METI
ハイテクから酵母まで。“埋蔵知財”を檜舞台に出すファンドとは?
アイピーブリッジ、イノベーションのインフラ担う
国内の大企業や学術機関などが保有する特許の約半分は休眠状態といわれる。潜在的に高い価値を持っていても、未活用となっている知財は数多い。「知財」「事業」「市場」を結びつけることで、“埋蔵知財”に衣装をまとわせ、檜舞台に送り出すのがIP Bridge(アイピーブリッジ、東京都千代田区、吉井重治社長)の役割だ。2013年に官民ファンドの産業革新機構を中心に設立され、国内初の知財ファンドを運営。知財をテコに「産業界の発展に貢献する社会インフラ」(経営企画・知財調達担当ディレクターの藤木実氏)になる目標を掲げる。
「ホールドアップ問題」と「ホールドアウト問題」が知財業界で話題を集めている。ホールドアップ問題とは、他技術への切り替えが難しい特許を保有する企業が、利用者に対して著しく高額のロイヤルティーを請求することだ。特許権を用いて事業会社から巨額の特許使用料や和解金を得ることを目的とした「パテント・トロール」がこれに当てはまる。
一方、ホールドアウト問題とは利用者が権利者とのライセンス交渉に誠実に応じず、権利侵害を続ける“技術のただ乗り”行為だ。
こうした悪質な行為が横行する背景には、権利者、利用者のライセンス料に対する相場観の違いがある。アイピーブリッジは「知財活用を通じてオープンイノベーションを推進することがミッション」(藤木氏)であり、パテント・トロールのような「不合理な行為は経営理念から外れる。ライセンスする特許権の価値やロイヤルティーの妥当性をしっかりと説明した上で、利用者が権利を活用して成長することを重視する」(同)。対話を通じて双方が知財の価値を適切に評価し、ウイン・ウインの関係を築く。
アイピーブリッジは産業革新機構から9割の出資を受け、100%子会社で300億円の知財ファンドを運営している。パナソニックやNEC、セイコーエプソン、船井電機などから特許を買収した。現在は大企業、中小企業、大学などから譲り受けた3500件を超える日本および外国特許を保有しており、技術領域は移動体通信、半導体、画像符号化装置(コーデック)、ディスプレー、モーターなどが中心だ。
強みは各分野のプロが集う混成チームにある。大手企業の知財部門出身者や投資会社・金融機関の出身者、弁護士、弁理士、CEO(最高経営責任者)経験者など、企業経営を丸ごとサポートできる陣容を整えている。専門家集団が徹底した市場調査に基づき知財価値を評価し、利用者に適正なライセンス契約を働きかける。
「ミッションの実現に必要であれば、訴訟を含むいかなるアクションも選択肢になる」(藤木氏)。こうして企業や大学に眠っている権利流通を促すとともに、発明者に収益の一部を還元する。適正な対価を求めることで、発明者のR&D(研究開発)投資への意欲を一層引き出す好循環を生む。
同社のもう一つの柱がイノベーション事業だ。知財をベースに成長を目指すベンチャー企業や中小企業を支援する。
寛文6年(1666年)創業のヤヱガキ酒造(兵庫県姫路市、長谷川雄介社長)。清酒「八重墻」などを製造する。同社グループのヤヱガキ醗酵技研は酒造りで培った伝統の発酵技術を駆使。機能性食品素材など新素材開発を進めるため、アイピーブリッジと共同出資でインテグラムヘルスデザインを立ち上げた。まずは、歯周病にフォーカスした「口腔内簡易検査」を確立し、その改善支援事業の早期立ち上げを目指している。機能性素材を含んだサプリメントやヨーグルトなどを活用したセルフオーラルケアが実現する世界を、知財で保護しつつ目指す。
アイピーブリッジと三井不動産が連携したスタートアップ支援の枠組みも興味深い。その名は「ManGO Factory」。国内で特許出願された技術のうち、グローバル展開できていない知財の割合は中小企業で8割強に達するといわれる。三井不動産が運営するコワーキングスペースを活動拠点とし、70社以上に対してアクセラレータープログラムを提供した実績を持つシンガポールのインキュベーターと協力しながら、技術系スタートアップの海外展開に向けた戦略立案を支援する。
2017年からアイピーブリッジは新たな取り組みを始めている。知財価値を上げることで企業価値を上げるという取り組みだ。同社が投資する中小、ベンチャー企業に対して社外知財部として活動し、技術の棚卸、知財戦略の立案、権利化支援、知財管理支援などを実施している。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心部であるシンガポールやマレーシアには、技術系スタートアップを育成するエコシステムが根付いている。この1年で、アイピーブリッジはマレーシア市場を舞台に、二つの大きな基本合意書(MoU)を交わした。
ICTを振興する政府系機関マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)とのMoU(2016年10月)と、ASEANをベースに活動するプライベートエクイティファンドのレオニーヒルキャピタルとのMoU(2017年10月)だ。マレーシア政府支援の下、5000万ドル規模の知財ファンドで東南アジアや日本のスタートアップに投資する。IoT(モノのインターネット)やウエアラブルセンサー、ロボティクス、農業テクノロジー、食品テクノロジーなどの企業を検討中で、「ManGO Factory」も後押しする。
「おいしい米が、豊かな土やきれいな水、十分な日光、虫、カエルなどを抜きにしては育たないように、スタートアップ企業にも適切なエコシステムが必要だ。我々はASEANや日本のスタートアップ企業を支援するため、マレーシアのイノベーションエコシステムの一部として機能できるということを光栄に思い、大きな期待を持っている」とアイピーブリッジの吉井重治社長は話す。
