った事業を展開する川重。いたずらに事業規模を追わず、勝てる地域で確実に勝負する姿勢には、一切のブレがない。
(文=長塚崇寛)
ニューヨーク地下鉄を運営するニューヨーク市交通局(NYCT)から、新型車両「R211」を受注した。当初の契約分は535両で、2020年から23年にかけて納入する計画だ。オプション契約(追加発注)の最大1077両を含めれば、合計1612両を製造。25年まで生産が継続することになる。
川重は今回の受注で受注残はさらに拡大し、収益基盤と工場稼働率の一層の安定化につながる。受注した車両は現地生産拠点のリンカーン工場(ネブラスカ州)で構体製作を実施。ヨンカース工場(ニューヨーク州)とリンカーン工場の2カ所で、機器取り付け・最終組み立て・機能試験を行う。
川重は同地下鉄向けに2200両以上の納入実績を持つほか、ワシントンでも大型案件を手がけるなど、北東回廊に強い。これまでの最大案件は、13年に受注したロングアイランド鉄道・メトロノース鉄道向け通勤電車の最大676両、受注総額最大約18億3000万ドルだった。
“逆転受注”の背景には、NYCT向けの別件で発生したボンバルディアの納期遅延が横たわる。ニューヨーク地下鉄の車両は16年時点で、700両以上が耐用年数を迎えていた。
そこで16年中に新型車両「R179」に交換する計画だったが、ボンバルディアの生産が遅延。納入は18年7月に延期となった。価格面で有力視されていた中国中車・ボンバルディア連合だったが、失注の結末で幕を閉じた。
川重にとって今回の受注は過去最大の受注規模はもちろん、中国中車に競り勝てたことが大きな意味を持つ。売上高2241億元(16年12月期、約3兆8711億円)と、圧倒的な規模を誇る中国中車。足元では中国国内市場で9割を稼ぐが、旺盛な同市場もいずれは成熟期を迎える。
市場飽和を見越して力を入れるのが、海外市場の深耕だ。米国でもボストンやシカゴ、ロサンゼルスなどで受注を積み上げてきた。
中国中車にとって今回の案件は、北東回廊攻略の足がかりとなったに違いない。同地域を牙城とする川重は、自陣を死守した格好だ。
中国中車の脅威は、長らく鉄道車両のビッグスリーとして君臨していた独シーメンス、ボンバルディア、仏アルストムの勢力図を塗り替えるまでになった。
17年9月にシーメンスとアルストムが、鉄道車両事業の統合を発表。中国中車の海外拡大を見越しての合従連衡だが、両社を合算しても事業規模は中国中車のおよそ半分にとどまる。
巨人たちの動きを横目に、日本、北米、アジアに絞った事業を展開する川重。いたずらに事業規模を追わず、勝てる地域で確実に勝負する姿勢には、一切のブレがない。
(文=長塚崇寛)
日刊工業新聞2018年1月26日