軒並み減益か赤字の地銀、改善の兆しは見えたか?
4ー9月期、「厳しい環境だが創意工夫がみられる」(地銀協会長)
地方銀行の2017年4―9月期決算で、本業のもうけを示す実質業務純益は主要20行・グループのうち、13行・グループが前年同期に比べ減益もしくは赤字となった。日銀のマイナス金利導入による預貸金利ざやの減少が一部で下げ止まりの兆しを見せているが、依然として本業での収益確保に苦戦している。
全国地方銀行協会は15日、会員63行の17年4―9月期決算の業務純益(速報ベース)が前年同期比14%減の5309億円だったことを明らかにした。国債など債券の売買益の減少が主因。ただ、貸し出しを含む資金利益はわずかならがプラスに転じた。
手数料を含む役務取引等利益については、30行が前年同期比で増加した。同日都内で開いた会見で佐久間英利会長(千葉銀行頭取)は「法人向けの手数料収益の改善が目立っている」と指摘した上で「融資先の事業性をしっかりみて解決策を提供することが定着している。厳しい環境だが創意工夫がみられる」と話した。
ただ低金利の長期化による厳しい経営環境は好転しそうにない。佐久間会長は「現状の緩和政策が続けば地銀の基礎体力が徐々に奪われる」とも話した。経費削減を含めた収益力の強化が求められている。
東日本の主要9行・グループの2017年4―9月期は、本業のもうけを示す実質業務純益で計5行が増益となった一方、計4行が減益となり明暗が分かれた。
コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)の寺澤辰麿社長は、「マイナス金利で貸出金の利回りの影響はまだあるが、前年と比べると若干少なくなった」とし、日銀のマイナス金利政策の影響が和らぎつつあるとの見方を示した。
貸出金の9月期末残高は各行とも増加傾向にあるものの、埼玉りそな銀の池田一義社長は「テーパリング(量的緩和の縮小)の出口が見えない」とし、マイナス金利の環境は当面続くと見る。
こうした中、各行は「資金利益から非資金利益への収益源の多様化を図っている」(佐久間英利千葉銀頭取)、「投資信託やM&A(合併・買収)は予想以上に伸びている。承継やフィービジネスで収益を得る」(池田埼玉りそな銀社長)、「道内の中小・小規模企業への円滑で積極的な融資でボリュームアップを図る」(石井純二北洋銀頭取)など収益確保に工夫を凝らす。
また経費削減を進めるめぶきフィナンシャルグループ(FG)の松下正直副社長(足利銀行頭取)は、「17年度の統合シナジー効果のうち3億円を両行のコスト削減効果と見込んでいたが、上期だけで4億円の削減効果が表れている」と強調した。
中部地方の主要地銀は低金利で厳しい経営環境が続くが、中小企業の事業性資金需要などは増加。「金利の下げ幅は底にきつつあり、逆ざやは下半期には解消する」(村瀬幸雄十六銀行頭取)と一部で改善の兆しがある。
十六銀行は資金利益が前年同期比14・8%減と本業で苦しく、リースやカード、証券など金融周辺事業で収益確保を図る。また「メガバンクより早くしてきたつもり」(同)とする業務改革では本部の人員を17年度上半期で100人削減した。
静岡銀行は貸出金残高が中小企業や個人向けで増加。貸出金利回りは1・23%と前年同期の水準を確保して低下に歯止めがかかった。「金利競争に巻き込まれないで安定して利益が出せる体制になりつつある」(柴田久頭取)。マネックスグループを活用した金融商品の販売など新たな事業領域を強化する。
一方、ほくほくFGの北陸銀行は貸出金利息の減少に加え投資信託や保険販売手数料が減り、役務取引等利益も落ち込んだ。国債等債券損益もマイナスで経常減益。「利ざやが拡大する環境にはない」(庵栄伸頭取)と、今後も厳しい経営環境を想定する。
関西および中・四国の主要地銀6行の2017年4―9月期は、好調な企業業績を背景に預金や預かり資産などの量を拡大した。ただ収益はバラつきがある。
貸出金残高は京都銀行が初めて5兆円の大台を突破。地域における資金需要は底堅く、広島銀行や中国銀行も順調に伸ばした。ただ収益は各行、構造が異なる。伊予銀行は資金運用収益の改善や株価上昇が寄与し、連結の経常利益と当期利益が4―9月期として3期ぶりの増益。
