"空飛ぶクルマ"という夢を実現するために

CARTIVATOR代表 中村翼×TechShop Japan 代表取締役社長 有坂庄一

 2020年の世界デビューを目指している、日本発の空飛ぶクルマ「SkyDrive」。開発を手がけているのは、愛知と東京に拠点を構える有志団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」です。

 組織の枠を超えて有志が集い、"次世代モビリティー(移動手段)"というイノベーションに挑むその活動に共感した富士通とTechShop Japanがスポンサーとなり、会員制オープンアクセス型DIY工房「TechShop Tokyo」にCARTIVATORの東京拠点が設置されることになりました。

 そこで今回は「未来を創るチカラspecial」をお届け。CARTIVATOR代表 中村翼さんとTechShop Japan 代表取締役社長 有坂庄一の対談を通じて、イノベーションのヒントを探ります。
有坂庄一さん(左)と中村翼さん

自分がクルマからもらった夢を次の世代に


有坂 中村さんに初めてお会いしたのは、4ヶ月くらい前ですかね。空飛ぶクルマの話をお聞きして、久々にワクワクしたのを覚えています。普段、未来を感じることってそんなにないじゃないですか。でも、SkyDriveには強烈に未来を感じるんです。映像を見たとき、まるでSF映画のワンシーンを見ているような不思議な感覚になりました。おそらく今、日本で一番刺激的なプロジェクトじゃないでしょうか。

中村 ありがとうございます。未来が見えにくいというか、なんとなく閉塞感が漂う世の中で、空飛ぶクルマの存在が、予想以上にポジティブに受け止められているなと感じます。我々は、子供たちにも分かりやすい近未来のカタチをテーマに開発をしているんですけど、上の世代の方からも「カッコイイね」「面白そうだ」とたくさんの反応があって、嬉しい驚きです。

有坂 欧米では、交通渋滞の緩和や災害時の活用などを目的に、空飛ぶクルマの開発が盛んに進められていて、競争も激化していますよね。中村さんたちはなぜ、空飛ぶクルマを開発しようと思ったんですか?

中村 私自身、小さいころからクルマが大好きで、将来は自動車エンジニアになってスーパーカーを造ろうと決めていました。自分がクルマからもらった夢を、次の世代にも伝えたいっていう思いがずっとあったんです。それで自動車会社に入ったんですけど、今の若者って、クルマにそれほど強い憧れを持っていないんですよね。

 そこで、彼らが心から乗りたいと思えるような、まったく新しいクルマのカタチを考えてみようと、同期を中心に仲間を集めて有志団体を立ち上げました。最初はクルマ好きが集まるサークルみたいなノリでしたね。「次世代の夢につながるモビリティー(乗り物)ってなんだろう」と議論するなかで100個ぐらいアイデアが出たんですけど、一番"夢がある!"と感じたのが、この空飛ぶクルマでした。

普通の道路からすぐに空に飛ぶことができる


有坂 これ、仕組みとしては、どうなっているんですか?ちょっと教えてください。

中村 マルチコプタータイプと言って、ドローン(小型無人機)のようにプロペラを回転させて、垂直に上がっていく仕組みです。ドライブモードの時は3輪タイヤで走るのですが、飛行モードになると四隅のフェンダー(プロペラガード)が変形して、プロペラを回して浮上します。飛行機のように羽根がついているタイプだと滑走路や大型の車庫が必要になるのですが、変形型マルチコプターなら垂直離着陸が可能でサイズもコンパクト。普通の道路からすぐに空に飛ぶことができます。

有坂 この仕組みっていうのは、どうやって思いついたんですか?