日本が技術立国として復活するため、日本発の大型特許運用会社に寄せられる期待は日増しに高まっている。
「ホールドアップ問題」と「ホールドアウト問題」が知財業界で話題を集めている。ホールドアップ問題とは、他技術への切り替えが難しい特許を保有する企業が、利用者に対して著しく高額のロイヤルティーを請求することだ。特許権を用いて事業会社から巨額の特許使用料や和解金を得ることを目的とした「パテント・トロール」がこれに当てはまる。
一方、ホールドアウト問題とは利用者が権利者とのライセンス交渉に誠実に応じず、権利侵害を続ける“技術のただ乗り”行為だ。
こうした悪質な行為が横行する背景には、権利者、利用者のライセンス料に対する相場観の違いがある。アイピーブリッジは「知財活用を通じてオープンイノベーションを推進することがミッション」(藤木氏)であり、パテント・トロールのような「不合理な行為は経営理念から外れる。ライセンスする特許権の価値やロイヤルティーの妥当性をしっかりと説明した上で、利用者が権利を活用して成長することを重視する」(同)。対話を通じて双方が知財の価値を適切に評価し、ウイン・ウインの関係を築く。
3500超の特許を保有
アイピーブリッジは産業革新機構から9割の出資を受け、100%子会社で300億円の知財ファンドを運営している。パナソニックやNEC、セイコーエプソン、船井電機などから特許を買収した。現在は大企業、中小企業、大学などから譲り受けた3500件を超える日本および外国特許を保有しており、技術領域は移動体通信、半導体、画像符号化装置(コーデック)、ディスプレー、モーターなどが中心だ。
強みは各分野のプロが集う混成チームにある。大手企業の知財部門出身者や投資会社・金融機関の出身者、弁護士、弁理士、CEO(最高経営責任者)経験者など、企業経営を丸ごとサポートできる陣容を整えている。専門家集団が徹底した市場調査に基づき知財価値を評価し、利用者に適正なライセンス契約を働きかける。
「ミッションの実現に必要であれば、訴訟を含むいかなるアクションも選択肢になる」(藤木氏)。こうして企業や大学に眠っている権利流通を促すとともに、発明者に収益の一部を還元する。適正な対価を求めることで、発明者のR&D(研究開発)投資への意欲を一層引き出す好循環を生む。
同社のもう一つの柱がイノベーション事業だ。知財をベースに成長を目指すベンチャー企業や中小企業を支援する。
酒造りの技術で新分野開拓
寛文6年(1666年)創業のヤヱガキ酒造(兵庫県姫路市、長谷川雄介社長)。清酒「八重墻」などを製造する。同社グループのヤヱガキ醗酵技研は酒造りで培った伝統の発酵技術を駆使。機能性食品素材など新素材開発を進めるため、アイピーブリッジと共同出資でインテグラムヘルスデザインを立ち上げた。まずは、歯周病にフォーカスした「口腔内簡易検査」を確立し、その改善支援事業の早期立ち上げを目指している。機能性素材を含んだサプリメントやヨーグルトなどを活用したセルフオーラルケアが実現する世界を、知財で保護しつつ目指す。
アイピーブリッジと三井不動産が連携したスタートアップ支援の枠組みも興味深い。その名は「ManGO Factory」。国内で特許出願された技術のうち、グローバル展開できていない知財の割合は中小企業で8割強に達するといわれる。三井不動産が運営するコワーキングスペースを活動拠点とし、70社以上に対してアクセラレータープログラムを提供した実績を持つシンガポールのインキュベーターと協力しながら、技術系スタートアップの海外展開に向けた戦略立案を支援する。
2017年からアイピーブリッジは新たな取り組みを始めている。知財価値を上げることで企業価値を上げるという取り組みだ。同社が投資する中小、ベンチャー企業に対して社外知財部として活動し、技術の棚卸、知財戦略の立案、権利化支援、知財管理支援などを実施している。
ASEANや日本のスタートアップ支援
東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心部であるシンガポールやマレーシアには、技術系スタートアップを育成するエコシステムが根付いている。この1年で、アイピーブリッジはマレーシア市場を舞台に、二つの大きな基本合意書(MoU)を交わした。
ICTを振興する政府系機関マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)とのMoU(2016年10月)と、ASEANをベースに活動するプライベートエクイティファンドのレオニーヒルキャピタルとのMoU(2017年10月)だ。マレーシア政府支援の下、5000万ドル規模の知財ファンドで東南アジアや日本のスタートアップに投資する。IoT(モノのインターネット)やウエアラブルセンサー、ロボティクス、農業テクノロジー、食品テクノロジーなどの企業を検討中で、「ManGO Factory」も後押しする。
「おいしい米が、豊かな土やきれいな水、十分な日光、虫、カエルなどを抜きにしては育たないように、スタートアップ企業にも適切なエコシステムが必要だ。我々はASEANや日本のスタートアップ企業を支援するため、マレーシアのイノベーションエコシステムの一部として機能できるということを光栄に思い、大きな期待を持っている」とアイピーブリッジの吉井重治社長は話す。
日本が技術立国として復活するため、日本発の大型特許運用会社に寄せられる期待は日増しに高まっている。