一方、池田泉州銀行は米国債償却による含み損処理などから、単体の実質業務純損益が4―9月期として初めて赤字(前年同期は97億円の黒字)。
各行、長引く低金利環境に収益力の向上や多様化で対抗する。広島銀は非金利収入を重視。同比率は「証券会社の子会社化などで33・6%に達した」(池田晃治頭取)。
今後は40%超えを目指す。池田泉州銀は事業性貸出金が伸長。「法人顧客取引を伸ばし、手数料収益拡大につなげる」(前野博生取締役常務執行役員)。
京都銀はコンサルタント機能を強化して「預金と貸し出し両面の拡大、預かり資産の増量、運用利回りの改善に努める」(床本敬三常務執行役員)。
近畿大阪銀行は「不動産や国際業務など法人ソリューション事業の収益拡大」(中前公志社長)に力を入れるなど各行、法人に対する手厚い営業戦略が収益拡大のカギと言えそうだ。
九州のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と西日本フィナンシャルホールディングス(西日本FH)はマイナス金利の影響による逆風が続く。
厳しい経営環境をFFGの柴戸隆成社長は「金利の下げ幅は徐々に小さくなっているが、まだ影響は続く」と下期も大きな変化はないとみる一方で、西日本FHの谷川浩道社長は「貸出金利益に下げ止まりの兆しが表れている。最悪期を脱する糸口が見えている」とした。
17年4―9月期は、ふくおかフィナンシャルグループが傘下の福岡、熊本、親和の3行合算の国内資金利益が719億円と2期ぶりに増加に転じた。貸出量は増加したがマイナス金利による利回り低下をカバーしきれなかったが、有価証券の利息増などで補った。
西日本FHは傘下の西日本シティと長崎の2行を合算した実質業務純益で減益。谷川社長は「引き続きマイナス金利政策が負の影響を及ぼす厳しい内容」と振り返った。
また柴戸社長は「この10年で銀行全体の取引件数はざっと3割増えているがネットバンキングなどが飛躍的に増えており、銀行の窓口に来る顧客は3割減っている。この構造変化に対応せねば生き残れない」と強調した。
全国地方銀行協会は15日、会員63行の17年4―9月期決算の業務純益(速報ベース)が前年同期比14%減の5309億円だったことを明らかにした。国債など債券の売買益の減少が主因。ただ、貸し出しを含む資金利益はわずかならがプラスに転じた。
手数料を含む役務取引等利益については、30行が前年同期比で増加した。同日都内で開いた会見で佐久間英利会長(千葉銀行頭取)は「法人向けの手数料収益の改善が目立っている」と指摘した上で「融資先の事業性をしっかりみて解決策を提供することが定着している。厳しい環境だが創意工夫がみられる」と話した。
ただ低金利の長期化による厳しい経営環境は好転しそうにない。佐久間会長は「現状の緩和政策が続けば地銀の基礎体力が徐々に奪われる」とも話した。経費削減を含めた収益力の強化が求められている。
【東日本】収益源の多様化に成果
東日本の主要9行・グループの2017年4―9月期は、本業のもうけを示す実質業務純益で計5行が増益となった一方、計4行が減益となり明暗が分かれた。
コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)の寺澤辰麿社長は、「マイナス金利で貸出金の利回りの影響はまだあるが、前年と比べると若干少なくなった」とし、日銀のマイナス金利政策の影響が和らぎつつあるとの見方を示した。
貸出金の9月期末残高は各行とも増加傾向にあるものの、埼玉りそな銀の池田一義社長は「テーパリング(量的緩和の縮小)の出口が見えない」とし、マイナス金利の環境は当面続くと見る。
こうした中、各行は「資金利益から非資金利益への収益源の多様化を図っている」(佐久間英利千葉銀頭取)、「投資信託やM&A(合併・買収)は予想以上に伸びている。承継やフィービジネスで収益を得る」(池田埼玉りそな銀社長)、「道内の中小・小規模企業への円滑で積極的な融資でボリュームアップを図る」(石井純二北洋銀頭取)など収益確保に工夫を凝らす。