中村 どうやってクルマを空に飛ばすかと考えたとき、まず最初にイメージしたのは、"デロリアン"。映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる、クルマ型の空飛ぶタイムマシーンです。でも、計算してみると構造的に実現するのは不可能だと分かって。そこで目をつけたのが、ドローンでした。

 当時、アメリカではドローンがすでに市販されていたし、日本でも少しずつ使われるようになってきていて、こんなのもあるな、と思ったんです。実際に人を乗せる重量にしたらどのぐらいになるんだろうって計算すると、意外と自動車のサイズぐらいに収まる。これならパーソナルに使えるものになりそうだということで決めました。
SkyDrive 1/43スケール模型

お金はできる限り製作費に


有坂 でも、実機の製作となると、相当な資金が必要になりますよね。

中村 資金面は常に悩みのタネでした。1/5スケールの試作機で製作費が50〜60万かかるんですけど、当時メンバーが10人ぐらいいたので、頭数で割って一人5〜6万。最初は大人のお小遣いでなんとか作れたんです。でも、1/1スケールの試作機となったら、いきなり数千万の世界で(苦笑)。そこで、クラウドファンディングで資金を募ったり、SkyDriveに近い構造のマルチコプターを作られている方と共同研究して実験にかかる費用をできる限り抑えました。ただ、世界デビューに向けてしっかりしたものを造ろうとすると億単位になるので、現在では、様々な企業からスポンサー支援をいただいて開発を進めています。

有坂 最初の頃は、きちんとした開発拠点もなかったとか?

中村 はい。お金はできる限り製作費に回したかったので、廃校になった小学校をガレージとして借りたり、メンバーの家やカフェでミーティングしたりという感じでした。休みの日に合宿を組んで短期集中的に開発を進めたりもしましたね。今回、富士通さんとTechShopさんからご支援いただいて、最先端のDIY工房を東京拠点として使えるようになったのは、本当にありがたいです。

互いに必要としているものを補い合える


有坂 支援というよりは、どちらかというと「面白そうだから、仲間に入れて」という感覚なんです。空飛ぶクルマができていく過程を間近で見てみたいという興味がすごくありましたし、中村さんの人柄や熱量に惹かれて、微力ながらお手伝いできることがあればと思いました。

中村 TechShopは、ロケーションや雰囲気がすごくいいですよね。六本木という立地は仕事帰りでも集まりやすいですし、フロアも広々としていて居心地がいい。開放的な気持ちになれて、アイデアも出やすいです。あと、実際にプロトタイプを作っていく段階で、金属加工とか、溶接とか、いろいろな工作機械が必要になるんですけど、ここは一流の機械が揃っている。TechShopはソフトとハードの両面から、ものづくりのマインドを高めてくれる場所です。

有坂 イノベーションにとって環境って重要ですよね。まず、第一にオフィスではなかなか自由な発想って生まれにくい。だから、何かしらオープンなところっていうのは必要だと思います。

 それに、イノベーションって、0(ゼロ)からいきなり新しいものがポンっと生まれるってことは、そうそうない。"既存値と既存値の結合"のようなもので、いろいろな技術や知識が掛け合わされて生まれるわけです。そうすると、オープンであることに加えて、コミュニティが生まれやすい環境であるというのもポイントだと思います。

 だから、中村さんたちには、今後TechShopをどんどん活用していただいて、ここのコミュニティにもっと交わっていただきたいなと思っているんです。ここには様々な技術や知識、アイデアを持った人たちが出入りしているので、互いに必要としているものを補い合えるようなシナジーが生まれるはずです。

中村 新しいことをやるときに、コミュニティってすごく大事な要素だと思います。CARTIVATORのチームも、職種や企業の枠を超えていろいろな人が集まっていて、今100人くらいメンバーがいます。10代の学生から、50歳代のベテランまで年齢も幅広いです。

 エンジニアやデザイナーを中心に、鳥人間コンテストやロボコン経験者、ビジネス系のベンチャー経営者、自家用のヘリコプターを所有している人なんかもいます。持っているスキルは様々ですが、みんな、既存の仕事で満足しきれなくて、ものづくりをやりたい情熱が溢れている。そこは共通していますね。
CARTIVATOR代表 中村翼さん

メンバーのやりたいことをどんどん引き出す


有坂 最初、仲間内でやってたベンチャーが急拡大して、100人企業になった状態ですよね。人数がそれだけ変わってもマネジメントができるというのもすごい!

