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「中国は内燃機関を諦めていない」 ひそかに話題を集めたM&A

年3000万台市場、EV狂騒曲の行方
「中国は内燃機関を諦めていない」 ひそかに話題を集めたM&A

中国バイトンが19年に生産開始するEVは横125cmの大型画面を備える

 2050年、自動車産業の絵姿は大きく変わる。コネクテッド化が急速に進展。都市部を中心に移動サービス市場が立ち上がり「30年よりも前に加速度的に電気自動車(EV)が普及する変曲点を迎える可能性がある」(経済産業省幹部)。

 日本の自動車メーカーはシェアでも技術力でも世界で高い競争力をもつ。ただ、100年に一度の構造転換の中、日本は競争力を維持できるか―。EVで世界の自動車産業の覇権を握りつつある中国の動きを注意深く見る必要がある。

 年間新車販売台数3000万台に迫る中国。圧倒的な市場規模を背に世界の自動車メーカーから投資を呼び込む。国際エネルギー機関(IEA)によると16年までのEV・プラグインハイブリッド車(PHV)の世界累計販売台数のうち、中国は3割超となった。

 中国・比亜迪汽車(BYD)のEV・PHV販売は16年に約10万台に達し、2位争いを繰り広げる日産自動車、米テスラ、独BMWとの差を広げながら、世界首位を走る。

 17年12月には中国・第一汽車集団、東風汽車集団、重慶長安汽車の国有大手3社がEVなどで提携。規模拡大で世界に打って出る見通しだ。

 中国政府も後押しする。生産・販売台数の一定割合をEV、PHVなどにすることを求める「新エネルギー車クレジット管理規則」(NEV規制)は大気汚染対策を旗印に「外資からの事実上の強制的技術移転」(経産省幹部)を迫り、自国メーカーの育成を狙う。

 中国の産業振興策「中国製造2025」にも技術供与の強要や外資企業の市場参入・調達制限、政府系ファンドによる補助などの要素が盛り込まれる。

 そんな中、最近、業界関係者が指摘するのが「中国は内燃機関を諦めていない」。短期的にCAFE(企業平均燃費)基準に対応するには内燃機関の燃費改善が不可欠だ。17年秋、自動車部品業界で1件のM&A(合併・買収)がひそかに話題を集めた。

 香港系投資会社による独ボッシュと独マーレのターボチャージャー(過給器)合弁会社「ボッシュ・マーレ・ターボ・システムズ(BMTS)」の買収だ。ターボチャージャーはエンジンの燃費改善や排ガス浄化に有力で、技術難易度が高く、参入障壁が高い。

 ターボは日米サプライヤーによる寡占状態が続いていたが、08年頃にボッシュ―マーレ連合が参入。わずか10年で見切ったのは欧州でのエンジン車縮小の流れを受けた事業ポートフォリオ見直しの一環とみられるが「M&Aの背後に中国の完成車大手の影がちらつく」と日系部品メーカー幹部は指摘する。

 規制強化やM&Aで巧みに技術を積み上げる中国。中国勢が自国に強靱(きょうじん)なサプライチェーンを築き、真に世界市場で頭角を現す時、自動車の「ハード」としての価値は大きく下落するのだろうか―。自動運転やEVがひらく可能性とは裏腹に、日本の産業構造と雇用を大きく揺るがすかもしれない。
日刊工業新聞2018年1月10日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
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