「東洋のデトロイト」 タイ製造業の復調はいつ?
機械メーカー、再強化に動く。耐久戦は最後のこらえどころ
タイの機械設備需要に底打ち感が強まっている。タイの工作機械受注は日本の統計上、大洪水翌年の2012年から前年比減が5年続いたが、17年は10月まで同5・8%増で推移、薄日が差し始めた。短期では自動車の更新需要、長期では政府の経済対策が設備投資を促しそう。機械関連各社は足元、将来を見据えた活動にギアを一段上げる。自動車産業の集積地であることから「東洋のデトロイト」ともてはやされたタイ。復活となるか。
11月末にタイ・バンコクの米系ホテルで開かれた機械商社大手、山善の懇親会。日本の工作機械・機器の首脳がそろう中、山善から「東南アジア諸国連合(ASEAN)の売上高を500億円にする」との声が上がった。2017年3月期比でおよそ2・5倍もの計画に会場がわいた。中長期的な努力目標とみられるが、意欲、期待の高さがうかがえる。
タイの機械受注は低迷が続いた。11年の大洪水で水没した機械が一斉に更新され、「新規需要をなかば先食いした」(中堅プレスメーカー幹部)。
頼みの自動車産業は生産台数が13年の245万台で頭打ち。以後、新車販売が伸びず、年産約200万台の低速運転中だ。タイ国内の生産能力は同300万台と設備過多が指摘され、新規投資が進まない。直近の数年は中国経済の減速余波にも苦しめられた。
ただ、ここにきて朗報が続く。7―9月のGDPは4・3%増で4年半ぶりの高い伸びとなった。さらに18年の成長率は3・6―4・6%が予想される。日本の統計からも回復予兆が読み取れる。日本工作機械工業会(日工会)のまとめでは受注額が1―10月まで増加した。
なにより大きいのが政府が発表した経済活性化策だ。新経済特区「東部経済回廊」に5兆円超が投じられる。高速鉄道や港湾、空港が整備され、直接、間接的な設備需要が期待される。また、タイ版「インダストリー4・0」政策で目指す産業高度化のための設備投資も予想される。この波に乗ろうと日本の機械各社がタイ事業の再強化に動いている。
「最近では珍しく初日から人の入りがいい」―。日系機械メーカーのタイ現地法人社長はそう言い、満足そうな様子で辺りを見回す。バンコクで11月下旬に開かれた東南アジア最大級の金属加工技術展「METALEX(メタレックス)2017」は、タイ政府の経済政策への期待などから例年以上ににぎわった。
主催者のタイのリード・トラデックス(バンコク)幹部は、会期途中の速報値ながら「来場者数が16年の前回比2割増になった」と笑顔をみせた。
タイの経済政策「タイランド4・0」はロボット産業の振興が目玉の一つだ。不二越は「初めてロボットを使う電気・電子、食品業界を開拓したい」(小幡光由ナチテクノロジー〈タイランド〉副社長)と、7月に新設したバンコクのロボット展示場を舞台に国の後押しを最大限生かす。
政策効果の出現を待たずとも、労働人口の減少、人件費の高騰といった社会問題に直面しており、自動化要求が高まっている。
オークマは「オークマ」ブランドの信頼性と台湾生産での普及価格を両立した3機種を会期初日に発売。省人化を図る複合化加工機など工程集約型の製品を「軸足を置いてきた日系だけでなく、地場企業に売っていく」(タイのオークマテクノ伊藤健二社長)。
経済発展や輸出産業の促進を背景に品質へのこだわりが強まっている。タイは伝統的に台湾、中国の機械メーカーが強いとされてきたが、精度が売りの日本勢の土俵になってきた。
DMG森精機は高精度に複雑な加工ができる5軸マシニングセンター(MC)を重点製品の一つとした。5軸MCはタイではまだ少なく、普及価格機で市場開拓する。ソディックは複雑形状の部品や生産性を高める金型の製造に向く金属3Dプリンターを、近く追加受注する見通しだ。
一方、アマダホールディングス(HD)は4月に東南アジアの統括会社をタイに置き、グループ3社の板金機械、プレス機械・鉄鋼加工機、溶接機械の各事業を1社に集約。事業横断の横串し提案ができる体制に改めた。
板金機械では、三菱電機がタイの自社展示場に高速、低消費電力が特徴のファイバーレーザー加工機を常設する。同レーザーは従来レーザー方式に比べ販売の伸び率が高く、成長余地が大きい。