中村 僕自身が全てのマネジメントをやっているわけではないのですが、全体をなるべく少人数のチームに分けて、細かいタスクに関してはチームごとに解決してもらうようにしています。みんなやりたいことをやるために集まっているので、ピラミッド型の経営だと活動が成り立たなくなると思うんです。ミッションやビジョンをブレないようにするというのはリーダーとして心がけていますけど、それ以外は、メンバー発意でどんどんアイデアを出してもらうようにしています。

有坂 "イノベーション型経営"っていうのかな。そういうカタチが理想的なんでしょうね。

技術だけじゃなく働き方も最先端


中村 本当に、個人の発意から出てくるアウトプットって恐ろしいくらいすごいんです。変な人が集まってるっていうのもあるんですけど(笑)。あれこれと指示を出すよりも、メンバーのやりたいことをどんどん引き出したほうが、トータルでアウトプットのレベルは高くなると思います。

 応変に動きながら開発を進める"モバイル型"であり、多様な人材が集まる"オープンイノベーション型"であり。チームを小さく分けて総括させるっていうやり方も、それが最適なものとして、徐々に形作られていったわけで。このプロジェクトは、技術だけじゃなく、働き方も最先端。その点にも注目すべきだと思います。

中村 こういうと、なんだか偉そうに聞こえてしまうかもしれないんですけど、働き方改革にしても、オープンイノベーションにしても、「目的は何なのか」の議論が抜けがちだと思うんです。例えば、空飛ぶクルマを作ろうとしたら、一企業じゃ当然できないわけで、必然的にオープンイノベーションになるんだと思います。

有坂 全く同感です。やりたいアイデアとか熱い思いというのがあって初めて、共創やオープンイノベーションは実現する。目的じゃなくて手段なんですよね。

中村 もっと具体例がいろいろ出てくるようになると「そんなのもあるんだ」って、後に続くような人たちが出てきて、新しいビジネスのやり方が広がっていくかもしれないですね。例えば、うちは、メンバーの中にプログラミングを学んでいる中高生もいるんですよ。っていうとみなさん驚くんですけど、彼らが何をやっているかというと、SkyDriveのゲームを作っているんです。出会いのきっかけはある講演なんですが、その時に「ゲーム作ってみたいんだ」って言ったら、「僕たち作れますよ」って言うんで、「じゃあ、一緒にやろう」みたいな、軽いノリで。

有坂 それは、また新しいですね。オープンイノベーションっていうと、他企業とか、異業種といった"横の繋がり"に目がいきますけど、世代を超えた"縦の繋がり"もあるんですね。

中村 あえて中高生を狙ったわけじゃなく、求めているスキルとマインドが一致したというだけなんです。僕ら世代にもプログラミングをやれる人はいますけど、どっちかというと今の子たちの方が慣れているし、彼らは彼らで、横で実物を見ながら、それをモチーフにしたゲームを作れるというのがすごく刺激的みたいで、インタラクションがある。すごく新鮮です。

しびれるくらい短期間のほうが…


有坂 「2020年にSkyDriveを世界デビューさせる」というのを目標に掲げていらっしゃいますよね?

中村 はい。2025年には市販化を予定しているんですけど、その手前にもう一つ、大きな目標を刻みたいと思って、プロジェクトを立ち上げた時、一番最初に決めたのが「2020年世界デビュー」でした。

有坂 2014年にスタートしたから開発期間は6年。これって、かなり短いですよね。

中村 10年となるとモチベーションがなかなか持たないし、3年だと実現が厳しい。6年だと、頑張ればなんとか行けるというラインなんです。残り3年で、みんなヒーヒー言ってるんですけど(笑)、しびれるくらい短期間のほうが、やってやろうっていうモチベーションにはなると思います。

有坂 今は、どういう段階なんですか?

