なぜ中高生と企業がタッグを組むのか。モノコトづくりに新風を!
熱意とアイデアで挑戦、世界で勝ち抜く人材を育成へ
今の中高生はここまでできる!―。戦後2番目の長期成長が続く国内経済だが、グローバル競争を勝ち抜くには次代を担う若者の育成が必要不可欠。中高生が企業とタッグを組んで創造力を競う「Mono―Coto Innovation(モノコトイノベーション)」では、実際の商品化や学生の起業といった成果を上げ始めている。少しずつだがモノづくりに新風を送り込んでいる。
モノコトイノベーションは2017年末に決勝大会を開催。3回目となる同大会は、長期入院中の女子中高生とその親友向けのドーム型コミュニケーションデバイス「COVO(コーボ)」の優勝で幕を閉じた。
栄冠に輝いた「New―Wind(ニューウィンド)」の4人は別々の学校に通う男女でチームを結成。「自分たちの経験がモノづくりになってうれしい」と、泣き笑いの顔で喜びを爆発させた。
コーボは2段カラーボックスぐらいの大きさで、枕の上に置き、ベッドに横たわってドーム内部に頭を入れると、目の前の天井にスクリーンが見える構造。頭を横に向けた位置のホログラムには親友の姿が映る。隣で寝転んでいるように、同じ映画や写真を見ながら話ができる。
ニッチな上に大がかりな装置で、企業であれば「スマートフォンで連絡できるのに、本当に必要か?」といった反対意見につぶされたかもしれない。
だが、男子や大人とは異なる女子中高生の“女の子の親友”という特別感で「気持ちを満たせる」(メンバー)という。中高生の自由な発想と、技術を持つ企業が一緒に取り組む場だからこそ形にできた。
今大会には全国の中高生約260人の応募から、145人が8月の予選大会に参加。企業らの出した五つのテーマに挑んだ。各テーマ1位の5チームが決勝へ進み、4カ月かけて企業と一緒にアイデアを練り直し、プロトタイプまで完成させた。
優勝したニューウィンド以外の4チームも大人顔負けの熱意とアイデアで挑戦。例えば、色とりどりのリストバンド型デバイス「MoT(モット)」は、色ごとに音や光、振動を出す、加速度を測るといった役割を持たせた。
“ガチ勢”は、運動部の練習でフォーム確認やスイング速度の測定に使い、勝つための技能向上を助ける。一方、部活を楽しむ“エンジョイ勢”は、観客のスマホとつなぎ、応援を好きな選手に振動で伝えられる。使い方はさまざまだ。
家庭の食品ロスの解決を目指す「たべったー」は、小学校2―3年生の食育と家庭の冷蔵庫内の食品管理を同時に行うアイデア。小学生は専用ノートに食品を貼りながら、冷蔵庫内の食品の行き先を追跡する。
冷蔵庫内の食品をデザインしたシールをノートの冷蔵庫ページに貼り、食べたら腸に、捨てたらゴミ箱のページに移す。保護者の食品管理にも役立ち、最後にゴミ箱ページのシールをなくす方法を考える。教師や食品スーパーなどにも意見を聞き、アイデアを練った。
ほかの2チームも、リップスティックのように伸縮する魔法瓶「のびーマグ」や、下着が透けない部活用の白パンツ「SUKETTO(スケット)」を提案。過去の大会と同様に商品化されるアイデアもありそうだ。
モノコトイノベーションは、教育事業を行うCurio School(キュリオスクール、東京都目黒区、西山恵太代表取締役)と、金型メーカーの経営を再建した実績でも知られる製造業向けコンサルティングを行うO2(オーツー、同港区、松本晋一社長)が主催し、企業などの支援を受けて運営している。
テーマを出題する企業はスポンサー料に加え、社内の優秀な人材の時間や試作費などをたっぷり注ぎ込む。社会貢献の目的もあるが、「見合うものを得られるか」を問われ続ける。
第1回大会からずっとスポンサーを続ける理由を、富士通デザイン(川崎市中原区、上田義弘社長)の藤田博之部長は「感覚として、費用対効果は得られている」と太鼓判を押す。
得られる効果は、モノづくり人材育成を通じた社会的貢献や学生発のアイデアの獲得、企業のプレゼンス向上などで、数字に換算するのは難しい。
ただ、学生からのアイデアは、当初の期待より価値が高かったという。大企業同士やベンチャー企業、大学、クリエイターなど、多様な人との共創が増える中で、「中高生も、これらと肩を並べる良質な選択肢」(藤田部長)と評価する。
O2の松本晋一社長は大会を締めくくるあいさつで、「泣いてしまった」と明かした。中高生は4カ月間で多くを吸収し、プロトタイプとプレゼンテーションができるまで、驚くほどの勢いで成長していく。その姿に親心と「すごいな」というファン心理が生まれ、企業も力が入る。涙は通常の業務では得られない経験を獲得した象徴だ。
商品のアイデアを生み出すのは大人でも難しい。世代も生活も違う中高生と大人が集まるだけでは、商品のアイデアは出てこない。そこで、モノコトイノベーションでは中高生と大人が同じ土俵で会話するため、「デザイン思考」の導入などの工夫を施している。
アイデアを生み出す思考プロセスを体系化したデザイン思考は、優れたアイデアを生む方法として利用が広がっている。どのプロセスの議論なのかを認識し、価値観の違う人ともスムーズに話ができる。大会に参加する中高生は予選前のチーム結成後、一番初めにこれを学ぶ。
お助けアイテムとして角度を変えて考えるヒントが書かれた「アイデアカード」も用意。カードを参考に、よりユニークなアイデアへの昇華を助ける。スポンサー企業からも「欲しい!」との声があがるほどだ。