また経費削減を進めるめぶきフィナンシャルグループ(FG)の松下正直副社長(足利銀行頭取)は、「17年度の統合シナジー効果のうち3億円を両行のコスト削減効果と見込んでいたが、上期だけで4億円の削減効果が表れている」と強調した。
【中部】中小の資金需要が増加
中部地方の主要地銀は低金利で厳しい経営環境が続くが、中小企業の事業性資金需要などは増加。「金利の下げ幅は底にきつつあり、逆ざやは下半期には解消する」(村瀬幸雄十六銀行頭取)と一部で改善の兆しがある。
十六銀行は資金利益が前年同期比14・8%減と本業で苦しく、リースやカード、証券など金融周辺事業で収益確保を図る。また「メガバンクより早くしてきたつもり」(同)とする業務改革では本部の人員を17年度上半期で100人削減した。
静岡銀行は貸出金残高が中小企業や個人向けで増加。貸出金利回りは1・23%と前年同期の水準を確保して低下に歯止めがかかった。「金利競争に巻き込まれないで安定して利益が出せる体制になりつつある」(柴田久頭取)。マネックスグループを活用した金融商品の販売など新たな事業領域を強化する。
一方、ほくほくFGの北陸銀行は貸出金利息の減少に加え投資信託や保険販売手数料が減り、役務取引等利益も落ち込んだ。国債等債券損益もマイナスで経常減益。「利ざやが拡大する環境にはない」(庵栄伸頭取)と、今後も厳しい経営環境を想定する。
【関西・中四国】預金・預かり資産拡大
関西および中・四国の主要地銀6行の2017年4―9月期は、好調な企業業績を背景に預金や預かり資産などの量を拡大した。ただ収益はバラつきがある。
貸出金残高は京都銀行が初めて5兆円の大台を突破。地域における資金需要は底堅く、広島銀行や中国銀行も順調に伸ばした。ただ収益は各行、構造が異なる。伊予銀行は資金運用収益の改善や株価上昇が寄与し、連結の経常利益と当期利益が4―9月期として3期ぶりの増益。
一方、池田泉州銀行は米国債償却による含み損処理などから、単体の実質業務純損益が4―9月期として初めて赤字(前年同期は97億円の黒字)。
各行、長引く低金利環境に収益力の向上や多様化で対抗する。広島銀は非金利収入を重視。同比率は「証券会社の子会社化などで33・6%に達した」(池田晃治頭取)。
今後は40%超えを目指す。池田泉州銀は事業性貸出金が伸長。「法人顧客取引を伸ばし、手数料収益拡大につなげる」(前野博生取締役常務執行役員)。
京都銀はコンサルタント機能を強化して「預金と貸し出し両面の拡大、預かり資産の増量、運用利回りの改善に努める」(床本敬三常務執行役員)。
近畿大阪銀行は「不動産や国際業務など法人ソリューション事業の収益拡大」(中前公志社長)に力を入れるなど各行、法人に対する手厚い営業戦略が収益拡大のカギと言えそうだ。
【九州】構造変化への対応急務
九州のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と西日本フィナンシャルホールディングス(西日本FH)はマイナス金利の影響による逆風が続く。
厳しい経営環境をFFGの柴戸隆成社長は「金利の下げ幅は徐々に小さくなっているが、まだ影響は続く」と下期も大きな変化はないとみる一方で、西日本FHの谷川浩道社長は「貸出金利益に下げ止まりの兆しが表れている。最悪期を脱する糸口が見えている」とした。
17年4―9月期は、ふくおかフィナンシャルグループが傘下の福岡、熊本、親和の3行合算の国内資金利益が719億円と2期ぶりに増加に転じた。貸出量は増加したがマイナス金利による利回り低下をカバーしきれなかったが、有価証券の利息増などで補った。
西日本FHは傘下の西日本シティと長崎の2行を合算した実質業務純益で減益。谷川社長は「引き続きマイナス金利政策が負の影響を及ぼす厳しい内容」と振り返った。
また柴戸社長は「この10年で銀行全体の取引件数はざっと3割増えているがネットバンキングなどが飛躍的に増えており、銀行の窓口に来る顧客は3割減っている。この構造変化に対応せねば生き残れない」と強調した。
日刊工業新聞2017年11月16日