中村 来春までには無人安定飛行実現を目指してプロジェクトを進めているところです。先日、1/1スケール試作機の設計とデザインが固まったので、これからTechShopの機械を使って、部品などを作っていきたいと考えています。そして、無人安定飛行の確証が得られたら、次はいよいよ有人飛行です。ただ、あと3年しかないので、実際、有人機の設計も並行で進めています。こちらは法規の話も絡んでくるので、そのあたりの調査もやっていますね。2019年の頭には、人を乗せて約30メートルの高さで安定飛行させる予定です。

有坂 30メートル!結構高いですね。

中村 1回飛び上がって数メートルで安定してしまえば、あとはパワーがあれば上がっていくこと自体はできるんです。まずは数メートルのところで安定浮上するというのが課題ですね。そこがしっかりできないと、次にいけないので。
TechShop Japan 代表取締役社長 有坂庄一氏

「下町の職人さんとも連携したい」


有坂 これからTechShopで実現してみたいアイデアってありますか?

中村 まず、SkyDrive の1/20スケールの模型を作って、こちらに常設展示させていただきたいなと思っています。それと、手のひらサイズの小型模型を自分の好きなデザインにカスタマイズするDIYイベントなんかもやってみたいです。子どもたちとやったらすごく楽しそうですよね。

 あとは、SkyDriveの足回り設計を東京でやっているので、TechShopで試作機の部品を作りたいと思っています。東京は大田区や墨田区に自動車関連の素晴らしい町工場が沢山あるので、下町の職人さんとも連携したいです。やはり人と人のつながりというのはイノベーションにとって欠かせない要素だと思います。

有坂 CARTIVATORさんがここを拠点としてくださることで、TechShopのメンバーにも、すごくいい刺激になると思います。これから世間の注目も益々高まっていくでしょうしね。有名になると批判も増えると思うのですが、気にせずに突き進んでいただきたいですね。

中村 ネガティブな意見を聞くこともありますが、なるべく余計なことは耳に入れないようにしています。誰かに言われて止めるぐらいだったら最初からやっていないですし、立ち止まっている時間はないので。商品化するときの議論は、もちろん徹底的にしなきゃいけないですけど、その前のフェーズでは、自分がやりたいからやるんだって突き進んだほうがいい気がするんです。

有坂 基本的に新しいものって、そういうモチベーションで生まれるものがほとんどですよね。「やりたいからやるんだ」「欲しいから造っちゃった」って。そのうちの何百分の1が成功したら、全体で見ると十分イノベイティブなんですね。

中村 最近、いろいろなところで講演させていただくんですけど、特に私と同じ年代が、みんなすごくムズムズしているんです。せっかくスキルもアイデアもあるのに、いろいろな制約があってなかなか出せないって。構造的な問題なのでなかなか難しいとは思うんですけど、"産業の新陳代謝"を自分たちで能動的に起こしていかないと、そのムズムズ感はなくならないんじゃないかな、と思います。

有坂 技術だけじゃなく、働き方という意味でも、すごくイノベイティブなプロジェクトで、今後が本当に楽しみです。完成したら、乗らせていただけますか?頑張ってライセンス取りますから(笑)。

中村 もちろんです!ぜひ一緒に空をドライブしましょう。

CARTIVATOR代表
中村翼
1984年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。2009年、大手自動車会社に入社し、量産車の設計に従事。一方で、2012年に業務とは別に、有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)を設立し、次世代にふさわしい空飛ぶクルマの実現を目指している。現在、100名のメンバーと共に、組織や世代を越えた形で、2020年に向けて開発を推進中。
TechShop Japan 代表取締役社長

有坂庄一
1998年富士通株式会社に入社、米国、欧州、アジア各国におけるICTシステムのマーケティングを担当。2015年10月テックショップジャパン株式会社代表取締役社長に就任。日本におけるメイカームーブメントを拡大させ、多くの人が創造力をカタチにする社会を目指し、2016年4月に東京都港区で "TechShop Tokyo" をオープン。
「全てのアイデアは良いアイデアで、試す価値がある」

富士通ジャーナル2017年11月2日
富士通ジャーナル

明 豊

明 豊
11月14日
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富士通のオウンドメディア「富士通ジャーナル」のコンテンツです。とてもワクワクする対談です。海外ではスタートアップが空飛ぶクルマに続々チャレンジしており、日本の大手企業もガッツリ出資する動きがもっと出てきていい。

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