下町ロケット弁護士が説く「技術立国ニッポン」の再定義

鮫島正洋氏「一つでも一兆円産業が生まれたら、国税の使い方としては大成功」

 知的財産は企業の競争力そのものである。グローバル競争が激しくなる中、その重要性は高まるばかりだ。しかし日本企業は自らの知財を本当に生かし切れているのだろうか。知的財産経営の第1回目は、内田鮫島法律事務所代表パートナーの鮫島正洋弁護士・弁理士インタビュー。「下町ロケット」の登場人物のモデルになったことでも知られる鮫島さんは、知財を切り口にオープンイノベーションを加速することが、わが国産業が再び競争力を取り戻すためには不可欠だと訴える。知財経営はゴールではなく、新たな価値を生み出すためのスタートにすぎない。

 ―知的財産を経営戦略に組み込む中小、ベンチャー企業が増えてきました。
 「大企業の傘下で安定して仕事をもらえる時代は崩れ去った。自社の能力や技術で対応できるマーケットを発掘し、競争力のある独自製品でニッチトップを目指すことが大切だ。この際、市場が大きくなるほど模倣されるリスクが高まり、特許取得の重要性は増す。ただ、この議論は3年前の話だ。今はそこから一歩踏み出し、中小・ベンチャー企業がニッチ止まりでは無く、グローバル展開する上で、足りない資本力や資金力をどのように補い、ビジネスの規模を拡大するか考える時期を迎えている」

 ―具体的にはどのような行動を取れば良いのでしょうか。
 「オープンイノベーションがそれに対する解。大企業はブランドや信用力、資本力といった経営資源を持ち合わせているが、保守的で思考が凝り固まっている。一方、中小・ベンチャー企業は豊かな発想力を持つものの、経営資源が不足している。両者が結びつけば革新的な製品やサービスを生み出し、世界で勝負できる。技術提携に止まらず、価値観やマーケティングを含めた相互補完関係を築くことが重要だ。また、異業種でタッグを組むのも一つの手段。政府も大企業や大学、中小・ベンチャー企業を結びつけ、グローバル産業を創出する方向性を強く打ち出している」

 ―オープンイノベーションを成功させる秘訣(ひけつ)は。
 「シーズを事業化するまでの速度を一段、二段と引き上げるのがオープンイノベーションの本質だ。大企業の知的財産部や法務部は交渉段階で有利な条件を引き出そうとし、リスクを負わないことを重視する傾向がある。だが、リスクヘッジよりも、意思決定のスピードを優先しなければ、オープンイノベーションは成功しない。交渉に時間をかければかけるほど、開発した技術の市場投入は後れ、マーケットをリードできなくなることこそがより大きなリスクであると認識すべきだ。オープンイノベーションに積極的な大企業であるという評価は、中小・ベンチャー業界のコミュニティに知れ渡り、やがてその大企業の周りに優秀な中小・ベンチャー企業が集まるという好循環を生む。大企業も選別される時代だ」

 ―大企業に求められることは。
 「日本の大学やベンチャー企業には世界を変革しうる、ものすごいイノベーションがたくさん眠っている。こうしたイノベーションを使わない手はない。ただ、ベンチャーキャピタル(VC)から地道に資金調達してグローバル展開するには何年もの時間がかかるから、大企業と連携することによってスピードを速めたい。一方、大企業との連携にはさまざまなハードルがある。利益追求は資本主義社会における前提事項であるとしても、それに加えてベンチャー企業と成長を共にする、利益を分け合うという共創的な価値観を身につけなければ、日本の産業競争力は底上げできない。21世紀型の資本主義論とも言うべきこの考え方は、本来「和」を重んじてきた日本人にはなじむはず。経営者はそろそろ意識を変えないと、国が衰えてしまう」

 ―産業構造にも大きな影響を及ぼしそうですね。
 「わが国には、自動車や電機、化学、ライフサイエンスなど幅広い産業領域にわたり、大学が保有する世界最高峰の技術シーズ・基礎研究、大企業が保有する量産技術、中小企業の匠の技という何層もの技術が集積している。このように産業のバリューチェーン全般にわたり、縦軸、横軸ともに技術が集積する国は世界を見渡しても日本だけだ。この日本の競争力ともいうべき技術集積をどうやって統合し、グローバル産業を生み出していけるか。『技術立国ニッポン』の再定義、再ブランディングが必要である。政府も個別元本回収主義などという硬直的なリスクマネー運用を見直し、ベンチャー企業による新しい産業創出をもっと後押しすべきだ。成功事例を積み重ねるためにはリスクをとることも大切。リスクをとった上で、一つでも一兆円規模の産業が生まれたら、国税の使い方としては大成功なのではないか」

 ―翻ってオープンイノベーションにおける知財の意味は。
 「知財は産業競争力を底上げするプラットフォーム(基盤)そのもの。知財権単体で論じる時代は過ぎた。知財というプラットフォームを使ってどのように事業競争力を確保していくか。中小・ベンチャー企業にはこうした観点の知財戦略が浸透し始めている。大企業でも同様な戦略眼を持つ中堅層が増えてきた。技術のコモディティ(日用品)化が進む中、技術のみならず他のあらゆる付加価値を動員しなければ、世界で勝ち抜けないという危機感があるからだろう。米国の一流企業では必ず、知財のエキスパートをボード(取締役会)に入れている。日本も事業戦略と知財戦略をしっかりひも付けていくべきだ」

 ―若手、中堅社会人に対するメッセージをお願いします。
 「これからの時代は新しい価値観を生み出し、アウトプットできる人材が求められる。私の信条も『鶏口牛後』。マーケットが何を求め、自分の能力で社会に対してどのような貢献ができるのかを考え続けてきた。3年後、5年後にどんな自分になりたいのかという、人生の羅針盤を持つこと。いくら羅針盤を持っても、内戦や飢饉(ききん)で実現できない国・社会も多い中で、日本は自分の可能性を信じれば必ずゴールに到達できる、フェアで幸せな国でもあるのです」
「経営者が意識を変える必要がある」(鮫島氏)

【略歴】
鮫島正洋(さめじま・まさひろ)1985年東京工業大学金属工学科卒業、藤倉電線(現フジクラ)入社。1991年弁理士試験合格、1992年日本アイ・ビー・エムに入社し、知的財産マネジメントに従事する。1996年司法試験合格。1997年に日本アイ・ビー・エムを退社し、1999年弁護士登録。2004年に内田・鮫島法律事務所を設立し、現在に至る。中小企業に対する知財戦略啓発事業に貢献したことに対し、2012年に知財功労賞を受賞した。「下町ロケット」に登場する神谷弁護士のモデル。

明 豊

明 豊
12月03日
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今月の「METIジャーナル」の政策特集は「知的財産経営」です。ご期待下さい。

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