チームによってはメンバーが遠く離れた地域に住んでいたり、中学生と高校生の混成もある。効率的にお互いを知り、チームを作るため、思考や行動のタイプを診断する「16パーソナリティーズ」を導入している。
(文=梶原洵子)
モノコトイノベーションは2017年末に決勝大会を開催。3回目となる同大会は、長期入院中の女子中高生とその親友向けのドーム型コミュニケーションデバイス「COVO(コーボ)」の優勝で幕を閉じた。
栄冠に輝いた「New―Wind(ニューウィンド)」の4人は別々の学校に通う男女でチームを結成。「自分たちの経験がモノづくりになってうれしい」と、泣き笑いの顔で喜びを爆発させた。
コーボは2段カラーボックスぐらいの大きさで、枕の上に置き、ベッドに横たわってドーム内部に頭を入れると、目の前の天井にスクリーンが見える構造。頭を横に向けた位置のホログラムには親友の姿が映る。隣で寝転んでいるように、同じ映画や写真を見ながら話ができる。
ニッチな上に大がかりな装置で、企業であれば「スマートフォンで連絡できるのに、本当に必要か?」といった反対意見につぶされたかもしれない。
だが、男子や大人とは異なる女子中高生の“女の子の親友”という特別感で「気持ちを満たせる」(メンバー)という。中高生の自由な発想と、技術を持つ企業が一緒に取り組む場だからこそ形にできた。
全国から260人が応募
今大会には全国の中高生約260人の応募から、145人が8月の予選大会に参加。企業らの出した五つのテーマに挑んだ。各テーマ1位の5チームが決勝へ進み、4カ月かけて企業と一緒にアイデアを練り直し、プロトタイプまで完成させた。
優勝したニューウィンド以外の4チームも大人顔負けの熱意とアイデアで挑戦。例えば、色とりどりのリストバンド型デバイス「MoT(モット)」は、色ごとに音や光、振動を出す、加速度を測るといった役割を持たせた。
“ガチ勢”は、運動部の練習でフォーム確認やスイング速度の測定に使い、勝つための技能向上を助ける。一方、部活を楽しむ“エンジョイ勢”は、観客のスマホとつなぎ、応援を好きな選手に振動で伝えられる。使い方はさまざまだ。
家庭の食品ロスの解決を目指す「たべったー」は、小学校2―3年生の食育と家庭の冷蔵庫内の食品管理を同時に行うアイデア。小学生は専用ノートに食品を貼りながら、冷蔵庫内の食品の行き先を追跡する。
冷蔵庫内の食品をデザインしたシールをノートの冷蔵庫ページに貼り、食べたら腸に、捨てたらゴミ箱のページに移す。保護者の食品管理にも役立ち、最後にゴミ箱ページのシールをなくす方法を考える。教師や食品スーパーなどにも意見を聞き、アイデアを練った。
ほかの2チームも、リップスティックのように伸縮する魔法瓶「のびーマグ」や、下着が透けない部活用の白パンツ「SUKETTO(スケット)」を提案。過去の大会と同様に商品化されるアイデアもありそうだ。
急成長に思わず涙
モノコトイノベーションは、教育事業を行うCurio School(キュリオスクール、東京都目黒区、西山恵太代表取締役)と、金型メーカーの経営を再建した実績でも知られる製造業向けコンサルティングを行うO2(オーツー、同港区、松本晋一社長)が主催し、企業などの支援を受けて運営している。
テーマを出題する企業はスポンサー料に加え、社内の優秀な人材の時間や試作費などをたっぷり注ぎ込む。社会貢献の目的もあるが、「見合うものを得られるか」を問われ続ける。
第1回大会からずっとスポンサーを続ける理由を、富士通デザイン(川崎市中原区、上田義弘社長)の藤田博之部長は「感覚として、費用対効果は得られている」と太鼓判を押す。
得られる効果は、モノづくり人材育成を通じた社会的貢献や学生発のアイデアの獲得、企業のプレゼンス向上などで、数字に換算するのは難しい。
ただ、学生からのアイデアは、当初の期待より価値が高かったという。大企業同士やベンチャー企業、大学、クリエイターなど、多様な人との共創が増える中で、「中高生も、これらと肩を並べる良質な選択肢」(藤田部長)と評価する。
O2の松本晋一社長は大会を締めくくるあいさつで、「泣いてしまった」と明かした。中高生は4カ月間で多くを吸収し、プロトタイプとプレゼンテーションができるまで、驚くほどの勢いで成長していく。その姿に親心と「すごいな」というファン心理が生まれ、企業も力が入る。涙は通常の業務では得られない経験を獲得した象徴だ。
同じ土俵で話すために…
商品のアイデアを生み出すのは大人でも難しい。世代も生活も違う中高生と大人が集まるだけでは、商品のアイデアは出てこない。そこで、モノコトイノベーションでは中高生と大人が同じ土俵で会話するため、「デザイン思考」の導入などの工夫を施している。
アイデアを生み出す思考プロセスを体系化したデザイン思考は、優れたアイデアを生む方法として利用が広がっている。どのプロセスの議論なのかを認識し、価値観の違う人ともスムーズに話ができる。大会に参加する中高生は予選前のチーム結成後、一番初めにこれを学ぶ。
お助けアイテムとして角度を変えて考えるヒントが書かれた「アイデアカード」も用意。カードを参考に、よりユニークなアイデアへの昇華を助ける。スポンサー企業からも「欲しい!」との声があがるほどだ。
チームによってはメンバーが遠く離れた地域に住んでいたり、中学生と高校生の混成もある。効率的にお互いを知り、チームを作るため、思考や行動のタイプを診断する「16パーソナリティーズ」を導入している。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2018年1月15日