タイは機械需要が増える要素が数多いが、現状は回復の端緒についたところ。収益確保の足場固めが欠かせない。ジェイテクトは老朽機の再生サービスを拡充した。日本から技術者を派遣してもらい高度な修理や調整をすることがあったが、タイの従業員だけで完結できるようにした。地道な教育でサービス水準を底上げし、市況好転に備える。
(文=六笠友和)
11月末にタイ・バンコクの米系ホテルで開かれた機械商社大手、山善の懇親会。日本の工作機械・機器の首脳がそろう中、山善から「東南アジア諸国連合(ASEAN)の売上高を500億円にする」との声が上がった。2017年3月期比でおよそ2・5倍もの計画に会場がわいた。中長期的な努力目標とみられるが、意欲、期待の高さがうかがえる。
タイの機械受注は低迷が続いた。11年の大洪水で水没した機械が一斉に更新され、「新規需要をなかば先食いした」(中堅プレスメーカー幹部)。
頼みの自動車産業は生産台数が13年の245万台で頭打ち。以後、新車販売が伸びず、年産約200万台の低速運転中だ。タイ国内の生産能力は同300万台と設備過多が指摘され、新規投資が進まない。直近の数年は中国経済の減速余波にも苦しめられた。
ただ、ここにきて朗報が続く。7―9月のGDPは4・3%増で4年半ぶりの高い伸びとなった。さらに18年の成長率は3・6―4・6%が予想される。日本の統計からも回復予兆が読み取れる。日本工作機械工業会(日工会)のまとめでは受注額が1―10月まで増加した。
なにより大きいのが政府が発表した経済活性化策だ。新経済特区「東部経済回廊」に5兆円超が投じられる。高速鉄道や港湾、空港が整備され、直接、間接的な設備需要が期待される。また、タイ版「インダストリー4・0」政策で目指す産業高度化のための設備投資も予想される。この波に乗ろうと日本の機械各社がタイ事業の再強化に動いている。
社会問題から自動化ニーズ高まる
「最近では珍しく初日から人の入りがいい」―。日系機械メーカーのタイ現地法人社長はそう言い、満足そうな様子で辺りを見回す。バンコクで11月下旬に開かれた東南アジア最大級の金属加工技術展「METALEX(メタレックス)2017」は、タイ政府の経済政策への期待などから例年以上ににぎわった。
主催者のタイのリード・トラデックス(バンコク)幹部は、会期途中の速報値ながら「来場者数が16年の前回比2割増になった」と笑顔をみせた。
タイの経済政策「タイランド4・0」はロボット産業の振興が目玉の一つだ。不二越は「初めてロボットを使う電気・電子、食品業界を開拓したい」(小幡光由ナチテクノロジー〈タイランド〉副社長)と、7月に新設したバンコクのロボット展示場を舞台に国の後押しを最大限生かす。
政策効果の出現を待たずとも、労働人口の減少、人件費の高騰といった社会問題に直面しており、自動化要求が高まっている。
オークマは「オークマ」ブランドの信頼性と台湾生産での普及価格を両立した3機種を会期初日に発売。省人化を図る複合化加工機など工程集約型の製品を「軸足を置いてきた日系だけでなく、地場企業に売っていく」(タイのオークマテクノ伊藤健二社長)。
経済発展や輸出産業の促進を背景に品質へのこだわりが強まっている。タイは伝統的に台湾、中国の機械メーカーが強いとされてきたが、精度が売りの日本勢の土俵になってきた。
DMG森精機は高精度に複雑な加工ができる5軸マシニングセンター(MC)を重点製品の一つとした。5軸MCはタイではまだ少なく、普及価格機で市場開拓する。ソディックは複雑形状の部品や生産性を高める金型の製造に向く金属3Dプリンターを、近く追加受注する見通しだ。
一方、アマダホールディングス(HD)は4月に東南アジアの統括会社をタイに置き、グループ3社の板金機械、プレス機械・鉄鋼加工機、溶接機械の各事業を1社に集約。事業横断の横串し提案ができる体制に改めた。
板金機械では、三菱電機がタイの自社展示場に高速、低消費電力が特徴のファイバーレーザー加工機を常設する。同レーザーは従来レーザー方式に比べ販売の伸び率が高く、成長余地が大きい。
タイは機械需要が増える要素が数多いが、現状は回復の端緒についたところ。収益確保の足場固めが欠かせない。ジェイテクトは老朽機の再生サービスを拡充した。日本から技術者を派遣してもらい高度な修理や調整をすることがあったが、タイの従業員だけで完結できるようにした。地道な教育でサービス水準を底上げし、市況好転に備える。
(文=六笠友和)
日刊工業新聞2017年11月27日 /28日