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NECが東大に奨学金制度をつくった産学連携の新しいカタチ

データ教育通じ人材育成
 企業と大学が共同で人材育成に取り組むことで、産業界と学術界に通じた橋渡し人材を育成する試みが広がってきた。NECは東京大学に奨学金制度を設立。東大は企業コンソーシアムを立ち上げ、社会人教育のカリキュラム作りを進める。学位を授与できない国立研究開発法人も大学と連携して学生を橋渡し人材に育て上げようとしている。

 「日本のデータ人材はまったく足らない。共同研究や教育、あらゆるアプローチで底上げを図る」とNECの西原基夫執行役員は強調する。

 NECは東大に奨学金制度を新設。3年間、毎月20万円を給付し、大学院生が研究に集中できる環境を整える。同社研究企画本部の仙田修司シニアマネージャーは「まだ規模は数人と小さいが、社会への問題提起と捉えてほしい。他の企業も続いてくれれば」と期待する。

 大学の教育を産業界が直接支援する例は増えている。NECはインターンシップ(就業体験)として研究の場を提供する。大学院生を研究所に迎えて数カ月間、企業の研究に打ち込んでもらう。

 すでに海外の留学生は半年から1年間受け入れているが、日本の大学はインターンシップが単位として認められないなど、長期間学業から離れることが難しかった。大学と調整して研究期間を延ばし、学生に大きなテーマに挑戦してもらう。

 大学の教育ノウハウを産業界に移転する例もある。東大の数理・情報教育研究センターは、三井住友フィナンシャルグループや新日鉄住金ソリューションズ、NECなどとコンソーシアムを設立。社会人向けのデータ教育カリキュラムを整備し、2018年には社会人教育を始める。内川淳三井住友銀行データマネジメント部長は「全行員のデータリテラシーを向上させたい」と期待する。

 産業技術総合研究所などの国立研究開発法人も人材育成の場になっている。もともと国研は学生に学位を与える機能はない。そこで企業との共同研究予算で大学院生を雇用することで、学生は生活費が保障され研究に集中できる。産総研の契約職員として機密管理の研修を受けるため、企業は職員と同等の情報管理が可能になる。

 学生を送り出す大学側にとっては、基礎研究を企業との共同研究に結び付けられる。一つの研究室で材料やデバイス、製造技術などをそろえることは難しいが、産総研と組めば事業性検証の一歩手前まで引き上げられる。

 この連携にあたり産総研は大学の研究と企業の開発をすり合わせを行う。産総研の平塚淳典ナノバイオ材料応用グループ長は「開発の中で、基礎原理に立ち返るテーマを学生に任せる」と説明する。

 ただ企業との共同研究予算で雇われる学生は学生雇用制度全体の1%程度と限定的。実践的なテーマを扱うため、自発的に学べる学生でないとうまく機能しない。教育と産学連携の両立は簡単ではないが、「産学連携を経験すると、双方の状況を踏まえて連携を推進する人材となる。どこに就職しても活躍できるだろう」(平塚グループ長)と期待する。
                      

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年10月27日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 人工知能分野に限った話ではありませんが、修士卒など研究志向の若手が大企業に入り、この数年間で自分が任される仕事のつまらなさやキャリア・実績にならないと絶望することは少なくありません。人工知能分野では高額引き抜きも多いので同期の話を聞けば海外に目移りしてしまいます。  産総研や理研などの産学連携プロはその受け皿になると思います。大学から博士号、企業から給与、国研の研究環境。若手は2倍くらい働くことになりますが、産学両方のキャリアを開くことになります。大学教員はクロスアポイント制度で大学と国研など、複数組織を兼務するようになりました。優秀な先生は複数の組織からそれぞれ給与と研究環境を提供されます。細かい立て付けは調整が必要ですが産学の学側は準備着々。産側が不満をためている若手を見出して送り出せるかどうか、社外のチャンスに開かれた組織と示せるかどうかだと思います。

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