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続投濃厚なパナソニック社長「全事業で“モノからコト”へ進化を遂げたい」

津賀社長インタビュー「M&Aも含めて成長戦略を作り替える」
続投濃厚なパナソニック社長「全事業で“モノからコト”へ進化を遂げたい」

津賀社長

 パナソニックは電気自動車(EV)などに使う高性能車載電池の実現を目指し、トヨタ自動車と協業する。13日に開いた共同会見で、津賀一宏パナソニック社長は「相当なチャレンジだが、ひるむことは全くない」と胸を張った。2018年の創業100年を前に、車載機器を中心とするBツーB(企業向け)事業への転換に向けてアクセルを踏み込む。津賀社長に将来像を聞いた。

 ―18年以降、どんな会社を目指しますか。
 「100周年を転機に全事業領域のビジネスモデルを変えたい。単品売り(の会社)から、顧客と直接向き合ってソリューションを提供する会社に変える。電池という部品も電気をためるツールとして使えばサービスに近づく。このように“モノ”から“コト”への進化を遂げたい」

 ―海外の事業機会もさらに広がります。
 「組織の能力を海外で通用する形に変えるため、M&A(合併・買収)を行った企業を(独立性のある)事業部格にし海外の顧客に対応している。中国やインドのように人材が豊富で当社の事業基盤がある地域では、現地企業とイノベーションを起こしたい」

 ―具体的には。
 「中国ではEV製造を支援するプラットフォームを作って現地企業と話を始めた。電池からモーター、充電器まで全てを部品やシステムの形で売れる。EVの事業化を目指す企業の輪をつくり、サービス事業者にも広げたい。インドも同じだ」

 ―その場合は1次部品メーカーより上位の立場になりますか。
 「プラットフォームを全て使うなら『ティア0・5』もしくはOEM(相手先ブランド)メーカーだ」

 ―BツーBシステム事業の手応えは。
 「日本国内では、担当する社内カンパニーの本社を東京に移し、工場設備やソリューション販売の子会社2社を中心に顧客の近くで提案する形ができてきた。今後は北米と欧州で組織を見直し、M&Aも含めて成長戦略を作り替える」

「続けてもらう方が良い」


 パナソニックの2018年3月期連結決算は、4期ぶりに売上高と営業利益が前期に比べて増加する見通し。こうした改革の成果を踏まえ、社長の津賀一宏は18年に退任するとの見方があった。津賀自身は「指名・報酬諮問委員会の議論に委ねる」と口をつぐむが、状況から見れば続投の可能性が高い。

 社外取締役で指名・報酬諮問委員の冨山和彦は、一般論としつつ「日本企業の社長任期は改革を続けるには短すぎる。社長の気力・体力が充実している間は続けてもらう方が良い」との考えを示す。

 次期社長の候補者探しも容易ではない。専務執行役員の本間哲朗や、代表取締役として招かれた元日本マイクロソフト会長の樋口泰行が候補に挙がるが、ともに今後の成長を牽引(けんいん)する車載事業の経験はない。

 もう一つの柱であるBツーB(企業向け)事業は樋口らも担当するが、まだ実力は見えない。

 津賀が社長を続ければ候補者の育成時間も生まれる。執行役員兼家電担当社内カンパニー副社長の楠見雄規は、18年1月から車載・産業機器部門の二次電池担当に抜てきされた。52歳と若い楠見も、数年後は候補者に加わるかもしれない。

 やり残した仕事は他にもある。コーポレートガバナンス(企業統治)の強化だ。パナソニックは車載機器やIoT(モノのインターネット)など世界的に競争が激しい事業領域に身を置くことを選んだが、その領域で継続して成長できる姿をまだ示せていない。

 こうした課題について、冨山は「不連続な変化に対し、スピーディーかつ果断な意思決定を定常的に行える力が必要」と訴える。6月に取締役の数を減らし、社外取締役比率を3分の1に高めた。これも、取締役会の機敏な戦略決定を可能にするための改革だ。

 これは大きな変化だったが、日立製作所などガバナンスが進んだ企業と比べれば遅れている。創業100年を越えて成長を続けるには、古い殻を打ち破る必要がある。津賀の社内改革も新たな段階に進む。
(敬称略)
日刊工業新聞2017年12月14日/15日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ソリューション、サービス化への流れは日立などと同じ。ビジネスへのアプローチや発想を変える時に、収益化のポイント、PLやBSも一緒に再考しないといけない。日立以上にプロダクト色が強いパナソニックにだけに、財務や会計、人事などコーポレート側の大き改革、仕掛けも必要になる。再来年あたりにホールディングカンパニーへ移行する可能性もある。

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